第54話 また聞いてしまった……
その後レンの講義は丸一日続いた。
その間、沸き起こる質問とはてなマークの嵐を丁寧に解決していった。
そんな反応になるのも当たり前だ。
彼らにとっては不可解な出来事の嵐でもあったのだ。
肌感だけでも味わってもらおうと、実際に鎧を付けさせた冒険者の一人に軽く”穿打”を放った。
打たれた冒険者は鎧を突き抜けてくる衝撃に困惑しながらも、その技術に大いに感動した様子だった。
その流れで、次々に鎧を着込んだ冒険者を穿つハメになったのだ。
レンが教えを乞う冒険者一人一人にしっかり対応していると、気がつけば日が暮れ始めていた。
流石にレンは疲労感を隠しきれず、それを察したエミーが合間を見計って終礼をかけた。
「レン様! ありがとうございました!」
「習得できるよう、頑張ります!」
「まだ質問が……明日また来ます」
そう言って、生徒達は帰路について行った。知らぬ間に生徒は朝の倍にもなっている。
中には作業を放り投げた職人も混じっていたようだ。
「ほ〜〜随分盛況だったんだな〜〜」
呑気そうに言ったのは、レンとアルド、サリーに合流しに来たスミス。
彼は今日、柊亭の再建作業を手伝いに行っていた。
「お疲れ様、ご両親と食事はいいのかい?」
「何言ってんだ、お前らも柊亭に呼ぼれてんだよ。よければ晩飯どうだ?」
「いいね! お腹減った!」
男ども三人は、すっかり空っぽの腹をさすって柊亭に歩を進めようとした。
「あれ? 飯といえば、サリーは?」
「あそこ」
いつもなら食事と聞くだけで寝てても反応できる彼女であるが、今は研究心の方が勝っているらしい。先ほどレンが砕いた煉瓦の破片を入念に調べている。
「お〜〜い、サリー! メシだぞ〜〜!」
まるで飼い犬に呼びかけるようにスミスは遠くに見えるサリーへ声をかけた。
”メシ”と聞いて、一瞬首だけがこちらを向いたが、サリーは「後で行くわーー!」とだけ言って再び調査に戻った。
「分かったーー! 遅くなるなよーー!」
◇
柊亭はスライムの侵攻によってほぼ全壊状態だった。
辛うじてキッチン部分だけは無傷だのが店主のフィラメにとっては唯一の救いだろう。
彼はひたすら鍋を振るっている。
まるで店が破壊された悔しさをぶつけるように。
「さあ! できたぞ!! ヴェルサ、運んでくれ!」
「はーーい!!」
小気味よく、次の料理へ取り掛かる。
キッチンから覗く店の雰囲気はすっかり変わっていた。
変わりすぎなぐらいだった。外と言っていいくらいに。
「全くぅ! 見通しが良くて良いなコレ!!」
そう言ったフィラメの目にはしっかり涙が滲んでいる。
広かったホールは瓦礫の山と化していたが、今ではすっかり綺麗な平地に戻っていた。今日一日をかけて、瓦礫の撤去を行ったおかげで屋台くらいなら営業できそうだ。
フィラメと手伝いに来ていたノエルは敷地の中央に置かれた大きなテーブルに料理を配膳していく。
「手伝って貰っちゃって悪いわねぇ。教会の方はもういいの?」
「いえいえ! これも炊き出しを手伝ってくださったお礼です!」
彼女は大皿を片手に明るく言った。
ノエルの住居でもあった教会は完全に破壊され、再建の見通しも立たない状態だ。なので、それぞれのシスター達はメルクの旅やどをそれぞれ貸し出して貰っている。
冒険者ギルドもメルク復興のため暫くは働かなければならない。
エミーと話し、ノエルを募集をかけていたパーティに紹介するという話は延期されていた。
彼女自身もそれで良かった。
メルクは今、それどころではないのだから。
日はすっかり沈み、星空が瞬き始めた。
「お〜〜い! 連れてきたぞ〜〜!」
遠くからスミスの声が聞こえる。
ノエルが振り向くと、闇の中に3つの影が見えた。
「レン様……アルド様……」
ノエルの鼓動は少し早くなり、思わず手に力が籠る。あの日、聞いてしまったことの真意を確かめなくては……。
その想いがノエルを緊張させた。
『……神を打破する方法について……』
あの日、病室の外から聞こえてしまった言葉。
神に仕える修道女、ノエルの心は深く引っかかっていた。
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