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皇帝陛下と初対面!

 秋の気配が近付き、日中でも肌寒く感じる日が多くなってきた十月のある日、ジルは皇族達が住む宮殿に正式に招待され、足を運んでいる。


 大広間へと続く扉の前、初めて袖を通す宮廷礼服がおかしくないかと、見下ろす。

 子供っぽくならない様に、それでいて地味になりすぎない様に、散々迷った末に決めた色はロイヤルブルーだ。同色の長いトレーンや、自分のプラチナブロンドの髪、アクセサリーに着けたダイアモンドのせいで、寒々しい印象になってはいないだろうかと心配になる。


(でも、初めてお会いする皇帝陛下の前で、派手派手しい色の服装なんてあり得ないし、これでいいわよね……)


 そう、今日ここに来た理由は、皇帝陛下に謁見するためなのだ。

 バザル村での件が解決した時、ハイネに叙爵を持ちかけられたわけだが、ついに現実になるらしい。話半分に聞いていたジルは、彼が本気だった事に驚き、そして真剣に悩んだ。

 一応研究職に就いて生活するならいらないんじゃないかと主張してみた。しかし、ハイネから、貴族達と関ってもらいたいと言われたし、時々ハイネの執務の補助をしてほしいと頼まれた。その為には爵位が有った方が絶対にいいらしいと押し切られてしまったのだ。


(そもそも私、帝国出身ですらないのに、いいのかしら本当に……)


 ここまで来て、再び迷いが生まれる。

 扉が開いたら、帝国中の貴族達が埋めつくす中を、たった一人で進まなければならない。

 不安に押しつぶされそうになり、下を向く。

 扉の両脇に立つ衛兵達の視線を感じる。こんな所で、みっともない態度をとるジルを怪訝に思っているのだろう。


 しょうがなく、背筋を伸ばし、時が来るのを待つ。


 十分……、十五分……、思ったよりも長い時間が経過する。


 場所を間違えたのだろうかと不安になるには充分なくらいの時間が経ってから、扉が開けられた。


 大広間から出て来たのは、黒の長上着をキッチリ着込んだハイネだった。礼装姿を初めて目にし、ウッカリ見惚れそうになるが、彼の背後に、ズラリと並んだ貴人達の姿が見え、表情を引き締めた。


「ジルさん、エスコートしましょう。お手をどうぞ」


 上品な所作で手を差し伸べてくれる彼に、ジルは目を白黒させる。

 普段とキャラが違うのが、とても怖い……。

 それでも、この雰囲気の中を一人で歩きたくはないので、おずおずと彼の手の上に自らの手を重ねる。


 ユックリとした足取りで、大広間の中に導かれる。

 これ程の大人数がいるというのに、誰一人として無駄口を叩く者はおらず、室内は静まり返っていた。


 目線を上げると、玉座に座る皇帝陛下と目が合う。


 ハイネとはあまり似ていないものの、威厳溢れるその姿に、緊張感が高まった。


 怯えている事が、手の震えを通して伝わってしまったかもしれない。痛いくらい強く握られる。


「俺がついてるから、何も心配しなくていい」


 耳の近くで囁かれたら、余計にドキドキする。どうして今、そんな事をするのか。


(絶対変に思われちゃったわよね!?)


 逃げ出したくなる心のまま、皇帝陛下の御前まで来てしまった。


「陛下、ジル・クライネルト嬢を連れてまいりました」


 ハイネに紹介され、ジルは片足を後ろに引き、お辞儀をする。


「ジル・クライネルトと申します。陛下にお会いする事が出来、光栄でございます」


「うむ。そなたの話は常々聞いておる。……例の物をここに」


 近くで見ると、皇帝はハイネと同じ灰色の瞳をしていて、見ていると、何故だか心が落ち着く。

 

 命じられた側仕えの者が皇帝の傍らに跪き、黄金に輝く棒状の物を渡す。


「こたびの戦争の勝利のため、尽力してくれたそうだな。そなたの働きで、休戦を解除し、我が国の領土を大きく広げる事が出来た。褒めてつかわす」


「勿体ないお言葉でございます」


 この様に厳かな雰囲気の中でも返事が出来るのは、きっと隣にハイネが居てくれるからだ。

 彼の手の熱さに意識を向けていると、緊張が薄れる。


「終戦後にはマリク伯領の不正を発見したらしいな」


「え……それは……」


 皇帝が確認する内容には少し誤りがある。

 自分の力だけで成し遂げたわけではない。エミール・フォン・ファーナーや、彼の父が雇った探偵達が居たからこそ短期間の解明に至ったのだ。それを伝えようとしたのだが、ハイネに口を塞がれ、阻まれる。


(ハイネ様! 何て事なさるの!?)


 背後で騒めく貴族達。絶対後で噂されそうだ。


 皇帝は何故か面白そうな表情でハイネを見つめ、その次にジルに視線を移した。


「珍しい物を見た」


「俺の『特別』ですので」


 ジルの傍で、彼等にしか伝わらない言葉を交わし合う親子。自分の事を何と説明しているのだろうか?


「ジル・クライネルトよ」


「あ、はい!」


 ハイネの身体を押し、自分から引き離そうとしていたのだが、皇帝に名を呼ばれ、姿勢を正す。


「そなたに男爵位を授けよう。そして――」


 皇帝は玉座から立ち上がり、ジルのすぐ目の前まで歩いて来た。差し出されたのは小ぶりな金笏。

 何を意図しているのか分からず、ジルは瞬きする。


「これは上位貴族が持つことになっている金笏。そなたには五年間マリク伯領を治めてもらう。その後は領地を国に返却し、宮廷貴族になるように」


「ええ!? 何故そのような事に……!? う、受け取れませんわ!」


 大広間のざわめきが大きくなる。何故新参者にマリク伯領を任せるのか疑問なのだろう。

 マリク伯爵は、国に農産物の収穫量に関して虚偽の報告をしていた。そして多数の殺人……。その他諸々の罪により、現在彼は牢に入れられている。

 爵位の剥奪は、確かにあり得るのかもしれない。だが、それをジルに与える理由が分からない。


「マリク伯爵は、ジル・クライネルト嬢が代表を務める法人に多額の借金があった。そして担保となっていた屋敷は現在取り壊され、土地しかない。借金額に対して、土地の売却だけで補えない部分を、領地からの税収で賄わせる事に決まった」


 隣に立つハイネが良く通る声で、ジルに、そして貴族達に説明する。

 担保に供してもらっていた不動産のうち、建物分は、バシリーの叔父であるファーナー侯爵にハチの巣にされてしまったらしい。だから少々悔しかったのは事実だ。

 しかし、それだけの理由で伯爵位を得てもいいのだろうか?

 

「ジル、親父の手から金笏を受け取れ。老体に重い物を持たせ続けたら可哀そうだろ?」


「ほぅ……。お前良い度胸しているじゃないか。表に出て儂の剣の相手をしろ。老体ともやしのどちらが先にくたばるか試してみよう」


「いいぜ。今日を世代交代の日にしてやるよ」


 ハイネは皇帝の手から金笏をむしり取り、ジルに押し付けた。

 小ぶりながらも重みのある笏に震える。


「うそぉ……!?」


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