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【点】 二〇一四年・E県

私が、晴れ渡った青い空よりも、どんよりとして灰色の空が好きになったのはいつの頃からだったのだろう。


思い出せないということは、生来の私の嗜好がそうであったのかもしれない。


光を遮る灰色の空は、『世界』を曖昧にしてくれるように思える。


もちろん、それは、私の妄想であるということは分かっている。





……まったく笑える話だ……。






「先生、また空を見ているのですか?」と半ば呆れたような唯君の声が聞こえた。


彼女は、今のような空は嫌いらしく、日差しが燦々と照りつける夏の青空が好きだとよく言っている。


私は、そんな彼女のことを少しからかいたくなり「お肌には、今のような空の方が良いのではないですか?」と言った。


「うっ……それはそうですけど……」唯君は、明らかに困惑を顔に出した。彼女にはそんな顔は似合わない。


だから、直ぐに、私は、「でも、私とは違って、確かに貴方には青い空の方が似合いそうですね」とフォローを入れた。

 

唯君に笑顔が戻った。


彼女の表情は、コロコロとよく変化する。


「先生も青空の下の方が似合いますよ。そうだ! 夏になったら事務所旅行で海に行きませんか?」


「事務所旅行? この事務所にはそんなものはありませんよ」


「それは知っています。だから作りましょう、先生」と唯君は、鼻息を荒くして主張した。かなり気合が入っているようだ。


私は、そんな唯君の勢いに少し押されぎみになった。

 

おそらく彼女は、私に気を遣ってくているのだろう。



……この前も私のひどい姿を見せたばかりだというのに……いや、だからか……。



「……旅行ですか……」


「日帰りでもいいですから海に行きましょう。ね、先生」


「いつも頑張ってくれている唯君の労をねぎらいたいとは思うのですが……海はちょっと……」


「じゃあどこでもいいですから、どこかにいきましょうよ」





……どこか……? 





なんだ……このひっかかりは……? 





『センセに頼みたいことがあるのだが』





そうか……そうだった……。






『なに、簡単なことだよ。今週末一緒に行ってもらいたい場所があるんだ』


 




頭に痛みが走る。






『ひみつだ』






耳鳴りが始まる。






『今日のは、全て蘭の発案だからな』


 




……そうだ……ひつみだったんだ……だから……私は……






『支倉様、ここでわたくしの大好きなピ……ス……コ……』






かつての『可能性』を直視してしまったんだ……。


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