最終話 王宮の晩餐会
ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
これで完結となります!
またどこかでお会いしましょう!
あずーる
カラン、と木扉が開いた。
「いらっしゃい。……カウンター空いてますよ」
暖簾を上げて入ってきたのは常連の冒険者たち。
甲冑のあちこちに煤や泥の痕を残しているが、にこやかな笑顔を見せている。
「ガルドさん、ただいま! 樹海の方、片付いたぜ!」
「オークロードも無事に討伐されたってよ。もう王都へ群れが押し寄せてくる心配はねえ」
「そうですか。……皆さん、無事に戻られて本当によかった」
こうして常連客たちが笑顔で店に来てくれるのも、バラムや鍛冶師たちが寝る間も惜しんで剣を打ち、冒険者や騎士たちが戦ってくれたおかげだ。感謝してもしきれない。
「そういえばさ、前線で配られた剣あっただろ。あれ、ガルドさんが鍛冶師たちに教えたんだってな? すげぇな」
「いえ、実際のあの剣を打ったのは鍛冶師の方々ですよ。俺は少し手伝いをしただけにすぎませんから」
冒険者は腰から刀身の細い直刀を取り出すとコンコンと叩いた。
「本当か? 俺にこの剣を渡していた鍛冶師なんてガルドさんには頭が上がらないって言ってたぞ」
「いい剣を作ってもらえたんですね」
「ああ、これからはあの鍛冶師に剣を作ってもらおうと思うんだ。こんなに身体にぴったり合う剣はそうそう出会えねえ」
冒険者は歯を見せてニカっと笑った。
そこへ扉が開き、仕立てのいい上着を着た男が入ってきた。
ぽっこりと突き出たお腹。
豊かに実った顎髭。
ゴドフリーだ。
「ほっほ、お邪魔しますぞ、ガルドさん」
「ゴドフリーさん! お久しぶりですね。しばらく姿をお見かけしなかったので、どうされたのかと思っていましたよ」
「いやぁ、オークキングを育てるのに手いっぱいでしてな」
ゴドフリーが手を叩いて合図をすると、従者が大きな保冷箱を店内に運び込んできた。
蓋が開けられると、そこには見事な霜降りの入った極上の肉塊。
鮮やかな赤身の中に雪のように真っ白な脂が走っている。
俺はこれほど上質な肉を今まで見たことがない。
はっきり分かる。
これは、かなりいいオーク肉だ。
「これは……すごい肉ですね。艶も脂の乗りも完璧だ」
「むふっ、ガルドさんにいち早く見せたくてね、馬車を飛ばして来ましたぞ」
「俺に……?」
ゴドフリーはバンッと大きなお腹を叩いた。
「君のために手塩にかけて育てた肉ですからな、最高の料理に仕上げてもらいたい」
願ってもみないことだ。
このオーク肉を俺に調理させてくれるというのか。
「いいですか、こんなにいい肉、もらっちゃって」
「君だからこそだよ。このオーク肉は君にこそふさわしい」
傍らにいた冒険者がカウンターを叩いて立ち上がった。
「な、なあ! その肉……その肉! 俺たちも食っていいのか!?」
「もちろんですとも」
ゴドフリーは顎髭を撫でて「ほっほ」と笑った。
「じゃあよ! 今回の戦いで協力した鍛冶師も騎士も俺たちも、全員集めて宴会するってのはどうだ?」
「それはよい考えですな。多くの方に味わっていただければ、これ以上の喜びはない」
「いいですね。助け合った仲間同士、美味しい物を食べて労い合いましょう」
……とはいえ、それだけの人数が集まるとなると、うちの店では狭すぎる。
◇
数日後、王宮の広大な厨房。
今回の封じ込め成功を祝し、王宮側も開催を認めたことで、鍛冶師、騎士、冒険者たちが一堂に会する一大晩餐会が催されることとなった。俺はメインディッシュであるオークキング肉の調理を一任され、王宮の厨房へと入っていた。
「すごいな……。これだけ大きな炉と広い作業台があれば、下ごしらえも一度にできて実に助かる」
大型の調理設備や手入れの行き届いた包丁の数々。
さすが王宮といった感じだ。
王宮の料理人は料理を盛り付けるのが上手で、食べるのがもったいないと思えてしまうほどだった。
特にローストした薄切りオーク肉を花のように巻いたものは本物と見まがうほどで、作り方を教えてもらった。
今度店のメニューに入れたいと思う。
◇
晩餐会が始まり、大広間には焼き上がったオークキングのステーキや煮込み料理が次々と運び込まれた。香ばしい肉汁の香りが広間全体に充満する。
「う、うまい……! やっぱり流石だぜガルドさんはよぉ!」
バラムをはじめとする鍛冶師たちが料理を口へ運ぶなり歓声を上げていた。
上座に座る国王セルシウスも、肉を一口運ぶと満足そうに深く頷き、隣のセシリアに笑いかけている。
その輪の少し離れた場所で、レオンも一皿を受け取り、疑わしそうに口に含んだ。
続けざまに二口目、三口目と貪るように肉を口に運ぶ。
厨房から料理を運んでくる俺の顔を見るやいなやチッと舌打ちした。
「……包丁どころか、剣を作る腕も常識外れなのに、料理までこんなにうまいなんて反則だろうが」
手にしたフォークは二皿目の肉へと一直線に伸びていた。
全く。美味しいならそういえばいいのに。
広間が熱気に包まれる中、ふと背後から掠れた声が響く。
「ガルドさん……」
振り返ると、ドレス姿のセシリアが立っていた。いつもより少し落ち着かない様子で、周囲の視線を気にしながら、棒のようなものを差し出してきている。
よく見ると、刀身を失って柄だけになった片刃剣だった。
「……これは?」
「ごめんなさい。せっかく私のために作っていただいた特別な剣だったのに、壊してしまいました……」
セシリアは申し訳なさそうに深くうつむいた。
俺は差し出された柄を受け取り、握った。
確かに俺がセシリアのために打った剣だ。
刀身が無くなってしまう程の戦いだったんだろうか。
何はともあれ――。
「セシリアさんが無事に戻られた。それだけで十分ですよ」
「ガルドさん……」
セシリアは頬をゆるめたが、まだ何か言いたそうに、もじもじと指先を弄んでいる。
「それで……あの……」
俺は柄だけになった片刃剣をセシリアに返しながら言った。
「また、新しい剣、作りましょうか?」
セシリアが顔をぱっと輝かせた。
「本当ですか……!?」
「ええ、もちろんです。今度はどんな剣がいいですか?」
セシリアはその場でくるりと回って見せた。
「今年の建国祭では……ガルドさんの打ってくれた剣で舞いたいんです! それで……」
「分かりました。最高の舞ができる一振りを準備しておきますね」
「えっと……ガルドさんも見に来てくれますか? 私の舞」
「ええ、是非とも。楽しみにしてますよ」
セシリアは「ふふっ」と笑うと料理の席へ戻っていった。
広間では冒険者たちがオーク肉の皿を奪い合い、賑やかな声が響いている。
「俺はもう当分、オークの顔も見たくねえよ……!」
「嘘つけ! お前さっきから誰よりも勢いよく食ってんじゃねえか!」
「うるせえ! こんなにうまい肉、食えるときに食わねえでどうするんだよ!」
どっと大きな笑い声が上がり、騎士も鍛冶師も冒険者も、そして国王セルシウスやセシリアたちも、分け隔てなく同じ食卓を囲んで笑い合っている。
俺は出来立ての料理を運んで回り、美味そうに食べる客たちの表情を一つひとつ確かめた。
騎士や冒険者たちが口を揃えてうまいうまいと言ってくる。
「まだまだありますから、たくさん食べてくださいね」




