モーニングコーヒーをきみと
発起人:ジンパパ氏のツイッター企画
#朝チュンで始まる物語
https://x.com/ThatAreaKanata/status/2083100321900020024
への提出作品です
たのしかったです
今日のオレの朝は早い。なぜなら愛しい婚約者のミリーが、オレの隣で眠っているからだ。その寝顔は、まるで絵本の中に出てくる天使のようだ。オレはミリーの肩へ布団をかけ直し、ゆっくりとベッドを出た。
窓の外には、さわやかな朝日と鳥の鳴き声がある。世界はまだ眠りの中にあり、オレひとりだけが立っているようだった。ふっと笑う。とても、都合がいい。
部屋をそっと出る。ミリーを起こしてしまいたくなかったし、何者もオレを見咎めることがないようにだ。静かに廊下を移動し、するりと厨房へ入る。
今日は……特別な日だ。
オレは、ミリーといっしょに、大人の階段を上って行く。
椅子に足を置き、作業台の上にある水差しから湯沸かしへと注水する。オレも少し寝ぼけているらしく、いくらかこぼしたが、問題ない。オイルマッチを擦ってコンロに火を点けるのも手慣れたものだ。
湯が沸き上がる前に、ネルドリップとカップをふたつ用意する。そしてコーヒー粉をスプーンメジャーに2杯。少し多いが、当然濃い方がいいからかまわない。
湯沸かしが鳴り響かないように、湯気が出たところで火を消した。この美しい朝には、小鳥の歌声以外の音は野暮ってもんだろう。
カップふたつに、コーヒーを落とす。きっと起きてくるミリーは、この香りにびっくりするだろう。いいコーヒーだからな。なにせ、オレが淹れたんだ。
両手にカップを持って、寝室へと戻る。出てくるときに少し扉を開いておいたから、両手がふさがっていても問題ない。ミリーはまだ眠っていて、オレはそれを確認してから低いテーブルへとふたつのカップを置いた。
「ミリー。おねぼうさん。おきて。コーヒーをいれたよ」
耳元にささやいてみる。ミリーは寝返りをして「ううーん」と言った。オレより年下のミリーは、やっぱりどこか子どもっぽいところがある。だから、早起きも得意ではないらしい。
オレは玄関へ行って、配達されている新聞を取り上げた。コーヒーを飲みながら読むためだ。椅子に座り、片手に新聞を持ってコーヒーをすすった。この苦みが、たまらない。
「んん……ルーク?」
寝ぼけた声でミリーが起き上がった。寝癖すらもかわいらしい。オレは「おはよう、ミリー。モーニングコーヒーをきみと、のもうかと」と、起き抜けのミリーに伝わるようにゆっくりと言った。
「コーヒー? このにおい……」
「そう。いいだろう。こっちへおいで」
ゆっくりとベッドを降りて、ミリーが僕の隣へやって来る。並んで座って、オレはもうひとつのカップをミリーへ手渡した。
「……のんだことないわ」
「そうかい? じゃあ、これでオトナだ」
オレがそういうと、ミリーは両手でカップを持ち、口へと運んだ。そして「にがい!」と言う。オレはその素直な反応に、笑ってしまった。
「——ルーク!」
オレの名を叫んでノックもなく扉が開かれたのは、その直後だ。ああ……せっかくゆっくりと寝ていてもらおうと思ったのに、どうやら他の部屋の者たちが起きてしまったらしい。
「なにをしたの、おまえは⁉ なに、ふたりでなにを飲んでいるの⁉」
朝から騒々しい声と足音で近づいてくるのは……オレの母親だ。
「廊下も、台所もびしょびしょにして……ちょっとおまえ⁉ コーヒーじゃない! どうしたの、えっ、淹れたの⁉」
飲みかけのカップをオレから奪う。オレは「なにをするんだ!」と言って取り返そうとしたが、むしろ、ミリーの手からも取り上げられてしまった。
「おーい、どうした?」
「ちょっとあんた、ルークがコーヒー淹れて、ミリーとふたりで飲んでいたわ!」
「おおー! すごいな! 自分で淹れられたのか!」
父親もやってきてますます騒がしくなる。父親はオレの手に新聞をみつけて「おお、おまえが持ってたのか。なんで逆さまに見てるんだ?」と言って取り上げる。
「ルーク、きなさい! あっちの部屋でおしりペンペンよ!」
「いやだ!」
「まあまあ、いいじゃないか。大人の真似をしたい年頃だ」
「あんたは危機感がなさすぎるわよ! この子は4歳だっていうのに、勝手にコンロと火を使ったのよ⁉ それに、今は大事なお嬢さんをお預かりしてるのよ! 変なものを飲み食いさせて!」
母親の声がキンキンとうるさい。ミリーが少し泣きそうな顔をしているから、オレは逃げ回りながらミリーへ変な顔をした。ミリーはまだ3歳の子どもで、こんなことでもすぐ笑うんだ。
「捕まえた! きっちりお仕置きしてやるわよ!」
「いやだー! うわああああああああん!」
連れて行かれるとき、父親がミリーへ「ごめんな、ミリー。苦かったな?」と言ったのが聞こえた。
そしてミリーはそれに大きな声で答えたんだ。
「わたし、これでオトナよ!」
間違いない!




