表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/16

第10話:心が先に、記憶を探し始めた

イベント翌週の月曜日。


「陽翔、おはよー!」

「今度の体育、ドッジボールらしいぜ。一緒のチームな!」


相変わらずクラスメイトは陽翔に話しかけていた。そしてそんな些細な一言が、朝の教室の空気を変えていた。陽翔は戸惑いながらも、少しずつ返事を返すようになっていた。


(どうしてみんな、こんなに自然に接してくれるんだろう……)


理由はわからない。でも、確かに“ひとり”ではなくなっていた。


──


放課後。陽翔は図書室で静かに本を読んでいた。

そこへ現れたのが、如月あおい。元気なタイプではないが、異世界でも魔法の知識を駆使して陽翔の支援をしていた、頭脳派の少女だ。


「あ、いた……やっぱり図書室だと思った」

「……なんで分かったんだよ」

「陽翔くん、昔から“静かなとこで考え事するタイプ”だったから。無意識に、そういう場所に来ちゃうんだね」


あおいは隣に座りながら、小声で言った。


「……実はね、陽翔くんに聞きたいことがあるの」

「俺に?」

「うん。ちょっと特殊な質問なんだけど……“誰かを忘れる”って、どんな気持ちなの?」


その言葉に、陽翔の手が止まった。


「……怖い。なんか、大事なものを落としてきたみたいな感覚がずっとあって。でも、何を探せばいいのかすら分からない。……そんな感じ」


あおいは少し黙って、それから、ぽつりとこぼした。


「それって、私たちからしたら……“陽翔くんが、陽翔くんを失くした”ように見えるんだよ」

「……俺は、そうなのか」

「うん。でもね、記憶が戻らなくてもいいって思ってる人もいるよ。今の陽翔くんと、もう一度関係を築いていけるなら、それでいいって」


あおいは、優しく笑った。


「私も……その一人」


そのまっすぐな瞳に、陽翔は言葉を失った。この“今の自分”を、見てくれている人が確かにいる。それが、少しだけ救いになった。


──


夜。陽翔はまたスケッチブックを開いた。

でも今日は、いつもと違った。手が止まってしまう。思い浮かべるべき絵が、頭に浮かんでこない。


(……あの写真に写ってた俺は、どんな顔で、誰を見てたんだろう)


“記憶”ではなく、“感覚”としての疑問が湧いてきた。

誰かを、確かに大切に想っていた。その“誰か”のことを、今の自分はまた好きになれるのか――

思わず、ペンが走る。


描いたのは、見たことのない誰かの笑顔だった。でも、なぜか懐かしい。あたたかい。その輪郭に、少しだけ美月の面影が重なって見えた。

陽翔は、そっとつぶやいた。


「……俺、誰を……」


心の奥に、かすかに残る残響。それは“想い”という名の記憶が、静かに目覚め始めている合図だったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ