先輩
「はぁーねみぃー」
冬の寒い時期が終わり、朝の日差しが少しずつ気持ち良く感じる季節。
そんな四月の朝早くから今日もバイト。
(まだ若干肌寒いか…)なんて考えていれば、
「おっはよーーーー!やっと春になってきたね!後輩よ!」
「朝から元気過ぎません?先輩。」
この太陽かよってくらい元気に眩しい人は4歳年上の先輩。
「先輩って元気ない日ないんですか?」
「え?何言ってんの?冬ずっと元気ないけど。」
(あ、そうだった)先輩は誰よりも冬が嫌い。理由?寒い、雪嫌い、着込むの嫌い、そして低血圧。
寒いと頭痛がするってよく言ってたな。
「春になると元気になるとかツクシですか?」
「でもね、春は好きだけど、好きじゃない。」
「なんでですか?」
「花粉症なのよ」
(そんな理由かよ!!)なんて頭の中でツッコミを入れてみるが、いつもより少しだけ気温の高い朝にとても機嫌が良さそう。
「さーて!今日も働くぞおおおおお!!!」
そしてとても元気のいい先輩。そんな先輩を俺は慕っている。どこか抜けてるところもあるが、仕事はとても早くミスもほとんどない。何より俺や他の人がミスをしても決して怒ったりしない。ほら、向こう側で早速ミスしたやつがいても「大丈夫!ミスしない人間なんていないんだから。ミスして欲しくないんだったら、ロボットでも雇えって言ってやんな!ね、店長!」
(あ、店長巻き込まれた)
「あんまり変なこと言わないの!!」
(店長に怒られてる…笑)
なんとも可愛らしい先輩だ。
昼休み、今日は先輩と早番だったため、先輩と休憩だ。
あっ、ちなみに俺はバイトだ。先輩は社員だ。この職場で色んなバイトや社員がいるけど、先輩ほど慕われている人がいるだろうか。しかも男女問わず。もはや魔性の女だ。しかし先輩が何故、男女問わず慕われているのかはこの人の性格、そして趣味嗜好にある。
「ねぇ、後輩よ、彼女と最近どんな?」
俺には3年付き合ってる彼女がいる。そして相手は年上だ。先輩の一歳年下の彼女だ。
「後輩よ、今年でいくつだ。」
「大学3年なんで、21歳ですかね」
「うわーーーーー青春すぎん?ねぇ、あたしにもその若さ分けて…」
ほら、こういう意味わかんないところ。見てて飽きない。
「先輩彼氏できました?」
「わかっててきいただろ。おい。」
(この感情の起伏が激しいところ、面白すぎる。)
「私の彼氏いっぱいいるから!!!!いっぱい貢いでるんだから!!!」
「それ彼氏じゃなくて、推しです。」
「うるさい!うるさい!下野紘と谷山紀章がいれば生きていけるんだ!!!」
「誰ですか?」
「は?知らないの?なんで知らないの?声優様だよ?え?参考文献見る?貸すよ?」
そう、先輩。見た目は少しギャルっぽく、性格は見た目から想像できないほど優しく、その上誰よりもヲタクなのだ。そんな人見てて飽きないし、何より情報量が多すぎる。誰もがアルバイトとして入ってきた初日、怖くて話しかけられないのに、バイトが終わる時間までにみんな先輩のパーソナルスペースの距離の取り方に完璧にやられている。まぁ、俺もその一人だが…。
「後輩よ、いい人紹介してよ。」
「先輩のタイプ意味不明なんすもん。なんでしたっけ?」
「優しそうな顔で、優しい人。」
「わかんねーーーっすよっw」
「いいのよ、私はもう諦めてるの。」
先輩は気づいてないだけ。誰よりも狙ってるやつがたくさんいるのに、みんなに優しすぎるが故に、誰かの物になったとき、その相手がターゲットになってしまうんだから…。まぁ、俺は彼女いるから
対象外だけどな。けど…一番仲がいいとは思っている。せめてそのポジションだけは守りたいと思ってる俺は最低なやつだと思ってる。
「後輩よ上がりの時間だよ!」
「その後輩呼び、いつになったら変わるんですか?」
なんて言ってもいつも「後輩は後輩だから!」って言われるんだ。
「砂月お疲れ!!!」
「えっ…」
ゆっくりしまっていく扉の向こうで振り返り店内に戻っていく先輩がいつもと違うように見えた21歳春。
(ドキっ…)
「名前…呼ばれた…」
五十嵐 砂月 21歳 大学生アルバイト