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八十二話 疑心と信頼



「多分、ここら辺です」


 探知系のスキルや魔法を併用し、違和感のある個所を特定する。ぱっと見、景色に変化はないが明らかな空間の捩じれをスキルは捉えていた。


「今、まさに目の前に空間のループがあります。このまままっすぐ行くと、別の場所に行かされ延々と彷徨う羽目になりますね」

「ぬぅ、なんと小賢しい……誰の差し金だ!?」


 一連の犯人はまだ絞れない。

 チヒロの資料の候補だったトントンは死亡し、残るはマッシブマンとヴェスナー(俺的にはオーセニもかなり怪しい)だけだ。BFDも参考人だったが、現時点では大丈夫だと思っている。むしろHワイトの方が新たな被疑者候補と考えるべきだろう。


 でも……BFDの言ってた事が気になる。

 何でチヒロがいたんだ? 見間違い、だとしてもチヒロに似た背丈の少女がこの洞窟内にいる?

 

 DTAの会場になったダンジョンには俺たちランカーしかいないはずだ。さっき、一部のファンが乱入したとか言ってたけど、BFDが目撃したのなら隔離されてる側にいる事になる。どう考えても不可能だ。

 

 一体――誰なんだ? 本当にチヒロがいたのか? なら、彼女の今までの言ってた事は?

 それともBFDが嘘をついている? そうなら一緒にいたシゾーンも共犯なのか?


 疑心暗鬼が心の中で芽生えかけるが、一蹴する。

 今、この状況で猜疑心を抱いたら全員が敵になる。そうなったら待っているのは疑いと恐怖、最後は殺し合いだ。

 協力するしかない。もし、この中に裏切り者がいたとしても。


「今から、空間を切り抜きます。衝撃が発する可能性があるので、離れていてください」


 什匣アイテムボックスから専用の道具を取り出し、セットする。マナ不要で動く安価なモノだが、性能は十分だ。

 枝切ばさみを巨大化させたようなそれで、ループ個所に刃を入れる――刹那。


「コメット!!」


 マッシブマンが庇う様に出てくる。

 だが、俺も既に捉えていた。


「フン!!」


 剣を縦に一閃。投げつけられた馬鹿でかい戦斧トマホークアックスを叩き落した。


「大丈夫か!?」

「問題ない」


 しかし、この斧は……。


「警告します。強敵です」


 ランが鋭く睨みつける先、暗がりから現れたのは牛頭の巨漢――ミノタウロス。


「ミノタウロスだって⁉ こいつはクレタ島のラビュリントスにしか出ない、原初の魔物だろう!?」


 両手に冷気を作り出すシゾーンが後ずさった。


 クレタ島のラビュリントス。それがこの世界で初めて観測されたダンジョンであり、世界最古の迷宮だ。そこを支配するのがミノタウロス。英雄テセウスに倒された牛頭の怪人。


 ステラ・スフィアーズの七つ道具も、クレタの迷宮伝説になぞらえて命名されている。それくらいこの世界において重要なダンジョンでもあった。


「しかも一匹ではないな。群れだ」

「群れなら奴らの頭となる存在、アステリオスがいるはずだ」


 王玉兄弟が青龍刀を構えた。


「……まさか、待ち伏せされたのか? だが、気配などつい今し方まで無かった」


 BFDもライフルを手にするが、迫り来るミノタウロスの大群に照準が定まらない。誰を狙ってもその隙をついて別の個体が殺到してくるからだ。

 こいつ等の戦闘IQは群を抜いて高い。同じ人型のゴブリンやオークよりも高度で、人間のように的確な作戦を展開した実例もある。


 異世界でもこいつらは熟練の冒険者でも苦戦する強敵として、非常に評判が悪い。


「対処法は、セオリー通りに戦う事。焦らず、深追いせず、一体ずつ仕留める」

「そうだ。言うは易し、だがな」


 額に汗を浮かべるマッシブマン。世界ランク一位でもミノタウロスの大群は難敵になる。


「でも俺たちは……ランカーでしょう?」

「――ああ、そうだな」


 やはり変に不和を生まないで正解だった。

 オーセニやHワイトがいたら余計な混乱を生みかねないが、このメンバーなら戦える。


「……来るぞ」


 BFDの発砲音が皮切りとなり、俺たちは同じように駆け出してくるミノタウロスの群れと激突した。

 


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