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第十五話

 黒竜族の里に不法侵入者を報せる警笛が鳴り響いた夜は、幸い被害の一つもなく、驚くほど静かに明けていった。


 図らずも騒動の中心人物となってしまった山小屋の少女・ルシフェルカは、発熱のため

黒竜族長の館に運ばれ、当分の間そこで養生することになった。


 それを知ったルシフェルカの親友であり黒竜族長が補佐・リノンは、心底すまなそうに頭を下げた。


「ごめんなさい、ルシカ。あなたを一人にしておくべきではなかったわ。怖い思いをさせてしまって……本当にごめんなさい」


 昨晩、親友である少女を住まいへ送り届けるべくのんびりと山道を歩いてリノンであったが、警笛が鳴った瞬間、黒竜族の里へ向かうかどうか迷う暇はなかった。即決するが早いか、ルシフェルカを抱きかかえ、迅速に山小屋へ辿りつくと、けっして明かりを点けず、静かにしているよう少女に言い含め、自分は右竜としての責務を果たすべく(きびす)を返したのだった。まさか、侵入者である王立図書館員が、山小屋を見つけてしまうとは考え及ばずに。


 しかし、里には下りず、人目を忍んで生活していたルシフェルカだ。同じく人目に触れぬよう双竜山に足を踏み入れた輩に見つからない保証もなかったのだった。


 短慮であったとうなだれるリノンに、ルシフェルカが穏やかな笑顔を見せた。


『リノンのせいじゃないわ。それに、ルーガに助けてもらったもの。大丈夫』


 熱が未だ下がらず、寝床に横たわったままのルシフェルカであったが、言霊を込めた息を吹きかけた手巾には、彼女の気持ちが十分に表れていた。


「うちの未熟な長が役に立って良かったわ」


 いつの間にかルーガの名を親しげに呼ぶルシフェルカの変化に、喜びと一抹の不安を感じながら、リノンは礼を言って小さく笑った。そうして、少女のか細い白い手をそっと握るとゆっくりとした口調で告げた。


「ルシカ。私、今回の件をジェイスとレスリィに報せに行くわね。ルーガの承諾は得ているの。二、三日留守にするけれど、私が帰るまでゆっくり休んでいてちょうだい。くれぐれも、気を遣ってこの館から出ていかないこと。いいわね」


 ジェイスとレスリィは、ルシフェルカを引き取り育てたアニス伯爵家の兄弟である。


 二人の名前を聞いたルシフェルカは、心なしか表情を暗くした。彼らには心配のかけどおしであったからだ。今回、王立図書館員に見つかってしまったことで、余計な心労を重ねてしまうことは目に見えていた。


 しかし、この事態は、保護者である兄たちに何も知らせないわけにもいかないであろう。


 ルシフェルカはため息をもらした。


『……お兄様たちに、私が謝っていたと伝えてね』


 手巾に浮かび上がった少女の言葉に、リノンは労わりの念を込めて首肯した。


 こうして、数日間といえども、しばしの別れを惜しみつつ、リノンは黒竜族の里を後にし、西の大国はトラロックのアニス伯爵家へと短い旅路についたのであった。



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