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第十三話

小屋から漏れる灯りと、風の精霊『流星』の冴え冴えとした青白い光が、怒気を隠すことなく不法侵入者に放つ黒竜族長の形相を照らし、緊張の糸は張りつめる一方であった。


 外套姿の王立図書館員たちとの間合いをじりじりと狭めながら、ルーガは、内心では驚いてもいた。なぜなら、他者のためにここまで頭に血が上った経験がなかったからだ。


 もともと、双竜山は西の大国トラロックと北の大国ウォルドのみならず、いかなる国からも侵されざる植物の楽園としてその存在が認められているため、特に大きな争いごともなく比較的穏やかな営みを続けてきた山である。そのため、怒りよりも先に冷静さを以て物事を解決に導くのが常であったのだ。さらに、ルーガの奔放な性格に加え、特別な人間といえばリノンやギルウスといった大物ばかりだ。心配するというよりはされることのほうが多いのだから、まず腹を立てる必要がなかった。


 しかし、目の前の状況はまったく違っていた。


 知り合って間もないが、大きな存在となったルシカが苦痛に表情を歪めていることに胸が痛み、またその原因分子たる侵入者に苛烈(かれつ)なまでの怒りを覚えずにはいられなかった。


「そろそろ本当にその手を放さなければ、実力行使させてもらう。あんた達は不法侵入者だ。こちらにはそうしてもいい権利がある」


 戯言ではない本気が声の低さに表れている。それを悟った西の大国の王立図書館員二人は顔を見合わせ、うなずき合った。そうして、ゆっくりとルシカの腕を放し、これ以上ルーガの怒りを仰がぬよう、神妙な足取りで後退りし始めた。


「おい、逃げてもいいとは言っていない」


 すかさず釘をさしたのは良かったが、そこで予想外のことが起きたのだ。


「ルシカ!」


 なんと、体を起こし立ち上がったルシフェルカは、捻り上げられていた右腕を庇いながら、木々の暗闇の中へ駆け込んでいってしまったのだ。


 そして、意外なことにその驚愕の事態の中先に言葉を発したのは、先に逃げようとしていた侵入者のうちの一人であった。


「早く彼女を追ってください。逃がしてはいけない……あの『白い悪魔』を!」


 ルシカを害そうとしていた連中が何を言ったか、ルーガの耳にははっきりと聞こえていた。その言葉の意味も知っている。しかし、心が理解し得たかどうか認識する前にルーガは走り出していた。


 想いを寄せる少女が目の前から消えてしまうかもしれないという恐怖心が、驚愕の現実を凌駕していたからだった。


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