17 切り替えが上手いです
「失礼します……って、hikariさん?」
案の定、入って来た若い女性スタッフさんは、hayateの楽屋にいる俺に目を丸くした。
俺が上手い言い訳をする前に、即座に会長がhayateモードでフォローを入れる。
「ああ、hikariさんは挨拶に来てくれていてね。僕の方がモデルとしては後輩なんだけど、可愛い上に礼儀正しい女性で感服してしまったよ」
「あっ、そうだったんですね! おふたりが並んでいると目の保養です……!」
「ははっ、ありがとう。今はモデルのなんたるかを説いてもらっていたところだったんだ」
「そんな貴重なお時間を邪魔してすみません……」
「いやいや、いいよ。貴重な時間はスタッフである君も同じだろう。いつも快適な撮影をありがとう」
「はわっ……!」
甘いとろけるようなhayateの微笑みに、本当にスタッフさんがデロデロにとろけている。
真夏に放置していたチョコレート状態だ。
会長は俺よりもスイッチの切り替えが早く、hayateモードでのスマートな言動には一切の隙がない。
どっかの店のナンバーワンホストにだってなれるよ、それか詐欺師。
「それで、用件を聞いても?」
「は、はいっ!」
スタッフさんと入り口でやり取りをする会長。
所在なくソワソワする俺に気付いてか、会長は口パクで「ちょっと待っていてね」と言って、華麗なるウィンクを決めた。
俺にファンサされましても。
星が散ってましたけども。
やり取りは五分程度で終わり、スタッフさんは慌ただしく去っていった。
会長は「さて」と無駄に洗練された仕草で、その眩い金髪をかき上げる。そして有無を言わさぬ圧を待って、くるりと俺の方を振り向いた。
「それじゃあ、各自着替えてスタジオ入り口前で集合しましょう。私の護衛兼マネージャーのクリスティーナには話をつけておくから、どこか庶民的なところで話し合いたいわ」
「庶民的なところって……」
会長がお嬢様でもあることをまざまざと思い出させられる。護衛がいるってのもフィクションの世界だ。
俺と同じ庶民派代表の雨宮さんが聞いたら、「映画みたいだね……!」と興奮しそうである。可愛い。
「……今、雨宮ちゃんのこと考えていたでしょう?」
「な、なんでわかるんですか!?」
ズバリと言い当てられて、盛大に狼狽する。
会長には「hikariの顔面が崩れそうなほどデレデレしていたもの」と指摘され、俺はペタペタと頬を触った。
俺は会長より、モードの切り替えが下手なのかもしれない。地味にショックだ……。
兎にも角にも、会長には高圧的な雲雀とは別の意味で逆らえないので、この後の約束を一方的に取り付けられた。
俺は自分の楽屋に戻り、完全な光輝へと戻る。
そうして、会長を待たせたらなんとなく怖いので、集合場所に指定されたスタジオ入り口前まで急いだ。
「あら、遅かったわね」
……しかし、残念ながら会長の方が早かった。
ガラスドアの近くの柱に隠れるよう、ひっそりと立っている。
そんな彼女に、私を待たせるなんて……と、無言の微笑みを向けられた。
その姿は絶世の美男子・hayateから一転、完璧な淑女であった。
hayateは疾風なんで、会長は一応『風』関係の名前です。
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