15 美男子に脅されました
「hikariさん、だよね? 撮影が終わったら僕の楽屋に来てよ」
「は……?」
「秘密をバラされたくなかったらね」
固まる俺に、hayateは魅惑のウィンクをひとつ。
アルトくらいの中性的な美声はイメージに合っていて、コイツ声もいいのかよ……と僻みで現実逃避してしまう。
その間に彼は軽快な足取りで去っていったが、いやいやいや待て待て待て。
「ど、どういうことだよ……」
俺の秘密って、女装男子なことくらいだよな?
雨宮さん、雲雀、雷架に続いて、まさかhikariの正体が男だとバレた……?
だけどその三人はもともと、素の俺を知っていたからわかったところが大きい。
hayateとはさっきが初対面のはずだ。
いや、hikariの俺とは初対面でも、もしや光輝の俺で会ったことが……?
それもないだろう。
あんなオーラのある美男子、会えば忘れるものか。
親友の御影もイケメンだが、hayateはさすがモデル業界で磨かれたプロのオーラあったもんな。
そんな奴に、可愛い俺は脅されたわけで……。
兎にも角にも秘密を握られているらしい状況に、背中に冷や汗をかく。
「hikariさん、ぼんやりされていますが大丈夫ですか?」
「あっ、ああ、はい! 平気です!」
急に歩みを止めて呆然と立ち竦む俺に、女性スタッフさんが心配そうに声を掛けてくれた。
いかんいかん、仕事中だ。
俺とてプロのモデルである。
どうにか根性で撮影はやり遂げた。
小道具で団扇やりんご飴(食品サンプル的な偽物)も持って撮影したが、この写真が世に出れば、多くの人々がhikariとひと夏の恋に落ちることは確実だ。
なお、俺の撮影中。
しっかり雷架は大人しくしていたが、終わった途端に持ち前のコミュ力でカメラマンさんやスタッフさんに突撃していた。
「こーがくのために現場について教えてください!」って、後学か?
雷架にしては難しい言葉を使っている。
なんの衒いもなく尊敬の目を向けられたら、皆悪い気はしないようで、お忙しいはずなのに快く答えていた。
ああいうのが、アイツの凄いところだよな。
「雷架の恐れ知らずなところを見習って、俺も覚悟を決めるか……」
『hayate様』とプレートが掛けられた楽屋の前で、俺は深呼吸をする。
浴衣を脱いで束の間の解放感を味わってから、男女兼用のラフなパーカースタイルに着替えたが、化粧やウィッグは念のためhikariのままだ。
コンコンとノック。
それから女声で「hikariです」と名乗れば、「どうぞ」と中から許可が下りた。
俺の楽屋と同じ簡素な室内には、こちらも撮影衣装からカジュアルな私服に着替えたhayateが待ち構えていたわけだが、テーブルに寄り掛って立っているだけでもアー写……アーティスト写真みたいで薄っすら腹立つな。
私服も無駄にカッコいいんだが。
「来てくれてありがとう。もし来なかったらどうしようかなって考えていたところだったんだ」
「は、はは……あんなこと囁かれて、来ないはずがないですよ」
来なかったら……なに?
怖いんだけどコイツ。
警戒レベルを引き上げて威嚇するパグみたいになっている俺に、hayateはやれやれと肩を竦めた。
「ねぇ、まだ気付かない?」
「は? なにが……ちょっ!」
「ここまで近付けばわかるかな」
ツカツカと接近して来たhayateは、後退る俺を追い詰める。俺の背が閉まった扉にくっついたところで、逃げないように両腕で囲われてしまった。
こ、これは……壁ドン!?





