3 雲雀さんはお疲れ?
「どうして俺のことを知っているのか、という顔をされていますね」
「わ、わかるのか……?」
「顔に丸出しです」
やれやれと、雲雀はサラサラの長い黒髪を揺らして溜息をつく。
近くで見ると本当に美少女だなあ、毒舌は怖いけど。
雷架のような健康的な『美』でもなく、雨宮さんの自然体な『美』でもない、もっとまさしく精巧な人形っぽい『美』。
まあ、一番可愛いのは雨宮さんだが。
二番目は俺だが。
「それで結局、なんで俺の名前を?」
「あなた、ご自分が悪い意味で有名なことを知らないんですか? あの四大美少女とかいう不躾な名称のメンバーに入った、雨宮雫先輩と『なぜか』仲のいいモブということで、雨宮先輩と同様に晴間先輩も有名人になっていますよ」
『なぜか』、をめちゃくちゃ強調された。
そうか、雨宮さん人気に伴い、雨宮さんと『一番仲良し』(対抗して強調してみる)な俺まで名前が嫌な感じで広まってしまったのか……。
「本来なら私も、誰が有名だ人気だなどと一笑に伏すところですが……生徒会の仕事の一貫として、雨宮先輩にくだらないインタビューをして、くだらない記事を書かなくてはいけません。だから必然と、雨宮先輩と一緒にいるあなたの情報も頭に入りました。本当にくだらない」
くだらない三回言った。
そういえば雲雀は、一年なのに三年の生徒会長が気に入って、無理やり生徒会に引き入れられた生徒会書記だったな。
インタビューやら記事やらは、毎月生徒会が発行している広報のことだろう。
広報といっても堅苦しいものではなく、校内の旬なニュースや最近の注目人物などをピックアップしてお届けしている、一種の学校新聞……というより、学校ゴシップのようなものだ。
それの『今月の注目人物』に、おそらく雨宮さんが選ばれたらしい。
さすが雨宮さん。
彼女の可愛いさがとうとう紙面を飾るのか。
「その記事を雲雀が書くのか?」
「生徒会長いわく、歴代書記の仕事だそうです。そのために、雨宮先輩を呼び出すための手紙から私が書かされて……」
「手紙?」
「会長の悪ふざけで、ラブレター風にしろなどと言われて呼び出しの旨を書きました」
雨宮さんが受け取った手紙、しかもラブレター風なんて、俺の知る限りだがひとつしかない。
「あの男らしいヘタクソな字のやつか!」
「…………下手で悪かったですね」
雨宮さん宛のラブレターが、まさかの雲雀からだとわかって俺はやたらとホッとしたが、そのままな感想を伝えたせいで雲雀がムッスリとした顔になった。
ヤバい、フォローを入れなくては。
「ち、違うぞ! なんか雲雀が、ああいう男らしい字を書くことが意外だったというか、イメージと違ってびっくりしたというか!」
「イメージってなんですか? ……さっきの方も、パッと見の外側だけで私のことを『可愛い』などと言って。それも勝手なイメージからの感想でしょう。あまつさえ、私の中身まで勝手に期待するようなこと、おっしゃられても困ります」
そう訥々と吐き出した雲雀は、毒を飛ばしたというよりは、本気でそういう他者からのイメージの押し付けに疲れているようだった。
これは……俺が悪いな。
俺だってある程度仕方ないとはいえ、hikari人気が上がったときは、ファンの人たちからの『hikariちゃんはこうあるべき!』という固定概念の詰まったコメントに、多少なりとも参らされたものだ。
「すまん、雲雀のことなにも知らないのに、勝手なこと言ったな。不愉快な思いをさせて悪かった」
「っ!」
俺が素直に頭を下げれば、雲雀は若干驚いたようにツリ目がちな瞳を見開き、「べ……別に、気にしていませんから」と小声で呟く。
「……やっぱり、晴間先輩はおかしな人ですね。雨宮先輩が慕う相手というだけで情報を入れていましたが、実のことを言うと私、雨宮先輩よりあなたの方が少し気になっていたんです」
「き、気になる?」
「ええ。昔からなんとなく、隠し事をしている人って直感でわかるんですが、あなたには大きな『秘密』がある気がして……」
ギクリ、と思わず体が強張る。
その秘密とやらは、確実にhikariのことだからだ。
だって俺にあと大きな秘密なんてない。最近ついに雨宮さんに感化されて、真のどら焼き好きに目覚めてしまったことくらいしかない。
だけど露骨な反応をしてしまった俺に、雲雀は苦笑するだけで特に追及はしてこなかった。
「人の秘密をわざわざ暴くなんて暇なこと、よほどのことがない限りしませんよ。私にも知られたくない秘密はありますし……そこまでの興味もあなたにはありません」
「あ、ああ、そう」
「……でも、さっき謝ってくれたのは、ちょっとだけ嬉しかったです」
雲雀は最後だけ、心なしか柔らかな声で告げて、「それでは失礼致します」とロングヘアーを翻して去っていった。
暗雲姫もいろいろ大変らしい。
ーーこのとき。
雲雀との関わりは、これっきりだと思っていたんだがな……。





