2 毒舌美少女の雲雀さん
一年の雲雀鏡花といえば、今年の新入生代表をつとめた成績優秀者で、知的さが滲む美少女だ。
腰まであるストレートロングの黒髪に、背の低い華奢な体躯。
生まれつき色素が薄いのか、雲みたいなグレーの瞳が、他者とは輝きが違って特徴的だ。
そんな瞳が収まる小さな顔は、お人形さんのように作り物めいていて、あまり表情というものがなく、見た目からしてクールでちょっと近寄りがたい印象である。
その印象の通り、性格もツンツンのツンドラで近寄りがたく、愛らしい口から飛び出る言葉はすべて棘つきのイバラで覆われている。
軽率に彼女にアタックを仕掛けて、メンタルをズタぼろにされた男子たちは数知れず……。
ついたあだ名は、相手の心に毒舌で暗雲をもたらす、『猛毒の暗雲姫』。
普通に怖い。
不穏すぎて怖い。
ほら、いまだって。
「え、ええっと、だから君が好きだから付き合って欲しいって……」
「ああ、私の日本語の解読力がおかしくなったわけではなく、あなたが本当におかしなことを言っていたのですね。よかったです、私は正常みたいで」
「なっ、告白したのにおかしなことって……!」
「おかしなことでしょう?」
予想外の反応に焦るイケメン男子くんに、雲雀は冷笑を浮かべる。
「私とあなたは一言も喋ったことがないんですよ? それなのに無理やり呼び出して、なんの用事かと思えば、いきなり好きとか付き合えとか……滑稽です。私のどこに惚れたって言うんですか?」
「ひ、一目惚れだったんだよ! 新入生代表の挨拶をしていたときから、可愛いなって……」
イケメン男子くんが必死に言い募るが、彼が喋れば喋るほど、雲雀の目は小うるさい虫を見るみたいになっていく。
特に『可愛い』という単語を耳にした瞬間、纏う空気が絶対零度になった。
「もういいです。時間の無駄なので失礼させて頂きます」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ……! せめて告白の返事を聞かせてくれよ……!」
「わざわざ口に出して言われたいんですか?」
それは俺も思った。
もう諦めろ、イケメン男子くんよ。お前はよく戦った。
これ以上食い下がっても、負う必要のないダメージをその身に負うだけだぞ!
しかし、暗雲姫は容赦がなかった。
「ーー私はあなたにこれっぽっちの興味もないし、今後とも興味を抱く余地もありません。中身のない告白どうもありがとうございました。慎んでお断り致しますので、今後は私と一切関わらないようお願いします」
そう切り捨てられ、ついにメンタルが崩壊したイケメン男子くんは「ちくしょおおおお」と叫びながら走り去る。
彼の目にはキラリと涙が見えた。
いや本当、お前は頑張ったよ……。
ついつい告白現場を最後まで見守ってしまったが、俺もさっさとこの場を去らなくては。
両手のゴミ袋はゴミ置き場に捨てたいところだが、雲雀が去ってからにしよう。
そしてさっさと日直を終わらせて雨宮さんと楽しく下校だ。
……そう思っていたのに。
「それで、先ほどからそちらで覗いている変質者さん」
「うぉっ!?」
「覗き見なんていいご趣味ですね。今すぐ出てきてください」
雲雀には俺が覗いていたことはもろにバレていたようだ。
俺はおとなしく、ゴミ袋を地面にいったん置いて投降した。実際に覗き見をしていた手前、悪いのは俺だし。
でも俺もあの毒舌を食らうのかなあ、イヤだな。
後輩相手に情けないが謝るからすぐに帰して欲しい。雨宮さんが待っているんだよ。
こんな地味男の先輩にまで暗雲をもたらさず、穏便に済むことを願う。
だが雲雀は俺を見た瞬間、その底冷えする瞳を微かに見開いた。
「っ! あなた……晴間光輝、晴間先輩ですか?」
ん? なんで俺の名前を知っているんだ?





