最終魔:さあ、行きましょ
「気高き女神は夜に舞う
鷹の鳴き声を夜風が包む
閉ざす者に貸す光の衣
朝を隔てる無明の袖
――結界魔法【鷹の羽衣】」
「「「――!!」」」
キャミィさんが呪文を唱えると、この場にいる冒険者たち全員に、透明な光の衣が被せられた。
こ、これは――!?
「それはバリアのようなものだにゃ! それで大抵の攻撃は防げると思うけど、相手は【最上級魔獣】と一体化した凶悪犯だから、油断は禁物だにゃ!」
流石キャミィさん!
元【掃き溜めの野犬】のメンバー!
これで大分戦いやすくなるわね!
「アハハハハ!! 無駄無駄無駄ァ!! そんなちゃちなバリア、私とアブソリュートヘルフレイムドラゴンちゃんの前じゃ、紙切れ同然なのよぉ!」
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
「う、うわああああああああああ!!!!」
「「「――!!!」」」
アブゴンの吐いた灼熱の炎が、負け犬リーダーに直撃した。
…………あ。
「熱ぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢ!?!?!?」
が、何とかキャミィさんの【鷹の羽衣】のお陰で、軽い火傷で済んだらしい。
とはいえ、今ので負け犬リーダーの【鷹の羽衣】は消滅してしまったので、次にアレを喰らったら、骨すら残らないでしょうね。
「レックス、【鷹の羽衣】は一度使うと暫くは使えないのにゃ! だからレックスは、安全な場所に控えててほしいにゃ!」
「わ、わかりましたぁ!」
相変わらずクソの役にも立たないわね負け犬リーダーは。
いや、敵の戦力を測るという意味では、無駄ではなかった、か……?
何にせよ、アブゴンのあの炎を喰らえるのは、一人一回までってことね。
「うおおおおおおおおおおお」
「ギ、ギル!?」
が、そんな中、ギルが両手に【黒崖】を構えながら、アブゴンに突貫した。
いくらあなたでも、あの炎を何度も喰らったら――!!
「俺なら大丈夫だセレナ! だから君は今のうちに、【雷神の戦鎚】を!」
「――!」
一瞬だけ私のほうを向いたギルの翠の瞳は、決して自暴自棄なものではなかった。
――確かな勝利を掴むための、覚悟を宿した瞳だった。
フフ、私の彼氏は、ホントカッコイイわね――。
「わかったわ! 任せてちょうだい!」
私はアブゴンから距離を取り、右手に持つ杖の先をアブゴンに向ける。
「アハハハ!! そんな隙、与えるわけないでしょおッ!」
アブゴンが巨大な口を開け、私のほうに照準を合わせた。
クッ、あの炎がくる――!?
「させるかあああああああ」
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
「何ですって!?」
が、アブゴンが炎を吐く直前、ギルが天高く飛び上がり、アブゴンの顎に両手の【黒崖】でアッパーカットを喰らわせ、無理矢理口を閉じさせたのだ。
ギル、やるぅ!!
「お前の相手は俺だエイダ! 掛かってこい!」
「こ、この守ることしか能のない木偶の棒があああ!!! 調子に乗るんじゃないわよおおおお!!!」
「ぐぅ!?」
アブゴンの鋭い前脚の爪がギルを襲うも、ギルはそれをキッチリ【黒崖】でガードしている。
やっぱギルの防御力は、世界一だわ(後方彼女面)。
さて、私のギルがヘイトを稼いでくれてる間に、私はトドメの一撃といきますか。
「鉄の手袋と力の帯
雷神の怒りは次元を砕く
歯ぎしりする者と
歯のある食用家畜の子
喰らっては治し
戦車を引く」
深く深く意識を集中させ、全身の魔力を杖の先に込める――。
すると瞬く間に空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いた。
――さあ、その身に受けなさい、魔法の真髄を。
「戦鎚が奔り 巨人を潰す
戦鎚は戻る 主の下に
万雷が彩る魂の奔流
後に残るは 神の唄」
空から無数の雷が落ち、それがアブゴンの頭上に集約し、巨大な戦鎚の形になった――。
「し、しまった……!?」
もう遅いわよ、豚女が――!
「――深淵魔法【雷神の戦鎚】」
雷の戦鎚がアブゴンを叩き潰した――。
「きゃああああああああああああああああああああああ」
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
雷の戦鎚は弾け飛び、空の暗雲も晴れ、燦燦と輝く太陽が再び顔を覗かせた――。
よし、これで一丁上がり、っと。
「……ア、アハハハハハ。なぁんだ、こんなもんかぁ」
「「「――!!」」」
が、アブゴンの全身は黒焦げになったものの、致命傷にまでは至っていないようだった。
そんな――!
……これが【最上級魔獣】の力だっていうの。
【雷神の戦鎚】でも倒せないとなったら、いったいどうしたら――。
「まだ手はあるにゃ、セレナ!」
「っ!」
キャミィさん!?
「アタシが【神の血の酒】という補助魔法で、一時的にセレナの魔力を増強するにゃ! だからそれでセレナはもう一度、【雷神の戦鎚】を撃ってほしいにゃ!」
「わ、わかりました!」
サラッと言ってるけど、そんな補助魔法聞いたこともない。
やっぱキャミィさんは、頼りになるわね!
どこかの負け犬リーダーと違って!(死体蹴り)
「でも【神の血の酒】の詠唱には、時間が掛かるにゃ! しかもその間、私とセレナはこの場から一歩も動けないにゃ。だからそれまでは何とかみんなで、時間を稼いでほしいにゃ!」
「任せてくださいッ!」
いの一番にギルが声を上げ、私を守るように前に立ち、アブゴンと相対した。
――嗚呼、いつも以上に、ギルの背中が広く見えるわ。
「お、俺もやってやるぜ!」
「私もよ!」
「ギルだけにいい思いはさせませんよ!」
「みんな――ありがとにゃ」
他の冒険者のみんなも、私とキャミィさんを取り囲むように、ぐるりと盾になってくれた。
みんな……。
「頑張れみんな! 俺も応援してるからな!」
遠く離れた木の陰から、負け犬リーダーが叫ぶ。
アンタもう、帰ったら?(辛辣)
「アハハハハハハハハハ!!! だから無駄だって言ってるじゃない! 蟻がどれだけ集まったところで、ライオンに勝てるわけないでしょうがああああああ」
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
私たちにアブゴンが、灼熱の炎を吐いてきた。
クッ!?
「みんな! 何とか耐えてほしいにゃ!」
「「「はい!」」」
みんなが巨大な肉壁となり、私とキャミィさんを炎から守る。
「セレナ、いくにゃ!」
「は、はい!」
キャミィさんが私の背中に手を当てる。
「刻より速い豹
風をも斬り裂く虎
神を喰らう山羊
大地を穿つ牡牛」
な、何これ――!?
身体の底から、力が湧き上がってくる――!
「ぐわぁ!? もうダメだぁ!」
「お、俺もぉ!」
「アツゥイ!」
炎で【鷹の羽衣】が消滅した人が、一人、また一人と離脱していく。
クッ――!
「心を溶かす蛇
深淵に至る山猫
過去を暴く鹿
世界を欺く狐
八つの獣が樽を廻す
――狂増魔法【神の血の酒】」
が、ギル以外の人が全員離脱したその刹那、キャミィさんの詠唱が完了した。
おおおおおおおお!?!?
何よこれ!?
――今だったら、星だって壊せそうだわ。
……でも。
「ギル! このままじゃ、あなたが!」
既にギルの【鷹の羽衣】も消滅しており、今は【黒崖】だけで炎を防いでいる。
でも、炎の熱を完全には防げていないらしく、ギルの両手からブスブスと肉が焦げる臭いがしている――。
「俺なら大丈夫だセレナ! ――今度こそ噓じゃない。俺は絶対に死なない。だから俺を、信じてくれセレナ」
「――!」
……ギル。
「わかったわギル。必ず生きて、私を守って!」
「ああ、もちろんだ!」
「クッ、無駄よ!! 私とアブソリュートヘルフレイムドラゴンちゃんには、誰も敵わないわ!!」
だからアンタは、アブゴンの力を借りてるだけでしょ豚女。
それをさも、自分の力みたいに。
まあ、みんなで力を合わせてるという点では、今の私たちも同じだから、これ以上は言わないでおいてあげるけどさ。
――さて、と、今度こそ、本当のトドメといきますか。
「鉄の手袋と力の帯
雷神の怒りは次元を砕く
歯ぎしりする者と
歯のある食用家畜の子
喰らっては治し
戦車を引く」
深く深く意識を集中させ、全身の魔力を杖の先に込める――。
すると瞬く間に再度空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いた。
だが、雷鳴の数が先ほどとは比べものにならない。
それはまるで、世界そのものが、怒りで震えているかのようだった――。
「ヒッ!? ま、待って……!! わ、悪かったわ……!! 降参する!! やっぱり降参するから、命だけは助けてッ!!」
助けるわけないでしょ、この焼き豚女が。
アンタのせいで、何人の罪のない人が死んだと思ってるのよ。
そもそもギルのお兄さんを殺したアンタのことを、私は絶対に許しはしないわ――。
「戦鎚が奔り 巨人を潰す
戦鎚は戻る 主の下に
万雷が彩る魂の奔流
後に残るは 神の唄」
空から星の数ほどの雷が落ち、それがアブゴンの頭上に集約し、先ほどの10倍はある、超巨大な戦鎚の形になった――。
「あ、有り得ないわこの私が――この私がああああああああああああああああ」
断末魔の叫びまでショボいわね、アンタ。
「――深淵魔法【雷神の戦鎚】」
雷の戦鎚がアブゴンを叩き潰した――。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
雷の戦鎚は弾け飛び、空の暗雲も晴れ、燦燦と輝く太陽が再び顔を覗かせた――。
アブゴンの全身は焼き豚女ごと消し炭になり、ボロボロと崩れ去った。
後には巨大な魔石だけが残されていた――。
――よし、これで今度こそ一丁上がり、っと。
「――兄貴、仇は、セレナが討ってくれたよ」
ギルが拳をグッと握りながら、空を見上げた――。
……ギル。
「それは違うわよギル。――この仇は私だけじゃない。あなたと――そしてここにいるみんなで討ったものなのよ」
私はみんなの顔を見回す。
誰もが誇らしげに笑っていた。
「――ああ、そうだね。ありがとう、セレナ。――愛してるよ」
「ぬあっ!?」
ギルが私をギュッと抱きしめてきた。
「痛い痛い痛い痛い痛い!?!?」
内蔵が出ちゃう出ちゃう!?!?
ナマコを強く握ったみたいに、口から内蔵が全部出ちゃうって!!!
「あっ! ゴ、ゴメン、セレナッ! また、つい……」
「もう! 何度言わせるのよッ! このうっかりゴリラボーイが!」
そ、そもそもこんな人前で抱きつかないでよ、もう……!
「にゃふふふふ、これはこれは、お安くないにゃあ」
そうは言いつつも、お見合いオバサン満面の笑みである。
ああ、これは今後、何かにつけてからかわれそうね……。
今から憂鬱だわ……。
「みんな! 本当にお疲れ様だにゃ! みんなのお陰で、脅威は去ったにゃ! 今日はお礼に、ギルドの奢りで打ち上げに行くにゃああああ」
「「「ウェエエエエエイ」」」
やれやれ、ホント元気ね、みんな。
「怪我をした人は、アタシのところに来てほしいにゃ。回復魔法掛けるにゃ」
キャミィさんが引率の先生みたいに、手を上げて歩きながら集合をかける。
そんなキャミィさんのところに、怪我をした連中がわらわらと群がって行く。
「ハッハッハー! これで遂に俺も、【最上級魔獣】を倒した男になったぜええええ」
アンタは見てただけでしょ役立たずリーダー。
まあ、今日だけは特別に、浮かれさせといてあげますか。
――こんなに私の心が広くなったのは、きっと――。
「ん? 俺の顔に何か付いてるかい、セレナ?」
「――フフ、何でもないわ、ギル。さあ、行きましょ。キャミィさんに、腕の火傷を治してもらわないと」
「あ、うん!」
私はギルの手を引いて、歩き出した――。
「にゃふふふふ、ギルセレの人生という名の冒険は、まだ始まったばかりなのにゃ」
キャミィさん、何ですかその雑なナレーション風のやつは。
拙作、『戦争から帰って来た婚約者が愛人を連れていた』がコミックグロウル様より2026年3月6日に発売された『選ばれなかった令嬢には、本命の彼が待っています!アンソロジーコミック』に収録されています。
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