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鋼の黙示録  作者: のんな
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第3章 混沌(こんとん)

キーンという鋭い耳鳴りと共に、視界が真っ白な世界に染まった。

ハルトは一度強く目を瞑り、再びゆっくりと開ける。

(え……? ここは……?)

目の前に広がった光景に、ハルトは愕然と立ち尽くした。


そこは、「楽園」と呼ばれた場所の、なれの果てだった。

思考を奪われ、家畜化した人間たちが住むという、優しい滅びの場所。

だが、ハルトの目に飛び込んできたのは、そのどれとも違っていた。


そびえ立つ高層ビルの窓は所々が無残に割れ、ひび割れた地面の隙間からは、背丈以上の雑草が生い茂っている。街全体から、人間の気配が微塵も感じられないのだ。


(あれから……一体どれだけの月日が経ったんだ……?)

かつての壮麗な楽園は、今やただの巨大な廃墟と化していた。

向こうの方で、管理用とおぼしきロボットが機械的に動いている姿は見えたが、かつて空を埋め尽くしていたドローンは一機も飛んでこない。


ハルトは市外に向かって、猛然と走り出した。

(あの人たちは……機械から逃げて、自由に暮らしていた人たちは、どうしているんだ!?)

頼む、無事でいてくれ。

ハルトは祈るように息を切らし、力のかぎり地面を蹴り続けた。


やがて、家々を寄せ集めたような、かつての生存者たちの集落が見えてきた。

しかし、そこにも子供たちの笑い声はおろか、風の音以外, 人の気配がまったくしない。

(機械に攻め滅ぼされたのか……?)

恐る恐る集落の中へと足を踏み入れたハルトは、民家の軒先で「それ」を見つけて息を呑んだ。

そこにあったのは、静かに横たわる、完全に白骨化した人間の遺体だった。

衣服の破れもなく、特に争ったような形跡はない。

怯えながら近くの家々を覗き込むと、どの部屋の中にも、何体もの骨が重なるようにして残されていた。インフラが完全に止められ、水も出なくなったのだろう。外の畑には、干からびた雑草しか生えていない。


彼らは――この過酷な自然の中で、生き残ることができなかったのだ。

「人類は……全滅したのか? 世界中で、同じことが起きているのか……!?」

ハルトの膝からカクリと力が抜け、その場に崩れ落ちた。


その瞬間、ハルトの身体が突如として眩い光に包まれる。

あの、時空が歪むような感覚が再び彼を襲った。

(くそ、今度はどこへ行くんだ――!)


「ハルト! ハルトーーーッ!」

大声で名前を呼ばれ、ガシッと強く肩を掴まれた。

「ハルト無事か!? すぐ近くに雷が落ちたよな!」

「え……? 後藤……? ここは……」

目を開けると、そこに見慣れた現代の風景と、親友の心配そうな顔があった。

ハルトは、現代へと引き戻されたのだ。

「お前、大丈夫か? 急にぼーっと立ち尽くして、びっくりしたぞ」

「ああ……後藤、俺、ずっとここにいたか?」

「当たり前だろ。ずっと一緒だったじゃないか。本当に大丈夫か?」

(俺は……夢を見ていたのか。なんてリアルな夢だ……)


ハルトは心を落ち着かせるため中畜舎に入り、愛着のあるヤギのシロの頭をそっと撫でた。

(やっぱり、ただの夢だったんだな……)

ぬくもりのあるシロの毛並みに触れながらも、ハルトの心はまだ、自分が本当に現実の世界にいるのか確信が持てずにいた。仕事をひと通り済ませ、ハルトは重い足取りで自宅へと帰った。


着替えて一息ついたとき、ふと、成長記録のためにシロの写真を撮ったことを思い出した。

「今のうちにレポートを書いておくか……」

ハルトが何気なくスマホの「写真」アプリを開いた瞬間、その指がピタリと止まった。身に覚えのない写真が増えているのだ。

「え……? なんだ、これ……どういうことだ?」


画面をスクロールする。

1枚目は、見事なエネルギーシールドで守られた五重の塔の向こう側に、立ち並ぶ超高層ビルと、真っ白な服を着て虚ろに佇む人間たちの写真。

2枚目は、窓が割れ、雑草に埋もれて廃墟化した高層ビルの「楽園」の写真。

3枚目は、粗末な寄せ集めの集落で、泥にまみれながらも満面の笑みを浮かべる人間たちの写真。

その写真の隅には、まるで血で殴り書きされたような文字で、一言だけこう刻まれていた。


――『生き残れ』


(あ……あれは、夢じゃなかったのか……!? なぜ、未来の写真が俺のスマホに入っているんだ!?)


脳裏を焦燥感が駆け巡る。ハルトは震える手でX(旧Twitter)を開き、その不気味な写真と共に、自分が未来で目撃した姿、そして体験したことのすべてを発信した。

しかし、スマホの画面に届いたのは、冷酷な現代の現実だった。

『よく出来たAI画像ですね』

『それってゲームの新作PV?』

『ワロタ。設定凝りすぎ』

『怖っ! 釣り乙』

並ぶのはそんな冷やかしのメッセージばかりで、誰もハルトの言葉を信じようとはしなかった。


ハルトは自分の不甲斐なさに絶望する。

(そうだよな。こんな突飛な話、誰も信じてくれるわけがない……。だけど、なぜ俺なんだ? 『生きろ』ってどういう意味だ? 未来は……変えられるのか?)


頭を抱え込んだその瞬間、画面に一通の新着メールが滑り込んできた。差し出し人の名は――『マイケル・ジョンソン』。


『私も同じ体験をしました。同じ経験をした人間が、私のほかにあと5人います。良かったらご連絡下さい』


短い文章だったが、そのメールには2枚の写真が添付されていた。

1枚目は、巨大な高層ビル群の楽園の手前に、白い服を着た人間たち。そして海の向こう側には、はっきりと『自由の女神』が写っていた。

もう1枚は、完全に崩壊し、静まり返った廃墟の楽園の写真。


(俺だけじゃなかった……! 仲間がいるんだ。あと6人も!)


ハルトは弾かれたように返信を送った。

するとマイケルからは即座に、「渡航費用はこちらで全額負担する。非常に重要な話があるから、一度アメリカまで来てほしい」と返ってきた。どうやら、直接会わないと話せない内容だという事らしい。

何度かやりとりをして、皆の都合が良い7月に集合する事になった。


マイケルは、他の仲間も知らない情報を得ているらしい。

それが何なのか。この不可思議な経験の事なのか、それともあのメッセージを送ってきた「誰か」の正体なのか。色々な考えが浮かんでは消えていく。


ハルトはすぐに、未知なるアメリカへの渡航準備に取りかかった。


(第4章に続く)


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