Act5 無垢なる凶器への委託
「……これ……龍輝の中学でのデーター。……凄いな。ほとんど学校に行ってない……か。加納家は『文字』や『計算』を教えるよりも、人を壊す技術を教え込んでいたようだな。攻撃箇所、骨を折る角度、そのための身体の構成とか……」
航聖は冷笑を浮かべ、タブレットの画面をスライドさせる。そこには、義務教育という名の空白が刻まれていた。
「フフ、いいのよ、航聖。余計な知識がない分、彼は「そのまま」を吸収するから。……彼は今、真っ白なキャンパスだから、そこに何を描くかは、これから決めることが出来る」
薫はそう言って、深夜の埠頭に停めたリムジンから降り立つ。
闇を切り裂いて現れたのは、黒いパーカーで身体を隠した龍輝だ。加納の家で「掃除屋」をさせられていた頃からさほど変わらない、無機質な殺気を纏っている。
「……終わった」
龍輝の声は低い。義務教育をかろうじて終えた程度の飾り気のない、剥きだしの言葉。
「ありがとう」
薫は用意していた封筒を二つ差し出した。
一つはお金。もう一つは白い封筒におさめられた手紙だ。人を壊した直後の、血の匂いがする指先がその封筒に触れる時だけは慎重に壊れ物を扱うように震えた。
「……母さんは……無事なんだな」
「ええ。大丈夫よ……貴方は心配しないで、仕事を続けてちょうだい」
それは短い、母からの無事を知らせる筆跡。航聖が精巧に作り上げた偽造品だ。だが、今の龍輝にとって、その紙こそが、唯一の「温もり」であった。
「……じゃあ、またね。……次の依頼は、部屋のポストに入れておくわ」
細かい指示は、会ってから。通信手段を持たない龍輝。薫が龍輝を保護していたのはここだけの秘密である。勿論、龍輝本人は気づいていない。
さて、ここからは龍輝のターンですね。
有難うございました。




