第全話 「緋い髪」
―Side:モエ―
「先輩、妹さん無事でよかったですね!」
「そうね」
暗い研究室の中。後輩の言葉にモエは頷いた。こうでなくてはという気持ちと、やはりかという気持ちがない交ぜになっていた。その背後の巨大なガラス柱で、ゴポリと泡が起こった。それを見た後輩が問うてくる。
「でも先輩、よかったんですかぁ? だって……ほら、あの子の所為で計画めちゃくちゃじゃないですか」
ガラス柱を見ていたモエの視界に割り入り、後輩がむぅーっとした表情で言う。
「別に、何も問題ないわ」
「でもぉ〜、このままじゃあの子が正式にカイエンのパイロットになっちゃいません?」
後輩が視線を脇へ向ける。そこにはニュースが映っている。ここ数日、連日連夜同じ内容の繰り返し。テロップには『英雄の息子』の文字。流れに逆らうように市街に被害を出した自衛隊を叩く番組もあったが……相手にしている人はいないだろう。
後輩の言は最もで、世間のほぼ全てが彼を祀り上げようとしている。だが、
「それはないわ。大丈夫よ」
「……ぇえ〜、なんでわかるんですかぁ? でもまぁ、先輩の言う事だからそうなんでしょうけど」
後輩を見る。彼女にはその根拠など説明してもわからないだろう。だから一言だけ口にする。
「――だって、彼は私と同じだもの」
ますます不可解になったのか、あるいはわからない事に苛立っているのか、「むきぃー!」と後輩が声を上げた。そんな後輩から、視線をガラス柱へと戻す。
液体で満たされたそこに、緋い髪が揺蕩っていた――……