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眼鏡屋は、色のない夢をみる  作者: 水野綾
眼鏡屋は、バレンタインに夢をみる
9/16

眼鏡屋は、バレンタインに夢をみる 4

保さんに返事をして、俺は荷物を置き流しへと向かった。

通りすがりに、横目で見ると男性は包帯を巻いた小指を握りしめていた。


--前より酷くなってるのか?


お茶を出し、雨が降る外を眺めた。

こう雨脚が強いともう客は来ないことと、保さんが客の対応を出来ないことを考慮して俺は扉に【close】の札をかけて、二人から少し離れた席に腰をかけた。


自己紹介は既に終わってるみたいで保さんは、男性の事を”松本さん”と呼んでいた。


「急に押しかけてしまって申し訳ありません」


頭を下げる松下さんに、保さんはお茶をすすめ笑顔を返した。


「しがない眼鏡屋の所に来るなんて、藁をも縋りたい・・・って感じですかね?」


いつもと同じ穏やかな笑顔と声色。でも、その中に棘を感じた。

保さんは、人当たりもよく今まで怒ったことも見たことがない。


(あぁ。この松本さん、保さんが嫌いなタイプだ)


保さんと知り合ってまだ日も浅いが、感性が似てるのか自然と保さんがだす空気で

感情が感じ取れた。

一見どこにでもいる、真面目なサラリーマン。

整った顔に、落ち着いた雰囲気。

でも、どこと言われたら分からないが・・・嫌な感じがする。


「そうなんです。この前貴方は湿布ではこの痛みは治らないっと・・・いいましたよね」


「えぇ」


「病院に行っても、原因は分からない。痛み止めも湿布も効かない

日に日に痣は赤黒くなって、痛みが増しているんです」


「前にも聞きましたけど・・・・」


保さんは、頭をかきながら深くため息をついた。


「誰かと・・・指切りをしましたよね」


「それが、何の関係があるって・・・」


松本さんの声を遮る様に、保さんは自分の小指をたてフックのように折り曲げた。


「大ありですよ。貴方の小指には、呪い(まじな)がかかっていますから」


「そんな、バカな・・」


「信じれないなら、いいですよ。貴方を治してあげる理由もありませんし」


そう言い放ち席を立とうとする保さんに、松本さんは”信じるから”と縋りついた。


***


「付き合っていた女性と・・・指切りをしました」


観念したように、松本さんは口を開くと指に巻いていた包帯をほどいていった。

現れた小指は、以前みた第一関節の痣の上から既に赤黒く変色をしていて

俺は思わず言葉を失った。


「何を、約束されたんですか?」


「・・・それは・・・」


チラリと俺に視線をやり、言葉を濁して伏せてしまった。


「・・・・大方、不倫相手にでも”嫁と別れる”とでも約束しましたか?」


驚く松本さんに、保さんは言葉を続けた。


「第一に、理くんの方へ一度視線をやりましたよね

学生には、あまり聞かせたくない約束。

そして、第二に松本さんの右手薬指に指輪の日焼けのあとが微かについています。

日焼けの時期でもないのに、残ってるという事は、普段つけている・・からですよね」


松本さんは、その約束を交わすようになった経緯を話していった。

酒の勢いで、慕ってくれている部下に手を出しそのままその女性と関係を続けていた事。

女性のリクエストで、会う時は必ず結婚指輪をはずし”愛してるよ”の言葉の数と同じほど”いつか一緒になる”という約束を指切りしていた事を・・・



嘘も方便

女性は、どんな気持ちでその約束を交わしていたんだろう。

それとも、信じていたのか・・・・

指の痛み以外は、どこか他人ごとの様に話す松本さんに苛立ちを覚えていた。



「結論から言うと・・・もう手遅れかもしれませんが、呪いをとかないと

松本さん、貴方の指は第一関節から切らないといけなくなりますよ」


そんな彼に、保さんも若干苛立ちを覚えたのかきつい言葉を投げつけて

にっこりと微笑んでいた。







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