眼鏡屋は、バレンタインに夢をみる 2
「呪い(まじない)ですか?
あの人、怪我をしてた訳じゃないんですか?」
不思議そうに問いかける俺に、多分ね。と保さんは自分の小指をなぞった。
「理くん、言霊って知ってる?」
「はい。言葉には霊的な力がある・・・ってやつですよね」
「そうそう、昔の日本人って凄いよね。八百万の神様に言葉にも魂が宿ると信じてた。
ある意味とっても豊かな国だったんじゃないかな
おっと、話がそれちゃった」
神話の時代が好きなんだよ。と保さんは笑いながら俺に小指を差し出した。
「指きりする時、なんて言う?」
保さんの小指に指を絡めると、保さんは腕を上下に動かした。
「えっと・・指切り拳万、嘘ついたら針千本のーます・・・でしたっけ?」
「正解、今では約束の厳守を誓うための習慣になってるけど
本来は、約束を違えた時の罰則をかした呪い(まじない)の言葉を唱えているんだよ」
へーと、相槌を打ちながら繋いだままの小指を解いた。
「で、言葉にも魂が宿るっといったけど、この呪いを一体何人・・
いや数えられないぐらいの人が、今までに唱えただろうね。
友達との約束、恋人との約束・・・さまざまな約束の場で
唱えられる度に、その呪いには様々な魂が宿りより言魂を強くしていくんだ。
まぁ、もともと指切りには強い想いが宿っていたと思うけど・・・」
「どうしてですか?」
「愛している人に、その想いを真実だと知ってもらう為に、理くんは何をする?」
「何をする・・それも対価ですか?
さぁ、まだそこまで想う人に出会ったことがないんで分からないです」
クールだねと、保さんは笑い話を進めた。
「指切りはね、元は遊女が客に心中立てとして小指の第一関節から切って
渡していたことが由来なんだよ。
それほど強く貴方を想っています。愛していますという想いを込めてね。」
「うわ・・・痛そうってか・・・重いですね」
第一関節から切る
骨折もしたことがない俺は、骨を絶つ痛さなんて想像もつかないけど、
それが安易に決断できないことぐらいは、分かった。
「そうだね、重いよね。
だから、それを受け取る男性もそれ相応の覚悟を持ってないと。
今、指切りといってもその約束が破られたからといって、
拳骨で万回殴る人はいないだろうし、ましてや針を千本飲ませる人もいないだろう?
それほど、想いがこもった呪いだってことをみんな意識しないでしてしまうんだよ・・・・指切りを」
言葉を失う俺の横で、いつも柔らかく微笑む保さんが
不敵な笑みを漏らした。
「さて・・・あの男性は指切りで何を約束したんですかね」