眼鏡屋は、バレンタインに夢をみる 1
病気でモノクロの世界に生きる店主、岡田保が経営する ”岡田眼鏡店”でバイトを始めた理。
バレンタイン前に、店の前で蹲る男性がいた。
摩訶不思議第2弾 ~眼鏡屋はバレンタインに夢をみる~です
「バレンタインまで、一週間をきりましたね」
保さんが、ウキウキと声を弾ませながら窓の外を見ていた。
確かに、ここ数日店の前を通る女性たちが有名なチョコレートのお店の紙袋を持っているのを目にしていた。
「そんなに浮かれて、保さんもらう当てあるんですか?」
「しっ、失礼だよ。これでもお向かいの梓ちゃんにお隣のヨネさんは、毎年くれるからね」
「・・・梓ちゃんは、5歳でしょ、それにヨネさんは80歳・・・」
「何を言ってるの 5歳でも80歳でも、レディーに変わりはないでしょ」
「やめてください・・なんか変態臭いから・・・」
深くため息をつき外を見やると、お店の前に蹲る男性の姿が目に入った。俺は、急いで店を出て彼に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「・・・っ店前ですみません」
「いいですから、いったん中へ」
手を抑えて、痛がる男性を店の中へと連れはいった。
「どうしたの?理くん」
「お店の前で、蹲っていたので・・・」
「どうしたんですか?」
「いきなり、小指に痛みが走って」
見せてくださいと、保さんが彼の手をとると男性の小指の第一関節に
くっきりと赤黒い痣ができていた。
「どこかで、つめましたか?」
いえ。と首をふる男性に、保さんは何か考えるように眼鏡を外して痣をみていた。
男性は、保さんより少し上っぽくて30代前半と言ったところで、
スーツ姿から、仕事帰りのサラリーマンと予想ができた。
保さんの指示で、俺は湿布を用意して彼の小指に巻いた。
「これでは、痛みはひかないと思うけど・・・」
保さんは困ったように、頭をかく。
「失礼ですが、最近女性と何か約束されましたか?」
唐突な保さんの質問に、男性は首を傾げる。
「もっと、分かりやすくいうと最近女性と指きりをしましたか?」
と自分の小指を曲げ、指切りのポーズをした。
「何を・・・いきなり」
男性は立ち上がり、治療のお礼だけを告げ足早に店をあとにした。
「保さん、さっきの男性・・・」
「心配しなくても、近いうちにまた来ますよ。
あの小指には、呪い(まじない)がかかってましたからね」
そう呟いて、男性の背中を見送りながら保さんはお茶を飲んでいた。