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眼鏡屋は、色のない夢をみる  作者: 水野綾
眼鏡屋は、等価交換をもちかける
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5/16

眼鏡屋は、等価交換をもちかける 5

「それじゃ、僕は準備をしてくるから、理くんはここで待っていて」


ヨイショと掛け声をかけ、保さんは席をはずす。

死んだ人と合わせるために、それなりの準備が必要なんだろうと俺はそのまま待つことにした。


(保さんって、イタコなのかな・・・?

いやいや、程遠いだろう)


保さんは霊感のれの字もなさそうな空気を漂わせている。

落ち着かず、あれこれ考えているとふっと煮干しの匂いが香ってきた。


(・・・懐かしい香りだ)


祖母が生きている頃は、この香りで目を覚ましていた。


ふっくらと炊けるご飯の香り。

魚の焼ける香ばしい香りと出汁の効いた味噌汁の香り。



(!!!?いやいや、おかしいだろう・・・

保さんは会いたい人に会わせてくれるといったのに

なんで、料理の匂いが)


「あの・・・岡田さん?」


不安になって、中に向かって声をかけると相変わらずの緩い声が返ってくる。


「あ!ごめんごめん。もう少しだから待っててね」


そういい、暫くしてでてきた保さんは白い割烹着姿だった。


「えっと・・・・その恰好は・・・」


「あぁ。割烹着だよ、似合うでしょ」


「そういう事が聞きたいんじゃなくて、会いたい人に会わせてくれるって」


「うん。会わせてあげるから席についたついた」


そう言いながら、俺を眼鏡屋の奥にある住居スペースへと案内した。

ダイニングのテーブルに並ぶ、数々の料理。


「これは・・・」


「キミのお婆ちゃんの得意料理だよね?」


保さんは割烹着を外しながら、”作ったのは僕だけどね”と微笑んだ。


ジャコのかかったほうれん草のお浸しに、一度煮てからグリルで表面がこんがりと焼かれた鯖。

ふわふわの出汁巻き玉子に、筑前煮とお味噌汁。


もう、食べれないと思っていた朝食の風景。


「レシピは、キミのお婆ちゃんに教えてもらったから味は保障するよ。

ほら、食べて食べて」


そう言いながら、保さんはご飯をよそってくれた。

作りたての食事からは、白い湯気が上がる。

祖母がいた頃、よく見ていた光景。


その美味しそうな湯気の向こうには、いつも祖母が座っていて「理、おかわりあるよ」と言ってくれていた。


亡くなった祖母に会わせてくれると匂わせておいて、

料理を出され釈然としないまま「頂きます」と手を合わせた。

味噌汁を手に取ると甘党の祖母がよく使っていた、麦味噌の香りが鼻を抜ける。


「あぁ・・・美味しい」


自然と口からこぼれた言葉。

ほっとする懐かしい味、この味をもう一か月食べていなかった。


こんなにも、美味しいと思えるのに俺は酷い事を。


(ごめん・・・・婆ちゃん)

その時、温かい味噌汁の湯気の向こうで、一瞬微笑んでいる祖母の姿がみえた。


「婆ちゃん!!??」


その姿は、湯気の揺らめきと共に消えていて、幻でも見たのかと箸をおくと保さんは真剣な瞳で俺をみていた。


「お婆ちゃん、どんな顔をしていたかい?」


「え・・・」


「笑ってたでしょ?」


「・・・・微笑んでました」


「キミのお婆ちゃんは、怒っても悲しんでもいない。

それどころか、少し嬉しかったんだって」


「そんなわけ・・・俺は酷い事を言ったのに」


「うん・・・だからだよ。

初めてキミが、反抗した。その事が祖母と孫ではなくて

実の子供みたいで、嬉しかったんだって」


「・・・・・」


「キミのお父さんともお婆ちゃん、よく喧嘩したらしいよ。

思春期だから、ブツかってくるのは当たり前って

僕に笑って話してくれた。

だからね、落ち込まないでくれって伝えてくれって

頼まれたんだ」


話ながら、笑みを漏らす保さんは、まるで祖母がそこにいるように感じさせた。


「・・・っ。婆ちゃん・・・・」


「ほら、泣かずに食べよ。お婆ちゃんもその方が喜ぶから」


涙を拭い、箸をすすめる。

大好きな祖母の優しい味を噛みしめるように。

皿は、あっという間に綺麗になり、


「婆ちゃん、ご馳走様。美味しかったよ・・・」


感謝の気持ちを込めて、手を合わせた。

その感謝は、食材だけではなく気持ちを込めて作ってくれた人に対してもするものだと、教えてもらっていたけど

この時、俺はようやくその意味が分かった気がした。


食べてくれる人が、健康であるように・・・

元気が出るようにと気持ちを込めて作ってくれたものは、やっぱり美味しくて、その気持ちが料理を通して体に広がっていく気がした。


「そして、岡田さんごちそうさまでした。

おかげで、祖母に会えました」


「お粗末様です。理くんは、お婆ちゃんにとても愛されていたんだね」


保さんに向けて、深々と頭を下げお礼を伝えると俺に手を差し出してきた。


「じゃ、明日からよろしくね。理くん」


「よろしくお願いします」と彼の手をとり、

こうして、俺はどこか不思議な保さんの岡田眼鏡店でバイトをすることになった。


***


「そう言えば、保さんは祖母から依頼料何を貰ったんですか?」


「え?」


営業中とは思えないほど、まったりと窓の外を眺めながらお茶を飲む保さんに目を向けた。


「あぁ、あの時のか、キミのお婆ちゃんの得意料理のレシピだよ」


「レシピ?」


うんそうだよ。と美味しそうにお茶を飲みながら返事を返した。


「じゃ、そのレシピ俺にも教えてもらえませんかね」


「どうして?」


「母に、お弁当に祖母の出汁巻き卵を入れて欲しいっていったら

次の日、弁当箱にゆで卵一個だけ入ってたんですよ・・・」


「あはははははは、ユニークなお母さんだね」


お腹を抱えて笑う、保さんにため息を返した。


「笑いごとじゃないですよ。まぁ朝早く起きて作ってくれてるのに

リクエストした俺が悪かったんですけどね」


「レシピ、教えてあげるけど・・・キミに何をはらう?」


「また、それですか」


「そうだよ、物事には何でも対価が必要だからね」


「そうですね・・・じゃぁ・・・・」


「あっ、理くんお客さんだ!!捕まえて」


「捕まえて・・・って 自分で捕まえてきてください」


飲みかけのお茶を机に置き、一か月前の俺の様に店前で足を止めている人を保さんが出迎える。

そして俺は、そのお客様の為にお茶を淹れる。

今日もきっと、長い話になるだろうから。


「いらっしゃいませ。岡田眼鏡店へ」


どうやら、この眼鏡屋は不思議な力でお客を引き付けている気がする。

そのお客様の目的が、眼鏡ではないのがたまに傷だけど。










眼鏡屋店主 岡田保と、津田理の出会いを書いた

~眼鏡屋は、等価交換をもちかける~はこれで完結です。


天然な保さんと、クールな理くんの 10歳歳の離れたコンビを

笑いや・シリアス・摩訶不思議までゆるく書いていけたらいいなと思ってます。

そして、保さんが色を識別できなくなった理由も書いていきます

よければ次回もお付き合いください。

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