眼鏡屋は、等価交換をもちかける 2
「理くん、どうしたんですか?」
「あぁ、保さんに出会った頃を思い出してたんですよ」
早いですねと言いながら、保さんはお茶を飲んだ。
保さんは、本当に不思議な人だ。俺自身が、体験したけど今でも信じられない。
「理くんと出会って、一か月ですか・・・」
細い目を、より細めて保さんは微笑んだ。
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保さんとの出会いは、悪徳業者ばりの半ば強引な店への引き込みだった。
そこで、保さんは 「貴方は会いたい人がいますよね?」と俺に問いかけ席を勧めた。
一瞬、心を読まれたかと思ったが”怪しくないですよ”という奴に限って
怪しいと相場は決まっている。
どこのインチキ霊能者か、新手のツボ売りか。
「あの・・俺学生ですし、お金持っていませんよ」
慌てて席を立とうとすると、保さんは声をあげて笑う。
「大丈夫、キミからお金を取ったりしませんよ。
依頼主は、キミのお婆ちゃんですから」
「婆ちゃん?」
「えぇ、キミのお婆ちゃんから孫が落ち込んでいるから、
話を聞いてやってほしいと依頼を受けたんですよ」
「俺は、落ち込んでなんか・・・それに婆ちゃんは亡くなってる!!
眼鏡屋に、何の依頼するって言うんだ!!」
俺が疑いの眼差しを向けていると、自己紹介がまだでしたねと猫背になっていた姿勢を少しだけ正した。
「岡田眼鏡店の店長、岡田保といいます。
僕は、幼少の頃病気を患いましてね。
色の識別が叶わない目となりました・・・・
それと、引き換えに不思議なものが見える体質になりました」
信憑性もない話だが、真剣に話すから俺は聞き入っていた。
「信じてもらえますか?理くん」
「どうして・・・俺の名を・・・」
「お婆ちゃんに教えてもらいましたから」そうにっこりと微笑んだ。
暫く部屋には、沈黙が続いた。俺が何も言えなかったから。
「お茶が、冷えてしまいましたね・・・新しいを淹れなおしてきましょう」
そう言い、席を立つ保さんを呼び止めた。
「それ、本当なのか・・・・」
「はい?」
「婆ちゃんが俺を心配してるって・・・・」
「本当ですよ」
「もし・・・それが俺の婆ちゃんなら、俺を心配したりしない」
亡くなった日の朝、俺は婆ちゃんを傷ついた。
あの悲しそうな顔が今でも忘れなれない。
だから、婆ちゃんが俺を心配したりはしない。
俯く俺の横に保さんは腰をかけ
「ねぇ、お婆ちゃんに会いたいか?」と自分がかけていた眼鏡を俺に差し出した。