眼鏡屋は、等価交換をもちかける 3
「これをかければ、婆ちゃんが視えるのか?」
半信半疑で、受け取り俺はその眼鏡をかけた。
何の変りもない、普通の眼鏡で特に度も入ってないようだった。
「特に、何も変わらないけど・・・」
「そうですね、伊達メガネですから」
ボサボサ頭をかきながら、悪びれた風もなく笑顔を向けてくる。
「ばっ・・・馬鹿にしてるのか!!!俺は帰る!!」
「緊張を取ろうとしたんですが・・・失敗でしたかね・・・」
「は?」
(こいつ、絶対頭がおかしい!!)
うむっと、腕を組む保さんを残してドアに手をかけた。
「理くんに怒ったり悲しんだりしてないって伝えてくれって
言ってましたよ」
「え?」
「理くんのお婆ちゃんからの伝言です。
怒らせてしまってすみませんね。
ほら、お茶を淹れなおしますから座ってください」
理さんの不思議な雰囲気と、どこからか香る祖母がまとっていたお線香の匂いにつられ、俺は渋々腰をおろした。
お茶が机に置かれ、勧めれたお茶に口をつけると
どこか懐かしい味がした。
「懐かしい・・味がする」
「でしょ、キミのお婆ちゃんおススメのお茶だからね」
その言葉を疑問に思いお茶を置くと、保さんは”本題にはいろうか”と切り出した。
「色々、疑問に思うところはあるだろうけど
理くん、キミが悩んでいたことを聞かせてくれるかい?
キミの悩みを取り除いてあげる事が、キミのお婆ちゃんとの約束だからね」
穏やかに微笑む保さんと懐かしいお茶の香りに、俺はいつの間にか警戒心を解き
少しづつ祖母との思い出を語り始めた。
**
共働きの両親より俺の幼少の記憶は、祖母との記憶で溢れていて
何処に行くのも一緒で、生みの親は母で育ての親は祖母だった。
祖母は昔人間で、躾も厳しかったけどその分大事にもしてくれたから
俺は祖母の事が大好きだった。
もちろん、高校に通う俺の弁当も朝早くから祖母が入れてくれていた。
炊き立てのご飯と魚の焼ける香ばしい香りで、目を覚ますのが日課で
今思えばとても贅沢な事だったと思う。
弁当は決まって、焼き魚に、玉子焼き、煮物、野菜のお浸しという
健康食が並んでいた。
「理の弁当って地味だよな」
ふっと言われた友人の言葉。
そのどれも、好物だったけど友人の弁当に並ぶ鮮やかな色とは違い
地味な色合いに、俺は恥ずかしさ覚えた。
でも、あの頃の俺はそれがもう食べれなくなるなんて思ってもいなくて、
その贅沢が当たり前で、ありがたみなんて分からなかった。
だから、俺は祖母を傷付けた。酷い言葉で。
大事なことは、無くして気付く・・・・よく言ったものだと思う。
「理、お弁当忘れてるよ」
学校へ行こうと、玄関に向かった俺に祖母はお弁当を抱えてきてくれた。
「いらない」
「どうして?ほら、今日も理の大好きな玉子焼きいれてるからね」
「・・・・・」
「理?ほら遅刻するよ」
押し付けられた弁当を払いのけると、弁当箱はカランと悲しい音をたてた。
「そんな地味な弁当食えるかよ!!」
玄関を飛び出た時一瞬振り返ると、弁当箱を拾う悲しそうな祖母の表情がみえた。
そして、その日の夕方 家に帰る足が重たく街をぶらつく俺に
母から連絡がはいった。
祖母が、倒れたっと・・・・・




