おまけ5 仁義なきプディング
拍手お礼小話の手直し&再掲載です。
1Kの小さなアパートの、せせこましい居間にて、市夜とシン・ク・ロウはにらみ合う。
二人の間には、白いローテーブルが鎮座している。
そしてローテーブルのど真ん中には、皿に載せられたプリンがあった。
これは市夜の上司からの貰い物である、お高めプリン。プッチン、と容器から飛び出すプリンとは、風味から違うのだ。卵の素朴な甘味とほろ苦いカラメルが、するりと喉を通り抜けて行く。
だが生憎、一つ余ってしまった。
幸か不幸か、市夜もシン・ク・ロウも、プリンが大好きである。
「さて、どうしたものでござるか」
「そうね、どうしたものかしらね」
互いににらみ合ったまま、同じ方向に首を傾げる。
残念ながら譲り合いの精神など、この二人の間には、ない。
また、隣室のカズサへ譲るという案が、思い浮かぶはずもなく。
天井からぶら下がる、お気に入りのUFO型ランプシェードを見つめ、市夜は唇を動かした。
「ジャンケンで決めてもいいけど……あなた、知らないよね?」
「拳法の一種でござるか」
「違います」
渋顔の宇宙人は、「閃いた!」とばかりに顔を明るくしたのだが、それを即座に否定する。
しょんぼりとうなだれた彼を横目に見て、考える。
宇宙人でも分かりやすい、あみだくじを使うべきか。
それとも、最近ルールを覚えさせた人生ゲームで決するべきか。
オセロでも、いいかもしれない。
いや、それよりも──宇宙人の特技を使わせる方が、建設的では?
指をパチン、と鳴らして、市夜は薄ら笑う。
「そうだシンさん。このプリンを、真っ二つにして下さいよ」
「む。この、いと柔らかき甘味を、か?」
「はい。閃光器官の刃でなら、スパンと切れるでしょう?」
市夜としては、プリンを綺麗に二分割する妙案に思えたのだが。
シン・ク・ロウはあんぐりと口を開け、信じられない、と目で訴える。
そしてプリンが崩れない程度の勢いで、握りこぶしをテーブルへぶつける。
「心外でござる! 拙者どもの力は、甘味を分けっこするために存在しておらぬ!」
熱くなる彼に対し、伸びをする市夜は淡白な顔のままだ。
「でも今のご時世、斬っていいものなんて雑草とか食べ物ぐらいよ? それに使わなかったら、錆び付いちゃうんじゃなかったっけ?」
「ぐぬぬ……」
下唇を噛んでシン・ク・ロウが唸るも、市夜はあっけらかんとしたままだ。
激情家な彼が、生涯低気圧な彼女に、口喧嘩で勝てるわけがない。
そしてシン・ク・ロウも日々の生活において、徐々に越えられない壁を感じつつあった。
「……かしこまった」
ヘアゴムできつく縛った深緑色の髪を一つ振り、彼は折れる。
続いて伸ばした右手を、軽く持ち上げる。
その刹那、白い皿へ載っていたプリンの表面に、一閃が走る。
見事に高級プリンは、二分割されていた。
「おお、やった。お見事」
市夜は小さく、諸手を上げて喜んだ。
「お粗末でござった」
シン・ク・ロウも、くすぐったそうに笑う。満更でもないらしい。
これにて庶民と未来人と宇宙人の、小規模SFはおしまいとなります。
最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました!




