第四十二話 四天王ダンド
──俺達はラグー遺跡で勇者の盾を守る魔王軍四天王のひとり、ダンドと対峙した。
身長は六から七メートルほどで全身が羽毛に覆われ、背中には翼がある。鳥が巨大な人間になったような容姿だ。右手には大きな斧を持っている。
「性懲りもなく人間がまたやって来たな……」
ダンドから漂う不気味な雰囲気は、これまで相手にしてきた魔物達とは明らかに違う。強敵であることは明白だ。俺はダンドの威圧感に怖気づきそうになったが、勇気を振り絞って声を出した。
「おい、ダンド! 勇者の盾はココにあるんだな!?」
「お前は僧侶か? 僧侶風情に答える義理もないが、冥土の土産に教えてやろう。勇者の盾はこの奥にある。だが、お前達が勇者の盾を手にすることはないぞ。圧倒的な力の前に……この場で死ぬがよい」
(よし、勇者の盾がココにあることは確認できたな。あとは、どうやってこの強敵を倒すか? ……だ)
俺がダンドの特徴を観察して作戦を考えていると、ダンドが先手を取って攻撃してきた。
「まずは手始めの挨拶だ。オールブリザード!! 」
(何っ!? 全体魔法だとっ!?)
俺は驚きで反応が一瞬遅れたが、慌てて全体防御の魔法を唱えた。
「オールマジックウォール!!」
……ババババッ!
強烈な冷気の魔法が俺達を襲うが、防御魔法で辛うじて防いだ。
(……つ、強い! なんて魔法の威力だ!?)
「ほう。防御の全体魔法を使えるのか。以前やって来た人間共は、今の魔法でほとんど凍りつき、帰らぬ者となった。だが……お前達は少しはできるようだな」
ダンドの先制攻撃を受け、ユナとサキが声を上げる。
「僧侶様っ! コイツ強いよ! 今の全体魔法も私より威力が上かもっ!?」
「テルアキッ! 右手に持ってる斧も要注意だ。どれだけ強烈な攻撃をしてくるか分からないぞっ!」
(確かにそうだ。この巨体で大きな斧で攻撃されたら相当な威力だろう。しかも最初の攻撃は様子見の全体魔法で斧は使用していない。コイツの強さは計り知れない……。よく相手を観察しないとっ! 最悪の場合、今回は離脱の可能性も有り得るな……)
「ユナッ! サキッ! 距離をとって慎重に戦うぞ! 俺とユナは魔法、サキは弓だ! 攻撃よりも防御と回避を重視で! ……いいなっ!?」
「わかったよ、僧侶様!」
「ああ、まずはそれがベストだな!」
俺達のやり取りにダンドが反応する。
「ふふふ。強敵相手に防御主体の作戦は悪くない。だが……作戦を相手に聞かれても構わぬということは、僧侶よ、お前ははじめから勝つことを諦めているようだな?」
(……ぐっ!? 痛いところを見抜かれている!?)
「そんなことないよっ! 僧侶様はいつでも色んなことを考えながら戦ってきたんだから! ……喰らいなさい! ファイア!!」
(えっ!? ユナッ!? ……そうだよな! お前のその言葉がいつも俺に勇気をくれるんだ!)
ユナの言葉に勇気づけられ、俺も攻撃魔法を唱える。
「エアー!!」
炎と空気の魔法がダンドを襲う。しかしダンドは大きな翼を体の前で盾のようにクロスさせ、俺達の魔法を受け止めた。
……バババッ!!
「いい魔法だ。魔力も熟練度もそこそこあるな。だが、俺にとってはこの程度の攻撃、大したダメージではない」
この状況に俺もユナも驚く。
「ええっ!? 魔法を身体の一部で受け止めたのっ!?」
「何っ!? 効いてないのかっ!?」
「それは違うぞ。確かに俺はダメージを受けている。だが俺のHPが多い……ただそれだけのことだ。そして、これを見て絶望しろ。……ヒール!」
(……なっ!? 魔法攻撃がほとんど効いていないうえに、回復までされた!?)
続いてサキが弓矢で攻撃を仕掛ける。
「魔法がダメなら、これでどうだ!!」
……ヒュッ! ヒュッ!
サキは移動しながら数本の矢を素早く放った。
……ドスドスッ!!
矢はダンドの右腕に命中した。
「やったか!?」
しかし、ダンドは落ち着いた様子で腕に刺さった矢を抜き、回復魔法を唱えた。
「ヒール! ……弓の攻撃もなかなかだな。だが、そんな攻撃力では俺を倒すことは不可能だ」
(ぐっ……。俺達個人の攻撃では大ダメージを与えられない……)
俺が戦闘の糸口を見つけられずに必死に作戦を考えていると、ダンドが俺達に驚くべき事実を告げた。
「僧侶よ、いい目だ。まだ諦めてはいないようだな。だが、そんなお前に更なる絶望を与えてやろう……」
「何っ!? まだ何か、俺達にとって不都合なことがあるのか?」
「ふふふ。これを聞いてお前達が勇者の盾奪還を諦められる……という点においては朗報だぞ」
「それって一体、何なのっ!?」
ユナもダンドの言葉に怯える。
「教えてやる。俺達四天王は誕生の際、魔王ビアンド様から特殊な能力をひとつずつ与えられている。俺の場合は、……『多大なHP』だ」
(……なっ!? これはマズイ情報だぞ!?)
「何だと!? ……ということは、俺達の攻撃が効いてないんじゃなくて、HPに余裕があるからお前は平気でいられるということか!?」
「そのとおりだ。お前達程度の攻撃では、俺のHPを削り切ることはできない。わかったら諦めてさっさと死ぬがよい」
「そんな説明聞いたからって、はいそうですか……と諦めるかよっ! 剣ならどうだ!?」
サキは短剣を抜くと、一気にダンドとの間合いを詰めて斬りかかった。
「待てっ! サキ!」
俺の制止を無視してサキは突進した。しかし、ダンドは大きな斧でサキの短剣を弾き返すと、バランスを崩したサキの腹部に強烈な蹴りを繰り出した。
「プロテクトウォール!」
……バーーンッ!!
「どわぁっ!!」
物理防御の壁がダンドの強烈な蹴りを受け止めた。サキは一旦下がり、ダンドと距離を取る。
「うまく防いだな。防御がなければその女は今頃、内臓破裂で即死だぞ」
「くっ……。悔しいがヤツの言うとおりだ。テルアキ、助かったぞ」
(サキの接近戦もダメか……。個人攻撃では歯が立たないとなると、残すは連携技だが、今の俺達では連携技でもコイツを倒せるかどうか……)
俺の不安をよそに、ユナとサキは俺に提案する。
「僧侶様、連携技でいく? 『丸焦げオーブン焼き』ならいつでも出せるよ!」
「テルアキ! スピード掛けてくれたら弓でも短剣でも、連携技でやってやるぞ!」
(……あっ! サキちゃん、技の名前言ってない!? 『ちょこまか蜂の巣アロー』とか『めっちゃ斬り斬り』っていう立派な名前があるのにっ!!)
ユナはサキを恨めしい顔で睨んでいる……。
「……何だ? 奥の手でもあるのか? ならば見せてみろ。全力を出さなければ死んでも死にきれないだろう?」
「僧侶様! やっちゃおうよ!」
「テルアキ! やってやろう!」
盛り上がるユナとサキとは対照的に俺は冷静に考えて次の行動を決め、ユナとサキに指示を出す。
「ユナ! サキ! ……俺の手をしっかり掴め!」
「えっ、こう? 僧侶様?」
「何だ? テルアキ……、これでいいのか?」
俺は両手にユナとサキの手をしっかり掴み、ダンドに向かって叫んだ。
「おい、ダンド!! ……百日後だ! 俺達は強くなって必ずリベンジにくる! 次に会う時は……覚悟しろよっ!!」
「ええっ!? 僧侶様! それって!?」
「テルアキ! まさかお前!?」
「イグジット!!」
俺は遺跡の外へ脱出する魔法を唱えた。俺達三人を白い光が包み込み、遺跡の外へと移動させた。
……ビュンッ!!
俺達が反撃すると思っていたダンドはその場に取り残された。
「人間ども、逃げやがった……。百日後と言ったな。どんな成長を遂げて現れるか? 楽しみではあるが……」
一方、遺跡の外で俺はユナとサキに責められていた。
「僧侶様! まだ戦えたんじゃないの!?」
「そうだぞ、テルアキ! 連携技なら、アイツを倒せたかもしれないだろっ?」
大きな声を出す二人に俺は自分の考えを説明する。
「二人とも聞いてくれ。魔王の幹部、四天王は四人いるんだ。全員ダンドみたいな強敵だぞ。しかも魔王の強さはそれ以上だ」
「……うん、そうなるよね、僧侶様」
「だから俺達は、ここで一旦、強くなることを目標にする。勇者召喚の儀式までまだ百三十日ある。百日間、しっかり修行して、まずはダンドを倒せるようにするんだ。できれば連携技を使わずに……だ」
「あの強敵を連携技なしでかっ!?」
「そうだ。今後のことを考えたら、俺達個々がそれくらい強くならないと魔王とは戦えないと思う」
「そっか……、そうだよね。やろう! サキちゃん! 私も、もっと強くなるっ!」
「まず、俺とユナはキャラクターレベルを五十にして上級魔法を使えるようにすることが目標だな。サキは体術の鍛錬だ。剣も弓も……、もう一段階強くしてほしい」
「うん、わかったよ、僧侶様!」
「わかった、テルアキ。確かに、今日の戦いでもっと強くなる必要性は感じたからな」
こうして俺達はダンドとの戦いに敗れ、百日の期限を定めて強くなるための再修行を決意するのであった。




