第十話 ヒント
──祭り開催中の夜、俺とユナはマイスとパステークの食事屋で手伝いをしている。
「ユナちゃん、この料理をあそこのテーブルに運んでねっ」
「テルアキ君、この料理の盛り付けをお願い!」
「はいっ!」
料理好きの俺は厨房業務、ユナはホール業務の担当だ。
「二人ともよくできるねぇ。特にテルアキ君は、即戦力だよ。どこでそんなに料理を覚えたんだい?」
「俺は元いた世界で自宅がレストランを営んでいたので、料理は店の手伝いをしながらずっとやってたんです」
「それで動きが慣れてるわけだ。さて、次はローストビーフ用の肉をオーブンに入れとかないとっ。今夜はまだまだ注文来そうだからね」
──パステークが大きな肉の塊をオーブンの中に入れるのを見てユナが質問をする。
「ねぇ、僧侶様? オーブンに入れると、あんなに大きな肉の塊がどうしてちゃんと焼けるの?」
「えっ? どうして? ……って言われても」
「だって、フライパンで焼いても大きなお肉は下側が焦げるだけで、全体的には焼けないでしょ?」
「それは、オーブンは密閉されてて熱が逃げずに肉全体を包むから……だろ?」
「うーん、そうなんだけど。同じ『焼く』ならフライパンみたいに下から焼くだけより、オーブンみたいに全体を密閉した空間で焼いた方が効率的……ってことだよね?」
「まぁ、そうだな」
「これって、魔法も同じだよね? ファイアで相手を攻撃するなら、普通の空間で燃やすよりも、壁で閉じ込めてその中で燃やしちゃう……方が強力なのかなぁ?」
(……確かにそうだ! 今まで、そんなこと考えもしなかった!?)
「おおっ! よく思いついたな! ユナッ、凄いぞ! 今度試してみようっ!!」
「えへへ。褒められちゃった」
──そんなやり取りをしつつ、祭り最終日の手伝いを終えた。
「二人とも、本当に助かったよ。ありがとう! 晩ご飯、まかないだけど遠慮せず食べて行ってね!」
「ありがとうございます」
ユナとまかないを食べ終えた頃、厨房からマイスとパステークの会話が聞こえてきた。
「あんた、どうしたんだい? そんなに難しい顔をして……?」
「いや、忙しくなると思って、パンを多めに仕入れたんだが見事に余ってしまってなぁ」
「まぁ、仕方ないね。いつもみたいに、パン粉にでもしなよ」
(……パンが余っている!?)
その会話を聞いた俺は咄嗟に動いた。この街には、ドーナツはあるがアレがない。そう……現実世界で俺の恋人である結衣が大好きなアレが……。
「あの! パンが余っているなら、フレンチトーストにしたらどうですかっ!?」
「フレンチトースト? ……何だい? それは?」
マイスもパステークもフレンチトーストを知らないようだ。恐らく、この世界にはないのであろう。
「えっ!? 僧侶様、何それっ!? 私っ、食べたい!!」
と言ったユナは、既にナイフとフォークを両手に持って着席している。
(……いやっ、お前のそのスイーツに関する尋常じゃない嗅覚の鋭さはどこからくるんだよっ!)
俺は待機するユナを横目に、マイスとパステークに話を続ける。
「えっと、フレンチトーストはパンで作るお菓子です。作ってみてもいいですか?」
「ああ、ぜひ頼むよ」
──俺は作り方を説明しながらフレンチトーストを作った。途中、スピードを使って卵液をパンに染み込ませる時間は短縮した。
「さあ皆さん、試食です。好みで蜂蜜かメープルシロップをかけて食べてください」
フレンチトーストがテーブルに運ばれると、ユナの目はキラキラと輝いた。
「いただきます! ……っんん! あぁっ! 何これ!? カリッとして、ふわっとして!! あぁっ! 美味しいっ!!」
「うん、これは凄い! しかも余ったパンで作れるとはっ」
「えぇ! これを出したらお店の名物になるわよ! テルアキ君、これ! 商品にしていい?」
「ええ、勿論です。そう言えば、アイスクリームがありましたよね。少し貰います」
俺はアイスクリームをスプーンでひとすくいし、ユナのフレンチトーストの上に乗せた。
「ほれっ、一緒に食べてみろよ」
温かいフレンチトーストの上にのったアイスクリームはゆっくりとその身を溶かし、フレンチトーストに絡んでいく……。
「あぁ! ……このとろける見た目がっ! もぅ……我慢できないっ!」
……パクッ。
「……っんふぅ!? あぁっ……あぁっ! 美味しすぎるぅっ! 幸せっ!」
未体験の美味しさにユナは幸せそうな顔で悶えている。
「僧侶様っ! 私、これ毎日食べたいっ!」
「いや、さすがに毎日食べたら太るぞ」
「あー! それっ、女の子に言ったらいけないヤツー。ぶぅーっ」
「あはは、悪い悪い」
「でも、毎日食べたい! って思うくらい美味しかったよ。僧侶様、ご馳走様っ!」
ユナはとびきりの笑顔を俺にくれた。
(……俺にとっては、この笑顔が最高の『ご馳走様』なんだよな)
こうして、祭り開催中の店の手伝いは終了した。後談だが、フレンチトーストはこの店の看板デザートになったようだ。
──翌日、俺とユナは魔法の実験をするため、魔物が現れる林に集合した。しばらく二人で歩いていると、都合よく小さな鬼のような魔物が二体現れた。
「よし、実験にはちょうどいい魔物だな。ユナ、まずはファイアだ!」
「うん! ファイア!!」
……バンッ!
ユナのファイアが一体の魔物を捕えた。しかし、炎はすぐに消え、魔物は倒れない。一撃で倒すには威力が足りなかったようだ。
「エアー!」
……バシュッ!
俺はエアーで魔物にトドメをさした。
「いいぞ。ファイア一発では倒せない魔物だな。次は俺がマジックウォールで覆うからユナはその後でファイアだ」
「うん、わかったよ」
「マジックウォール!」
俺は魔法防御の壁をドーム型に作り、魔法の壁で魔物を覆った。正面はユナのファイアが通るように一部は開けてある。
「行くよ! ……ファイア!!」
……ババンッ! ゴゴォー!!
「ギャギャァッ!!」
魔法防御の壁の内側で、炎が渦を巻き、激しく燃え続ける。先ほどの威力とは明らかに違う。魔物は一瞬で黒こげになり消滅した。
「やったな! ユナ!」
「うんっ、僧侶様! これ、凄いよ!!」
予想以上の結果にハイタッチで喜ぶ二人。
「二人で一緒に力を合わせたら、こんなことができるんだな」
「力を合わせて……っていうのがちょっと嬉しいね」
ユナが屈託のない笑顔を見せる。
(全く……コイツは。俺が喜ぶことをいつも平然と言うんだよな)
同じ実験を何度か繰り返したが、結果は安定しており、実戦でも使えることを確認できた。
「……そろそろ街に戻ろう」
「そうだね。僧侶様、今日はいい経験ができたね」
「ああ。ユナ、今日はありがとうな。ところで、今から俺はロティール城に向かう予定なんだが、ユナも一緒に来てくれないか?」
「……え? どうして私も一緒に?」
「大臣から『森林業支援の中間報告』に来るように伝令を受けたんだが、『見知りの魔法使いがいれば同席を願いたい』と書いてあったんだよ」
「そうなの? よく分からないけど……、いいよ。一緒に行くね」
俺とユナはロティール城に向かった。
──ロティール城、謁見の間。
中央には国王アリマンが座し、傍らにレギム大臣、騎士団長ランティーユが立つ。
「アリマン王、本日は森林業支援の中間報告に参りました」
「テルアキ殿、久しいな。そなたの活躍は定期的に聞いておるぞ。……そちらは、魔女か?」
「はい。ユナと言います」
──俺はこれまでの業務について報告した。森林業長のクルガーヌからも定期報告が行われていたため、話はスムーズに進んだ。
「……うむ、よくわかった。ところでテルアキ殿、そなたに相談があるのだが、詳しくはレギムから説明しよう」
レギム大臣が話し始める。
「最近、森林業の林の奥で巨大なアイスジェルを目撃した……という情報があるのじゃ」
(……林の奥で巨大なアイスジェルっ!? それって! ……もしかしてあの時のヤツ!?)
俺とユナは互いに目を合わせ、冷や汗を流す……。
「アイスジェルは放置すると、片っ端から木を凍らせて枯らせてしまってのう……」
「そっ、それは一大事ですねっ!?」
(……まずい! それっ、俺達のせいだ!)
「あのっ、俺とユナは明日、ちょうど仕事が休みの日ですから……、二人で退治に行ってきましょうかっ!?」
「そ、そーですよっ。レギム大臣。私ならファイアも使えるし。うん、私と僧侶様で退治に行くのがいいんじゃないかなっ?」
(俺達のせいなのに、皆に迷惑かけるのは申し訳ないっ!)
「何とっ。テルアキ殿に相談というのはアイスジェル討伐に協力を願うことであったのじゃが、そなたの方から申し出てくれるとは……」
──こうして俺とユナは自分達の責任を感じ、アイスジェル討伐を申し出たのであった。




