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解願師〜人の願いは呪いへと。最強の能力者に拾われた俺、同じ境遇の少女と世界のカラクリをぶち壊す~  作者: 一式鍵
第18章:王都にて

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20-06. ジムレグの襲来

 翌日早朝、俺たちは城下にある呪術師組合(バルーサ)に出向いていた。リタも白鷲騎士団の魔法術師二名を連れてついてきた。


 ――俺は昨夜見た夢の内容については、ヤミにもベスにも話さなかった。


「おじさんには悪いけど」


 人ほどの大きさのある霊話石にぽんぽんと触れながら、ヤミは言う。


「いくよ」


 ヤミは目を閉じる。青白い輝きがヤミを幻想的に照らし出す。


 すごい量の魔力がヤ(・)ミ(・)か(・)ら(・)流れ出ていた。今までどれほど蓄積していたのかというほどの、凄まじい量に、俺の腰のゲミトルードが震えている。


 魔力が霊話石に吸い込まれていくのが見える。


「私にも見えるよ……ッ!?」

「魔力が見えるって?」

「うん。ぶわーってヤミから噴き出した魔力が、ガーって霊話石に吸い込まれていく」


 本当に見えているらしい。


 そこでリタが俺の肩をつついた。


「ヴィレオリア公には影響出ないんだろうな」

「そのはずです」

「これで何かあったら私の首が飛ぶからな」


 リタはやや疑心暗鬼になっていた。俺だって確信なんて持っていない。


 魔力の、そして、ゲドルタのない世界を創り出すこと。人類を魔力の支配から解き放つこと。それが解願師の本当の役割――。


 キケレアーナの言葉だ。はっきりと思い出せる。


 だとしたら多少強硬な手段を取ったっておかしくはない。


「……気付かれた」


 ヤミは霊話石から手を離した。


「ジムレグに探知された。予定通りだけど、ここからどう出てくるかまではわからない」


 ヤミが言い終えた、まさにその瞬間だ。


 俺たちは全員が転倒するほどの衝撃に飲まれた。


「ってぇ……」


 強かに尻もちをついた俺は、うつぶせに倒れているベスを慌てて助け起こす。


「ありがと、だいじょうぶ。地震だと思って」


 俺たちは片膝立ちの姿勢になって周囲を見回した。とりあえず重篤な怪我人はいないようだった。だが、不気味な振動は続いている。


 そこにバルーサの職員が駆けこんでくる。


「外が、空が、大変なことに!」


 真っ先に動いたのはリタだった。部下を連れて霊話石の部屋を出て行く。俺もベスを連れて続く。ヤミは最後尾を歩いている。


「なんて空!」


 バルーサから出るなり、ベスが悲鳴を上げる。


 世界中の暗雲が集まりでもしたかのように、空は黒く渦を巻き、赤い稲妻が奔っているのが見て取れた。そしてそれが一定間隔で収縮し、その度に地上に衝撃波が伝わってきている。


「化け物か」


 リタが白鷲騎士団の二人に臨戦態勢を命じ、二人はすぐに姿を消した。


 六華の城下町は一瞬にして混乱状態に陥った。無理もない。空の渦から、数えるのも嫌になるほどの飛竜が姿を現したからだ。それらは次々と火球を吐き出し、地上の建物を焼き払う。


「これほどとはな」


 リタが舌打ちする。


 集まってきた兵士たちに、「住民の避難を最優先。都市は一時放棄しても構わん」と潔く命じた。


「なに、人がいれば町はちゃんと再生する」


 リタはそう言って剣を抜いた。ベスが半ば呆然とした表情で呟いた。


「でもこんなきれいな都市……」

「作ってくれたのは民だ。私じゃない。だからこそ、民には生きてもらわなければならない。それ以上に大切なことはない」


 そう語るリタの表情には一片の迷いも見られない。ベスがラグリスを持ち直しながら言う。


「あなたも大切です。あなたがいなければ都市は蘇りません」

「それはそう」


 リタは笑う。こんな状況でも笑える――まさに女傑と呼ぶに相応(ふさわ)しいと俺は思った。


「しかし、今の主役は君たちだ。うまくやれ。ジムレグを討ち取れるのなら、何が起きても構わん」

「ありがとうございます」


 言いながら、うるさく飛び回る飛竜たちを目で追う。飛竜は無差別に攻撃を仕掛けているだけで、特に俺たちを狙っているわけじゃない。真打(しんうち)は別にいる。


 ジムレグがどう出てくるか。


 屍霊術師……。


 ――そうか、そういうことか!


 奴は自らの眷属をこの無差別攻撃で作り上げるつもりだ。下手すれば数千規模の屍が生まれるこの襲撃の中で、ジムレグはそれらを眷属にしようとしている。


 俺はその可能性をリタに告げる。


「なるほど、非道な輩の考えそうなことだ」


 リタは眉間に皺を寄せ、顎に手をやって俯いたが、やがてニッと口角を上げた。


「ならばますます、我が民に死なれるわけにはいかんな」


 ガシュリナ!


 リタが叫ぶ。


「ガシュリナ、ここに」


 白鷲騎士団の衣装を纏った女性が、リタの目の前に片膝を付く。


「リナ、住民避難に当たっている白鷲も総動員し、まずは飛竜を残らず叩き落せ」

「承知!」


 立ち上がることもなく姿を消すガシュリナと呼ばれた女性。顔はよく見えなかったが、多分ヤミより少し年上くらいだろうという印象だった。


 たちまち、空は飛竜迎撃の炎に包まれる。飛竜も火炎を噴いて応戦してくるが、白鷲の魔法術師や弓兵部隊は優秀だった。何十といた飛竜は確実に数を減らしていく。地上に落ちた飛竜たちは槍兵部隊に串刺しにされた。


「すごい。まるで飛竜と戦ったことがあるみたい!」


 乗ってきた馬で城へ移動する途上で見かけたそれらの光景に、ベスが感嘆(かんたん)の声を上げる。戦(いくさ)とは無縁に思えるこの六華(りっか)の都の兵士たちがこれほどの練度とは、正直予想外だった。


 凍(い)て付いていた朝の空気は、今や熱風にまみれていた。あちこちで家が燃えていた。死者も大勢出ている。救えない命もある。だが俺らはジムレグの次手に備えるために城に急ぐ。


「ありとあらゆる危険に備えるために、私は兵士専業の大部隊を組織した。普段は穀潰しだのなんだのと言われているが、だからこそ、こういう時に力を発揮してくれる」

「それを維持するためにも街道事業を主導したんですね」


 俺が言うと並走するリタは頷いた。


「金が入って来なければやりたいことはやれん。何にしても先立つものが必要なんだよ、レア」

「世知辛いですね」

「信用できるものがあるだけマシさ」


 リタは颯爽と馬を走らせていく。


「空!」


 ベスが俺の隣に並んで上を指差した。空は先ほどよりももっと暗くなり、辺りはすっかり夜だ。火災の炎がなければ道も見えないだろう。


 その空に、巨大な二つの目が浮かんでいた。


「なんて気色の悪い……」


 俺が呟くと、それは目(・)を(・)細(・)め(・)た(・)。


 まるで笑ったかのように。


「リタ、ヤミ!」


 俺たちが呼びかけると、二人は馬を止めた。そして空を振(ふ)り仰(あお)ぎ、しばし無表情に硬直する。


「あれがジムレグか」

「アタシの知ってる姿とはだいぶ違うけどね」


 だけど間違いない――ヤミは刀の柄に手を乗せて呟く。


「奴は必ず地上に下りてくる。そこを仕留めるよ、レア、ベス」

「了解!」


 俺たちが相次いで応答すると、リタはわざとらしく肩を竦(すく)めた。


「正直、ジムレグがこんな化け物だとは思わなかった。そしてあんなものに挑める君たちのそれは、無謀というのか勇気というのか、私にはわからない」


 だがね――リタの灰青色の目がギラリと光る。


「私の六華の都をここまでやってくれた落とし前、どうやってつけさせてやろうかと、私は今、真剣に考えている」


 リタは静かに激怒していた。


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