78遠征3
「よし……」
ペリフェは自身の魔力を放出する。
俺の白い神聖力とペリフェの黒い魔力が混ざり合い、銀色に変わっていく。
「ペリフェ、避けろ!」
魔物が腕を高く振り上げる。
どうなってるのか疑問だったが、肘から連結した腕にもちゃんと神経は通っているらしい。
ピンと一度真上に腕全体が伸びて、ムチのようにしなりながらペリフェに向かって振り下ろされた。
ペリフェが横に飛んで腕をかわす。
「当たると痛そうだな」
地面に当たった腕はビタンと大きな音を響かせる。
「……クレンシアたちはフォローに動け!」
見るとクレンシアペアは聖聖の組み合わせのようだった。
こうなれば聖魔のペリフェをメインとして、クレンシアペアはそれぞれ神聖力で強化しあってペリフェのフォローとして動いてもらうのがいい。
「……みんな頑張れ!」
神聖力のここがいいというところは、魔に任せていてもいいというところだ。
神聖力さえ送り込めば仕事になる。
ちょっと離れたところから指示を飛ばせば、俺はそれなりに働いているように見える。
なんとお得な役回りだろうか。
パシェの何もしないの? という視線が突き刺さっているような気がするけれど、俺は俺の仕事をちゃんと果たしている。
決して安全圏から応援しているだけではない。
「機動力があるわけじゃないんだな」
腕長魔物は腕を振り回してペリフェたちを近づけまいとしている。
折れてしまいそうなほどにしならせて叩きつけられる腕攻撃は侮れない。
ただたくさん生えている足を活かすような様子はない。
悪魔が作った魔物は悪魔のセンスも問われる。
魔物の力は作った悪魔や素材となった人間などにもよるが、見た目だけ派手で機能性が全くないような造形をしていることもある。
三本ずつ生えている足も、実際使われているのは一本ずつで残り二本はブラブラとしているだけ。
「もっとなんかあんだろよ……」
ただ無駄につけられた足ということに俺は顔をしかめる。
悪魔が真面目に魔物を作っているとも思えない。
悪ふざけかもしれない。
「当たりませんよ!」
クレンシアを狙った腕は空ぶった。
聖都での戦いでは神聖力の使いすぎで脱落してしまったクレンシアだが、一度魔物との本当の戦いを経験しているおかげか今回は割と冷静だ。
「はぁっ!」
地面に叩きつけられた腕を狙ってペリフェが剣を振り下ろす。
肘から伸びる先端の三本目の腕が真ん中から切り落とされる。
「いいぞ〜」
俺はゆるーく応援する。
最初こそ真面目に指示を出していたが、魔物の動きにみんなも慣れてきた。
ここは細かく指示を出すより各々の自主性に任せる方がいいだろうという優しい判断をしたのだ。
必要なら指示を出す。
それはもちろんだ。
「うーん……位置取りがまずいな」
クレンシアのペアの子が少し孤立するような位置にいる。
狙われるとペリフェとクレンシアのフォローを受けられない。
「チッ……しょうがないな」
俺は場所を移動する。
クレンシアのペアの子に何かがあっても動けるように待機する。
「きゃあっ!?」
「おおっと」
嫌な予感は当たる。
ペリフェに向かって振り下ろして地面に叩きつける。
しかし魔物はそれで動きを止めず、腕をそのまま引きずるようにしながら振り返って後ろにいたクレンシアのペアの子に向かって腕を振り上げて攻撃したのだ。
なんとかガードは間に合った。
けれども勢いのある一撃の威力を受けきれずに、クレンシアのペアの子は吹き飛ばされる。
「あ、ありがとうございます」
「怪我はなさそうだけど……これで大丈夫そうか?」
後ろで待機していた俺は、抱きかかえるようにしてクレンシアのペアの子を受け止めた。
みたところ怪我はない。
だが衝撃で腕が痺れているかもしれないので、神聖力で治してやる。
「くらえ!」
そうしている間にペリフェが魔物の懐に入り込んで、腕を肩口から一気に切り落とした。
「あとちょっとだ。行ってこい」
「はい!」
俺はクレンシアのペアの子の背中を押してやる。
腕が一本無くなったら戦力半減だ。
しかも残った腕は先ほどペリフェによって三本目が斬られて短くもなっている。
「やああああっ!」
腕を掻い潜り、クレンシアが魔物の胸を斬りつける。
黒くてドロっとした血のようなものが胸から垂れて、異様に白い肌を黒く染めていく。
「私だって!」
「このまま押し切る!」
クレンシアのペアの子も負けじと魔物を斬りつけ、ペリフェも続く。
銀のオーラをまとった剣が魔物の首を斬り飛ばす。
「ふむ、あいつはなかなかいい聖騎士になりそうだな」
ペリフェの容赦ない一撃にゲルディットも思わず唸る。
首が高く飛んでいき、魔物の胴体がビクンビクンと大きく痙攣して力なく地面に倒れていく。
「えいっ!」
クレンシアはさらに魔物の残った腕を斬る。
たとえ首を斬っても死なないことがある。
本当に死んだと確認できるまで油断しないというのは、悪魔や魔物と戦う上での基本的な常識だ。
死体を切り刻むのは気が引けるが、これをおろそかにすると後々痛い目を見ることもあるので大切なことである。
「ふぅ……これで終わり…………」
『気をつけて』
「……これは!」
ペリフェたち三人で魔物の死体もしっかり分解した。
こうなれば生きていたとしても何もできない。
終わりだろうと思った俺の耳に小さく声が聞こえた。
ささやくような声は近くにいなきゃ聞こえないぐらいに小さい。
だが俺の周りに人はいない。




