105悪あがき3
「俺を! 犬扱いするな!」
「首輪つけて飼い慣らしてやろうか!」
エダモスディが俺に襲いかかってくる。
振り回される爪は速く、正直口撃ほどの余裕はない。
だがイラつかせればそれだけエダモスディの動きも大きくなるし、口が軽いのは生まれた時からだからしょうがないのだ。
「ぐっ……」
「どうした? 背中の傷が痛むか?」
俺はエダモスディの隙を窺い、防御に徹する。
ガードしきれず細かな切り傷は増えるも、致命傷になりそうな攻撃はしっかりと防いでいる。
俺は激しく攻撃するエダモスディの顔が、苦痛に歪んだことを見逃さなかった。
エダモスディの背中には二つの傷がある。
俺がつけたものと、タランたちがつけたものだ。
幽霊を喰らってタランたちがつけた傷の方はいくらか治癒し始めているが、俺がつけた傷はかなり深く背中に刻まれている。
銀のオーラを込めて切り裂いたので、悪魔にとっては非常に苦痛の大きなものとなっているはずだった。
「があっ!」
痛みに動きが鈍った隙を突いて、エダモスディの肩に剣を突き刺す。
銀のオーラがエダモスディの肩を焼き、黒い煙がプスプスと上がる。
「この……!」
エダモスディが爪を振り回す。
焼却場の壁がざっくりと切り裂かれ、壁の一部が俺に飛んでくる。
「死ね!」
飛んでくるガレキの向こうから振り下ろされるエダモスディの爪を、俺は剣で受け止める。
爪が刃に食い込み、上から押さえつけられる強い力に俺は顔をしかめる。
「このままぶった斬ってやる!」
力比べでは分が悪い。
顔が赤くなるほどに力を込めても俺の方が押されていく。
「うっ……」
額ギリギリまで爪が迫る。
勝利を確信したかのように笑うエダモスディの顔がすごくムカつく。
「一ついいこと教えてやる……」
「なんだ? 言い残したことでもあるのか?」
爪の先が俺の額に刺さって血が流れる。
「お前……ずっと後ろがお留守なんだよ」
「なに……」
「よく耐えたな」
今度は俺が笑う番だ。
エダモスディの後ろにゲルディットが迫っていた。
「がああああっ!?」
デラから神聖力を受けて銀のオーラをまとったゲルディットに再び背中をざっくりと切り裂かれ、エダモスディはケモノのように叫ぶ。
「少しは後ろも警戒することだな!」
俺は爪を押し返し、エダモスディの首を狙う。
「カァッ!」
「なっ!」
乱雑に振られた爪と俺の剣が衝突する。
その瞬間俺の剣が折れてしまう。
爪によって刃はだいぶボロボロにされていたが、なにもこんな時に折れることはないじゃないか。
剣が折れた俺をみて、エダモスディはゲルディットの方を向く。
もはや剣がなければ脅威ではないとでも言いたげだ。
「だから言ってるだろ?」
剣が折れた?
だからどうした。
俺は手を伸ばし、エダモスディの頭の毛を鷲掴みにする。
「後ろに気をつけろ……ってな!」
「ああああああっ!?」
折れていても剣は剣だ。
それに、剣が折れようと俺の戦う意志までは折れていない。
これは折れた剣を思い切りエダモスディの目に突き立てた。
刺された激痛、銀のオーラに焼かれる激痛がエダモスディに襲いかかって、これまでに聞いたことのないような悲鳴を上げる。
「ああ……ああっ!」
エダモスディは剣を抜こうとするが、俺は後ろからしがみつくようにして抜かせない。
「ふざけるな!」
俺がいては剣は抜けない。
ようやくそのことに気づいたエダモスディは、乱雑に俺を掴んで投げ捨てる。
「うっ!」
焼却場の壁に叩きつけられるが、狙った攻撃でもなかったので多少息が詰まったぐらいだった。
「うがああああっ!」
エダモスディは己の目に刺さった剣を引き抜く。
ほとんど黒に近い血が涙のように目から流れて垂れていく。
「ごめんね。可愛いお目目が台無しだ」
残った目は怒りに染まり、俺のことを睨みつけている。
「こ、の……」
「ほら、また後ろ」
再三後ろから攻撃された。
俺の言葉にエダモスディは過剰に反応して振り向いた。
片目がないのだからしっかりと振り向かねば後方の確認もできないのだろう。
「ああ、ごめん。横、だったな」
ゲルディットの剣がエダモスディの脇腹に突き刺さる。
真後ろではなく、ゲルディットは横から迫っていたのだ。
エダモスディがゲルディットに視線を向けると、パシェが剣を振り下ろしていた。
なんとか爪で防いだが、力が入らないのかパシェの勢いに押されていた。
デラはもう俺ではなく、パシェとゲルディットの方に神聖力を送り込んでいる。
大怪我を負った状態に、銀のオーラをまとった悪魔祓い二人。
もはや剣も持たない若輩者など気にする余裕はない。
「後ろだよ!」
俺は一度息を吐き出すと走り出した。
せっかく俺が教えてやってるのにエダモスディは俺の言葉を無視する。
ちょっとは気にしたように耳が動いたけれど、もう騙されないということなのだろう。
「だからさぁ、言っただろ?」
俺は懐からナイフを取り出した。
緊急事態でも戦えるように常に懐に忍ばせてあったものを取り出し、自前の魔力と神聖力を混ぜて銀のオーラにしてまとわせる。
俺が後ろから走っていっても、エダモスディはゲルディットとパシェの対処にいっぱいいっぱいになっている。
「後ろだってな!」
俺は地面を蹴って飛び上がり、エダモスディの脳天目掛けてナイフを振り下ろした。




