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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
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第11章 砕ける理性 ― 再生の瞬間 ―

鷺沼は、不破が持ち帰った“柔軟性の設計”に向き合う。

反発の裏にあったのは、ずっと求めていた“許し”だった。


翌朝。

鷺沼さぎぬまはいつになく早く出社していた。

不破ふわがまとめた新しい設計資料を、

何度も読み返していた。


紙面の隅には、見慣れない発想がいくつも書き込まれていた。

安全装置の自動補完、入力ミスの回復プロセス、

ユーザーエラーを前提とした分岐構造。


(……なぜ、こんな設計を?)


無駄のない美しさの中に、

確かな“温度”があった。


やがて、鷺沼は顔を上げ、不破に声をかけた。


「不破。ここはなぜ、こうした?」

「利用者が操作を誤っても、戻れるようにしたかったんです。」


「戻れるように? ……それでは処理が遅くなる。」

「はい。でも、“間違いをやり直せる”ということは、

 利用者に安心を与えると思ったんです。」


「安心……。」

その言葉が胸の奥で小さく響いた。


「では、ここは? この分岐はなぜ必要だ?」

「これは、“正しい選択をしなかった場合”の対応です。

 人は常に正確ではない。だから、次の選択肢を残しておくんです。」


カチ、カチ、とペン先が机に当たる音。

鷺沼の手が止まっていた。


(人は……常に正確ではない。)


長い間、自分が否定し続けてきた言葉だった。

だが今は、それがまるで正解のように思えた。


不破がゆっくりと、静かな声で言った。

「この設計は、アークシステムズの如月さんと凪さんに教えてもらったものです。

 ……もしよければ、一度オンラインで話してみませんか?」


鷺沼は少し驚いたように眉を上げた。

だが、その瞳にはもう拒絶の影はなかった。

「……わかった。準備を頼む。」



◇◇◇



午後。

オンライン会議が始まった。


画面の中には、アークシステムズのメンバー――

しゅうなぎたまき永峰ながみねあかり、そして不破ふわが並んでいた。


柊が穏やかに言葉を紡ぐ。

「今回のシステムは、“完璧な正解”を求めるものではありません。

 人が誤り、学び、また挑戦できるようにするための仕組みです。」


鷺沼さぎぬまは真剣なまなざしで聞いていた。


凪が画面を共有しながら説明を続ける。

「この分岐設計、最初は“無駄”だと思う人もいます。

 でも、誰かがミスをしたとき、その“無駄”が命を救うことがあるんです。」


灯が優しく言葉を添えた。

「私たちは、できないことを責めるシステムではなく、

 “もう一度やってみよう”と思える設計を目指しています。」


その言葉に、永峰が静かに微笑んだ。

「システムも、人も、何度でもやり直せる。

 それが私たちの“柔軟性”です。」


鷺沼は画面越しに彼らの顔を見渡した。

誰も偉ぶらず、誰も争わない。

ただ信じて、支え合っている。


 (……この人たちは、欠けたままでも光っている。)


沈黙のあと、鷺沼が口を開いた。

「……私はずっと、完璧だけが正しいと思っていた。

 でも違うのかもしれない。

 “やり直す力”を、システムに込めること。

 それが、本当の強さなのかもしれない。」


不破はゆっくり頷いた。

「鷺沼さんのやってきたことは、間違いじゃないと思います。

 ただ――他にもやり方があるということです。」


その一言に、鷺沼の唇がわずかに震えた。


胸の奥で、長く張り詰めていた氷が砕ける音がした。

それは痛みではなく、

静かな解放の音だった。


「……ありがとう。不破。

 君たちのようなシステムを、私も作りたい。」


画面の向こうで、柊が柔らかく微笑んだ。

「ようこそ、鷺沼さん。」


その声は、まるで朝の光のように優しく、

長い夜を終えた者の胸に、静かに届いた。

砕けたのは理性ではなく、

完璧でなければ価値がないという思い込みだった。

光が差し込んだ鷺沼は、静かに再生へ踏み出していく。


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