第10章 心でつながる回路 ― 不破の目覚め ―
不破は真実を確かめるため、アークに連絡を取る。
そこで出会ったのは、“心でつながる設計”という新しい価値観だった。
夜。
不破は、鷺沼には何も告げず、
アークシステムズ宛にオンラインの通話リクエストを送った。
“技術的な質問があります”
それは建前だった。
胸の奥では、ただ確かめたかった。
――なぜ、彼らのシステムには“温度”があるのか。
すぐに画面が開き、
凪の明るい声が響いた。
「こんばんは。不破さんですよね? どんな内容ですか?」
その声には、まったく防御の色がなかった。
不破は少し戸惑いながらも、
質問を切り出した。
「第八工程の設計意図を詳しく伺いたいんです。
“柔軟性”という部分が……まだ理解しきれていなくて。」
凪はにっこり笑った。
「なるほど。あれは“変化に対応できる仕組み”という意味なんですけど、
単に条件分岐を増やしただけじゃないんです。」
「というと?」
そのとき、柊が画面に入ってきた。
「こんばんは、不破さん。如月です。
私たちは、システムを“人が使うもの”として作っています。
どんなに正確でも、使う人の気持ちが置き去りになったら意味がない。」
不破は静かに聞き入っていた。
「システムは間違わない。でも、人は間違う。
だから、私たちは“やり直せる余地”を残したいんです。」
凪が真剣な表情で言葉を継ぐ。
「それが“柔軟性”の本当の意味なんです。」
環がそっと言葉を添えた。
「機械は心を持たないけれど、
その機械を作るのは人間です。
だから、そこには作る人の“心”が宿る。
私たちは、そう信じて作っているんです。」
その言葉を聞いた瞬間、
不破の胸の奥で何かが動いた。
(心が……宿る?)
柊が静かに締めくくる。
「柔軟性は、甘さではありません。
不測の事態を想定し、人の選択を信じる“強さ”です。
それをシステムで表現したいんです。」
通話が終わったあと、
不破はモニターの前でしばらく動けなかった。
機械的な合理性の向こうに、
確かに“人のぬくもり”が存在していた。
――理屈では説明できないが、理解できた。
胸の奥で静かに火が灯るような感覚。
(……これが、“柔軟性”か。)
彼は初めて、設計図ではなく“心”を理解した気がした。
◇◇◇
― 予兆 ―
翌日。
不破は資料をまとめ、鷺沼のもとを訪れた。
「鷺沼さん。
あのシステム、見直してもいいかもしれません。
“柔軟性”って……
設計の中に“やり直す力”を残すことなんです。」
鷺沼は、目を細めて彼を見た。
「……やり直す力?」
不破は小さく頷いた。
「はい。
システムは間違わないけれど、人は間違う。
だからこそ、人の作るものには“許し”が必要なんです。」
静かな一言だった。
だが、それは確かに鷺沼の胸に届いた。
――完璧とは、壊れないことではなく、
壊れても立ち上がることを含む。
その意味が、
彼の中でゆっくりと形を成していった。
胸の奥で静かに火が灯る。
不破は初めて“心の回路”がつながる感覚を知った。
その火は、やがて鷺沼にも届く光となる。




