大聖木と紋章付きの指輪 1
力尽きたララは、巨木にもたれかかるようにして、倒れそうになる体をかろうじて支える。
視界に映るのは、一直線に天へと駆け昇る閃光──。
ふと見れば、巨木を覆っていた禍々しい気配は消え去り、巨木は青白い優しい光を纏いながら、眩しいほどの神々しさにあふれていた。
ふいに、肩に触れるぬくもりがある。
顔を上げれば、片膝をついたアーヴィンがすぐ横にいた。
彼はララよりも驚いた表情で、向こう側の何かを食い入るように見つめている。
「あれ──」
つぶやいた彼の視線をたどり、ララもその先へと目を向けた次の瞬間、思わず息を呑む。
つい先ほどまでララたちに襲いかかってきていた真っ黒な魔獣が、今はまるで憑きものでも落ちたかのように、青白い光を放つ獣へと変化し、嘘のように穏やかにその場に佇んでいる。
「聖獣──?」
あまりに信じられない光景に、ララは目を疑う。
アーヴィンも、「そんな、まさか──」と言葉を失っている。
それは、古い言い伝えの中でのみ、細々と語り継がれている存在──。
前世のララフネスやアルトリウスでさえも、目にしたことはなかった。
きっとこの世界の誰もが、それはただの空想上の存在にすぎないと思っていたこと──。
すると急に、辺りが何やら眩しく、騒がしく感じられた。
ララはぐるりと宙を見回し、視界に映り込む光景にポカンとしてしまう。
「妖精……?」
魔の森の中には、小さな淡い光がいくつも浮遊していた。
よく見れば、人のような姿で背中に透明な羽が生えている。
ララが驚きながら見回していると、何かがララの顔面目がけて飛び込んでくる。
「──ララ!」
それは魔の森に入る直前に別れた、祝宴の妖精フィーだった。
ララの大切な友人。
「フィー!」
ララが再会を喜びながら思わずその名を呼ぶと、フィーは羽を忙しげにパタパタさせ、ララの頭に張りつくように抱きつく。
「よかった、今度は生きてた! ララー!」
「フィー、どうしてここに? 魔の森には入れなかったんじゃ──」
「それが突然、いやな気配が消えて、この森一帯が浄化されたみたいなんだ! だからほら、ぼくだけじゃなく、ほかの妖精たちも!」
宙を舞う妖精たちはうれしそうに、きゃっきゃっと可愛らしい笑い声をあげながら、くるくると踊っている。そうして口々に、
「──大聖木が戻った」
「──奇跡だ!」
「──我らの森がようやく返ってきた」
と言い、何やら喜び合っている。すると、
「……父さんが遺した日記に書かれていたことは、本当だったんだ」
テオだった。