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逃走劇の始まり 1

「──無事、逃げられそ?」

「え!」


 突然声が聞こえたと思ったら、今度は目の前の空中に、手のひらくらいの小さな人間そっくりの生き物がパッと現れる。背中には透明な羽が生えていた。


 その姿に見覚えがあった。


「もしかして、フィー⁉︎」


 ララは目を疑う。


 ララのためにあの銀製の酒杯に魔法をかけてくれた、祝宴の妖精だ。


 フィーは懐かしげに目を細め、

「ああ、本当にララだ。久しぶりだね。どう? 前のきみが命を落とす直前に、ほんのわずかだけどきみの神聖力をあの酒杯に移しておいたんだけど」


「へ?」


「ララの魂を持つ人間が酒杯に注がれたお酒を飲むと、神聖力を受け取れるようにしておいたんだよ」


「受け取れる、ように……?」


 ララは意味が呑み込めず、訊き返す。


 フィーはさも当然といった様子で、

「そうだよ、だってララが生まれ変わっても、神聖力がないとぼくのことも見えないじゃん。あって困るものでもないし、むしろあったほうが何かと便利だよ? ほら、神聖力がある人間は人間界では重宝されるんでしょ? それにいざというとき魔獣からも身を守れるし」


 フィーはララの顔の周りを、スイスイと軽快に飛び回る。


「それにあの酒杯、今では大聖女の聖杯として祀られてるんだって? ずいぶん長い時間が経ったからかな、人々の祈りや希望の欠片みたいなものが集まって大きな神聖力が蓄えられてたみたいだ。ね、僕のとっさの機転、褒めてもらいたいくらいだな」


「ええっと、フィー……」


 混乱するララをよそに、目の前をひらりと飛んだフィーがさらに続ける。


「それにすんなり酒杯を取り戻せたでしょ? 酒杯が置かれてたあの広間にいた衛士たちは、裏でぼくがお酒で眠らせておいたんだから! あ、さっきのあの神官っぽいこうるさいじいさんもね! だいたいあの酒杯は、ぼくがララのために祝宴の魔法を特別にかけてあげたララ専用のものだっていうのに、あのじいさん何言ってんだろうね!」


 フィーは可愛らしく頬を膨らませている。


 どうやら彼が衛士や神官長らを魔法で酔わせて眠らせ、ララを手助けしてくれていたようだった。


 とはいえ、彼らは仕事中だったのに酔って眠ってしまってあとで怒られたりしないだろうか、少し心配してしまうが。


「とにかく助かったわ。ありがとう、フィー」

「えっへん!」




 城外へと続く南の裏門までたどり着いたときには、ララの息はかなり上がっていた。


 なんとか息を整えると、ワンピースのポケットに私物の薄手のハンカチを入れていたのをふと思い出し、急いで取り出す。


 今の時代、薄水色の髪はあまりいないようで目立つ可能性がある。髪の毛を隠すようにハンカチを頭に被せると、顎の下で軽く結んだ。


 通常こういった城門には門番が待機し、出入りする者の身元を確認したうえで、門を開けてくれると聞いている。


 ララは努めて冷静さを装って門へと近づき、怪しく見えない程度にチラチラと左右を見回す。


 門の前には、門番らしき人の姿は見当たらなかった。


 城門の横には、年季の入った小屋らしきものが見える。おそらく門番が待機したり、休憩したりするための場所だろう。その中にいるのかもしれない。


 ララは小屋に近づき、古びた木戸を数度ノックする。すると、愛想のよさそうな若い門番が戸を開けて顔を覗かせた。


「外出ですか?」

「ええ、そうなんです」


 ララにそう尋ねる若い門番は、彼女を城内の使用人だと思っているようだ。


 ララはにっこりと笑い、手を伸ばし、指先にほんの少し力を込める。


 その瞬間、門番が眠りにつき、小屋の中にあった椅子にどさりと倒れ込むように座る。


「──ふう、久しぶりだけど、使えるものね」

「あれ、眠らせたの?」

「うん」


 神聖力は魔獣には消滅を、人には癒しと治癒を与える効果がある。少しの癒しなら眠気を誘発できるのだ。


「ええー、ぼくがやってもよかったんだよ?」


 不服そうに言うフィーに対して、ララは苦笑すると「酔わせるのはちょっとね」と答える。


 ひとまずこの隙に門から出てしまおう。


 門には細長い鉄製のかんぬきが差し通されているだけなので、女性のララでも動かして、開けられるはずだ。


 急いで門に近づこうとしたとき、


「どうかしたのか?」


 突然、背後から声をかけられた。



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