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マリア

20 マリア



 「ああああぁあ゛ぁぁぁあああ゛あ゛!!!!」

 僕の喉から自分でも制御出来ない声が出る。

 心臓は早鐘を打ち、寸刻、呼吸の仕方が分からなくなる。

 咳き込む事で呼吸を思い出した僕は、肉塊と化した千代の元へと駆け寄った。

 「千代!千代!!」

 左半身が吹き飛び、正中線が抉れた千代の身体を揺さぶると………


 「はーい」

 千代が返事をした。

 え………

 僕の意識は急激に冷静さを取り戻す。


 確かに僕は千代に呼びかけた。

 彼女が返事をしてくれるのであれば、それ以上望むべくもない。

 だからこそ、僕は幻聴を疑った。

 僕の願望が有りもしないものを聞かせたのだと。

 見れば分かる。

 分かってしまう。

 手や脚が無くなっても命は助かるかもしれないが、頭が抉れれば人間は死ぬのだ。

 しかしながら。


 彼女は人間ではなかった。

 「いたたたた。体動かへん………」

 千代の声が聞こえ、目玉が動いた。

 「千代?」

 「明人くん、涙出てるやん、恐かったなーよしよし」

 よしよしと言うが、彼女の手はピクリとも動かない。

 「千代、大丈夫なの?」

 「痛みはなくなったけど体が全然動かへん」

 うーんと唸りを上げる千代。

 おそらくは身体を動かそうとしているのだろう。

 しかし、身体どころか顔面まで惨憺たる状況だ。


 「おっ!」

 急に感嘆する千代。

 「何か手と足生えたわ!」

 見ると確かに目玉から手足が生えている。

 子供が描く棒人間の様な手足だ。

 わーい、と言いながら走り出す千代………の目玉。

 見たところ視神経の類は無く、ほぼ完璧な球体である。

 これが目玉じゃなければゆるキャラとして生きていけるかも知れない。

 かつて自身の身体だった物を残し、眼球とそこから生えた落描きのような手足で走り回る千代を眺め、僕は考えるのを止めた。


 「千代さんがご無事で何よりです」

 ラルカさんの声が僕を現実世界へと引き戻した。

 ラルカさんが捕らえている金髪の少女。

 この子がマリアというホムンクルスだろう。

 髪は長髪で白のシャツワンピースを着用している。

 千代をあんな状態にしたと思うと憎しみが込み上げるが、視界の端で楽しそうに走り回る目玉を見ると、そんな事はどうでもよくなった。


 「あの状態は無事っていうのかりゅん?」

 「大丈夫だろう、一つ目の種族は眼球が無事ならどうとでもなる」

 ピンク髪の少女と黒田が話している。

 この声、喋り方、そして頭に生えた角。

 やはりこの子がりゅんりゅんだろう。

 身長はラルカさんと同じぐらい。

 僕より頭一つ分程低いので、150cmくらいだろう。

 ピンク色の髪に牛のような黒い角、そして赤い瞳。

 背中にはドラゴンの翼が生えており、それは鳥や翼竜のような進化の過程で腕が変形したものではなく、腕とは全く無関係に背中から生えている。


 「そこの目玉の子が大丈夫なのは分かったけど、こいつは大丈夫なのかりゅん?」

 りゅんりゅんの視線の先には地面に横たわる女性の姿があった。

 年齢は二十代くらいだろうか。

 身長は僕よりも高く、メリハリのあるモデルのような体型だ。

 紫掛かった赤のロングヘアには羊のようなカールした角が二本生えている。

 そして服装は下がジーンズ生地のホットパンツ。

 上半身は白地に黒い輪が四つ、それにfourmalという文字がプリントされた半袖Tシャツだ。

 かなりサイズが小さいようで胸部がパツパツになっており、腹の部分が隠れきれずにヘソが露出している。


 もしかして、この人ってメア?

 見た目はガラリと変わってはいるが、服装はメアと同じだ。

 それに彼女が成長すればこのような姿になる様な気がする。

 僕の予想は当たったようで、目玉だけの状態になった千代が駆け寄りメアの名前を呼んでいる。

 死んで………はいないと思う。

 仰向けになったメアの胸は彼女の呼吸に合わせて上下している。

 「えっと………どういう状況?」

 誰に尋ねたわけでもない。

 しかし状況を全く把握できていない僕はそんな言葉を口にした。


 「そいつがいきなり襲いかかってきたりゅん」

 僕の問いかけに答えたのはりゅんりゅんだ。

 りゅんりゅんの指差す先には片膝をついて、今にも泣き出しそうな、あるいは殺意を持ったような、何ともいえない表情を浮かべた金髪の少女だ。

 この少女が、おそらくマリアというホムンクルスだ。

 ブロンドのロングヘア、白い服を着た少女の姿は、黒田が見せてくれた監視カメラの映像に映っていた人物と一致する。

 今はその横に立ったラルカさんの右手が彼女の方に向けられ、無数の魔法陣が彼女を拘束している。

 「あれ?」

 僕は、感じた違和感をつい口に出してしまう。

 「どうかなさいましたか?」

 律儀にもラルカさんが反応してくれる。

 全然今はそれどころではないのに。

 「ごめん、今それどころじゃないのは分かってるんだけど、つい気になっちゃって」

 彼女が何か言う前に僕は続ける。

 「ラルカさん、服装変わってない?」

 本当にどうでもいい疑問だ。

 だが、感嘆を口に出してしまった以上は聞かざるを得ない。

 ラルカさんは昨日今日とフリル付きの白い服を着ていたはずだが、今の彼女は同じフリル付きの服でも白と黒でデザインされた、いわゆるゴシックロリータという服装だ。


 「そうですね………正確には変わったのは服だけではなく身体もなんですけどね」

 僕は目の前に居る人形の身体を見る。

 何も変わったところは無さそうだ。

 服は前の身体と一緒にこの子に壊されてしまいました。

 彼女の目線の先には捕えられた金髪の少女、マリアがいる。

 「この子が突然襲ってきました。おそらく、ステルスルアンを所持しているのでしょう。気付くのが遅れました」

 「魔力どころか存在感も音も臭いも感じないりゅん」


 ラルカさんとりゅんりゅんがしてくれた状況を要約するとこうだ。

 千代が旧職業安定所の中にいるアウラを視認し、一同が歩き始めた直後、突然、金髪の少女………マリアが襲ってきた。

 彼女はステルスルアンによって気配を完全遮断していたため、奇襲を成功させた。

 僕と千代、メアとラルカさんはマリアが放った爆裂系の魔術の直撃を受けた。

 僕は変わり身の術が自動発動し、少し離れた場所で復活。

 メアは魔力を全て吸収、無傷だったが、その直後、間髪入れずに放たれた次の攻撃によって眠らされてしまう。

 ラルカさんは全身を消失するほどのダメージを負ったが、魔術で保管しているスペアの身体に入れ替わったため、実質無傷。

 千代もラルカさんと同じほどのダメージを負ったため、身体は無惨な状態となってしまった。

 しかし、人間と同じ程度の防御力しかない身体と違い、魔力の塊である眼球は相当な硬度と靭性を備えているそうで、命に別状は無いとのことだ。

 黒田だけはりゅんりゅんによって庇われた為に攻撃を受けていない。

 代わりにりゅんりゅんが攻撃を受けたが、流石はドラゴンだけあって大したダメージを負っていない。


 初撃の後、マリアはメアを攻撃したが、それと同時にラルカさんがマリアを拘束、そして今に至る。

 説明を聞いて色々と気になる事はあるが、一番重要な事はメアの事だろう。

 「メアは攻撃を受けたんだよね、これって大丈夫なの?」

 「分かりませんが、見たところ息もしていますし、心拍数、魔力回路正常のようです」

 「十中八九そいつの持っている武器が原因だりゅん」

 一同の視線がラルカの足元で膝をつくホムンクルスに向けられる。

 「今のメアさんの状況を教えて頂けますか?」

 ラルカさんがマリアに落ち着いた口調で問いかけた。

 問いかけられても、暫くは沈黙を保っていたマリアだったが、周りを囲む皆を目線だけで見回すと、小さく声を発した。

 「盗んだものは返します。眠らせた魔王様も起こします。私の命はどうなっても良いから、マスターを見逃して下さい」

 「見逃すかどうかは、メアさんが目を覚ましてからです。目覚めさせる事が出来るのであれば、まずはやって下さい」

 マリアは静かに返答するラルカさんを見据えて、頷いた。

 「分かりました。その杖を………」


 マリアが目線を向けた先には、地面に転がる杖がある。

 見るからに魔法の杖だ。

 深い青を基調として、所々にある金色の装飾が施されている。

 杖の先端に行くにつれ、金色の星の装飾は多くなり、その中心である最先端には大星型(だいほしがた)十二面体(じゅうにめんたい)が付いている。

 硝子の様な素材で出来た大星型十二面体の中には銀河が渦巻いている。

 それが金の螺旋で杖に固定されている。


 「これか?」

 黒田が拾い上げようとして杖に触れると、触れた柄の部分に紫色の雷が発生し、彼の手を焼いた。

 彼はすぐさま手を離したが、掌には痛々しい傷痕が残っている。

 黒田は傷付いた自身の右手を見た後、マリアの方を向いた。

 「違っ………私が触った時はそんな風にならなくて!」

 特に糾弾された訳ではないのだが、彼女は青ざめた顔で必死に叫んでいる。

 その反応を見るに、黒田が杖に触れた際に発生した紫電は彼女の意図したものではないのだろう。

 「どうやら持ち主を選ぶタイプの武器の様ですね。今、私が基礎魔法で杖を引き寄せようとしているのですが若干の抵抗を感じます」

 「この杖自身がこいつを持ち主だと認めているという事か?」

 「そうかも知れませんが、このような場合、年齢や性別、魔力量などの条件があるパターンも多いので一概には言えません」

 「お前、何か知っているか?」

 黒田に問いかけられたマリアは怯えた表情のまま首を振ろうとして、固まる。

 おそらく、ラルカさんが維持し続けている結界のせいで思うように身体を動かせないのだろう。


 「ちなみにこの杖って何ができるん?」

 千代が落描きの様な棒状の手で杖を指差し言うと、マリアが答える。

 状況をこれ以上悪くしないためなのか、それとも罪悪感からくるものなのかは分からないが、少し協力的になった様だ。

 「えっと、スタートゥインクルアストラルイートイルという杖で、相手を夢の中に閉じ込める事ができる………できます」

 「スタートゥインクルアストラルイートイル………アルドアの倉庫から盗まれた宝物の一つだな」

 「もう一回その杖を使えばメアを夢の世界から引き戻せるって事?」

 僕が問いかけると、マリアは片膝をついた姿勢のまま、「正確には違う」と言った。

 「この杖を持った時に、使い方が頭の中に流れ込んできたのですが、一度夢の世界に入った相手は、本人が強く望まないと目覚める事ができないらしいです」

 「それだけ聞くとメアだったら自分で起きてきそうなものだけど………」

 僕は単純に思う所を口にしたのだが、黒田と千代がそれに疑問を呈する。

 「あまりアルドアの所有物を舐めない方が良い。なにしろ、あの倉庫には星を砕く武器や世界を終焉に導くような物まであるらしいからな」

 「それにメアちゃん、戦うと強いけど、意外と心は弱いところあるからな」

 「そうなの?」


 僕は千代に聞き返したが、よく考えてみればまだメアと出会ってから一日しか経っていない。

 千代が僕の知らないメアを知っているのは当然と言えば当然だ。

 「ちなみにその杖を使ってどうやってメアを起こすの?」

 「叩くんちゃう?」

 「原始的すぎる!!」


 マリアに聞いた質問に千代が答えたが、改めて僕がマリアに視線を送ると、彼女は静かに答えた。

 「スタートゥインクルアストラルイートイルを使ってみんなを魔王様の夢の世界へ送ります。夢の中で魔王様に起きてもらうよう説得して貰えれば………良いと………思います」

 自信なさげなのがとても気になる。


 「ほんじゃあ(みんな)でメアちゃんの夢の中探検やな」

 「待て、全員で行くとこいつを自由の身にさせてしまう。行く人数を絞った方がいいだろう」

 黒田の言う通り、誰かが残った方が良いだろう。


 まず、現在進行形でマリアを抑え込んでいるラルカさん。

 彼女には残って貰ったほうが良いだろう。

 千代はこの中で一番メアと(した)しい。

 メアを説得しに夢の中へ入って貰うのが良いと思うが、今あんな状態だしな。

 でも別に戦いに行くわけでもあるまいし、やはりメアを起こす側に付いてもらうのが妥当か。

 僕はあまり戦闘力が無いので、ここに残ったとして、もしマリアが暴れた時、彼女を抑え込むのは不可能だろう。

 あとは黒田とりゅんりゅんだが………

 僕がそう考えているとりゅんりゅんは翼を広げながら遠くを見据えた。

 「とりあえずボクは黒幕を捕まえてくるりゅん」

 「待っ………がはっ!!」

 マリアが何か言いかけてすぐさまラルカさんの魔法陣に身体の動きを封じられた。

 「別に取って食ったりしないりゅん。但し、メアとその夢に今から入る皆が目覚めなかったら、一日経つ毎に四肢を切り落としていくりゅん」

 りゅんりゅんは恐ろしい事を平時と変わらない口調のまま言った。

 全く声のトーンも、速度も変わらず言うものだから、ともすれば聞き流してしまいそうな程だ。

 マリアはまた暴れようとして、魔法陣によって強制的に沈静化された。

 そんな彼女を一瞥したりゅんりゅんは、何も言わずに旧職業安定所の廃墟へと飛び立った。


 残された一同は何も言えず、場を沈黙が支配した。

 三十秒程続いたその沈黙を最初に打ち破ったのはマリアであった。

 「皆様を………必ず無事に夢の中へと送ります。何なら私が夢の中へ入って何とか魔王様を目覚めさせます………」

 続きに何か言いたげに口を開いたが、そこまでで言葉を打ち切った。


 今彼女の心の中では大きな葛藤が起こっているのだろう。

 それでも自らの主人―――アウラを傷つけられないよう慎重に言葉を選んでいる。

 「誰が行くかを決めねばな」

 黒田がそう言ったので、僕は自分の考えを述べる。

 「まず、夢の中に行ってメアを説得する以上、メアと仲が良い人に行ってもらうのがいいと思う。千代はメアと仲良いよね」

 「うん、糞尿の交わりって奴やな!」

 きたねぇ。

 「それを言うなら刎頸(ふんけい)の交わりでは?」

 ラルカさんが冷静に訂正した。


 改めて僕は仕切り直す。

 「黒田とりゅんりゅんさんはアウラの対処をして貰って、ラルカさんはこのままマリアを無力化しておいて貰う。僕はアウラとマリアを無力化できる程の戦闘力は無いから、千代と一緒にメアの夢へ入るよ」

 ラルカさん、黒田は頷き、同意を示した。

 マリアの方を向くと、彼女が答える。

 「分かりました。あなた達二人を夢の中へ送ります。それと………私はどうしたら良いですか」

 そういえば先程この子は、何なら自分が夢の中へ入ってメアを目覚めさせると言っていたっけ。

 大丈夫だろうか。

 彼女のもつ杖に隠された力があり、夢の中で形勢逆転されるなんて事は無いだろうか。


 僕が熟考しているとマリアが続けて話す。

 「夢の中は層構造になっている………らしいです。この杖から得た知識によると」

 「夢の中に入ってもメアにはすぐに会えないって事?」

 「はい、このスタートゥインクルアストラルイートイルで夢の中に閉じ込められた相手は、自分の理想の世界に居ます。そこが夢の中心で、他の人がその人の夢に入ろうとすると、まず外殻から入って行かないといけないみたいです」


 そう言った後、マリアは僕に簡単に夢の中の構造を説明してくれた。

 夢の中は階層構造、それもきちんと場所が分かれている訳ではなく、場所や時間が夢を見ている人物によってバラバラだそうだ。

 そんな中でメアを探そうとすると、スタートゥインクルアストラルイートイルの力が必要になってくる。

 これは端から選択の余地は無さそうだ。

 マリアに同行して貰い夢の中に入る他無いだろう。


 僕達が話しているうちに、りゅんりゅんから黒田に連絡が入った。

 電話ではなくテレパシーのような方法での連絡だ。

 それによると、どうやらりゅんりゅんはアウラを捕えたようだ。

 大した抵抗もなく………というよりは、エレクスによって付けられた切り傷のせいで身体を動かすのがやっとの状態らしい。

 身体を壊されても予備ボディに切り替えられるラルカさんや、全身が吹き飛んでも眼球だけの状態で動き回れる千代、それに僕自身もそうだが、やたらめったらフィジカルの強い面々に囲まれていたせいで忘れていたが、考えてもみればそうだ。

 言うまでもなく刀で斬られるというのは重症である。

 病院で適切な処置を受けなければ破傷風になったり、傷口が臓器に達していればそれこそ命に関わる事態だ。


 僕はアウラの容態を黒田に聞いてみた。

 テレパシーでも使っているのか、彼は言葉を発することなくりゅんりゅんと意思疎通を行ったようで、僕にアウラの容態を教えてくれる。

 「今現在流血しているという事はないみたいだが、高熱を出しているようだ」

 黒田は少し考えるような仕草をとった後、再び開口する。

 「俺とりゅんりゅんで奴を病院に連れて行く。こっちは任せる事になってしまうが………」

 「ちょっと待って………下さい」

 マリアが黒田に向かって言う。

 「病院に行って治療して貰った後………マスターは逮捕されてしまいますか?」

 「それどころでは無いだろう。お前の主人をこのまま放っておけば最悪死ぬぞ」

 僕にはアウラの様子は黒田の口づてでしか分からないが、そこまでの様態なのか。

 黒田の言葉を聞いてマリアは押し黙る。


 僕はマリアにフォローを入れる。

 「マリアちゃん、アウラさんがどうなるか心配だけど、とりあえず、怪我を治さなきゃ。その後どうするか考えよう」

 とは言ったがその後、アウラは間違いなく逮捕されてしまうだろう。

 「すみません、私はあなた達を殺そうとしました。それなのに私のマスターの事ばかり言ってしまい、申し訳ありません………」

 「結果的に誰も傷付いてないしさ、メアも今はこんな状態だけど、また目覚めるんでしょ?」

 「………必ず目覚めさせます」

 マリアは力強く言った。

 彼女の表情を見て、ラルカさんは僕の方を向いた。

 「マリアさんの拘束を解きます」

 僕は静かに頷いた。

 次の瞬間、彼女の身体中を貫通するように幾重も張り巡らされていた魔法陣が消失した。

 それと同時に彼女は地面へ崩れ落ちた。

 土の上とはいえ、頭をもろに打ったように見えた。

 「大丈夫!?」

 「すみません、拘束が強すぎましたでしょうか」

 ラルカさんの問いかけにマリアは返答する。

 「すみません、大丈夫です。あなたの魔術の影響じゃないです。元々身体が思うように動かなってきてまして………」

 先刻僕達が彼女に襲撃された際の動きからはとてもそうは見えないけど………

 しかし、そもそもアウラがアルドアの倉庫に盗みに入ったのはこの子の寿命を延ばすのが目的だったはず。

 見た目は若々しいが余命幾許もないのかも知れない。

 これからメアの夢の中へ突入するが本当に大丈夫だろうか。


 僕の考えをよそに彼女は姿勢を起こし、数歩先に落ちていたスタートゥインクルアストラルイートイルを拾い上げた。

 そのまま僕と千代の方を向き、両手で杖を構えた。

 「準備はいいですか?」

 「問題はないけど、マリアさんは大丈夫なの?体」

 「大丈夫です………動けます」

 そう言いながら彼女は、身体を立て直し、二本の足で地面を踏みしめ、杖を構えた。


 杖を振って大きな声を出す。

 「スターーートゥインクルーーーアストラルーーーイートイル!!」

 杖の中に渦巻く銀河が光を放った次の瞬間、僕の意識は暗闇の奥へと沈んでいった。



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