表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/48

第三話 二百年

 とりあえず、青白い顔でふらふらしている彩を布団に寝かせた。

 そして伊織は少し離れた場所に腰を下ろす。

 ちなみに寝ている布団は猫の布団だ。

 ()()使()()()()()()()()()布団があって助かった。

 さすがに自分の布団に寝かせるわけにも行かないだろうし。


「とりあえずこちらも名乗っておく。俺は伊織、月島伊織だ。こっちは猫童(ねこわらべ)。普段の呼び名は猫でいい」

「ねこ……? 変わった名前」

「猫だからのう」


 あっさり言ってのける猫を、伊織は慌てて止める。


「これ以上話をややこしくするな。そこは追々でいいから」

「なんじゃ、つまらぬ」

「面白さを求めるな」


 伊織は戸惑っている様子の彩に向き直った。


「まずはあんたの話を聞かせてもらわないと。名前は彩、それは間違いないな」

「……うん。宮川、彩」

「猫の言う通り、この時代の人間じゃないと。……それも本当か」

「……この家も、外の景色も、テレビとか教科書でしか見たこと無い。まるで、時代劇のセットみたい」


 伊織は腕組みをして難しい顔をして考え込む素振りを見せたが、すぐに音を上げた。


「……何言ってるか、全然分からん」

「あ、ごめんなさい」

「謝ることは無い。こやつが馬鹿なのが悪いのじゃ」

「だから猫は黙ってろって。お前だって結局分からんのだろうが」

「分かる訳が無い。だが否定するものでもあるまい。か弱き娘が心細く思うておると言うに、お主は本当に気が利かぬな」

「それは……まあ、そうかもしれんが」


 伊織と猫のやり取りに、僅かに彩が表情を和ませた。

 それを見た伊織も、思わずほっとする。


「彩のもともといた時代ってのは、そんなにずっと遠い先なのか?」

「私、日本史は苦手なんだけど、ここって江戸、時代なんだよね。……何年なんだろう」

「今か?今は文政五年だ」

「……それ、分かんないな。でも確か……人群れ見るは江戸幕府……だったから」

「……ひとむれ?」

「徳川の世となって二百年は経っておるな」

「じゃあ、ここは1800年位ってこと、かな。……でも、もし本当にそうなら」

「そうなら?」

「私がいたのって……ここから二百年以上先、かも」

「……なんだって?!」

「年号の記憶が間違ってなければ……多分」


 伊織は片手で額を抑えて唸った。


「いやいや……それは、さすがに」


 有り得ない。

 顔を上げてそう言おうとして、彩と目が合った。

 先程と同じく、こちらに訴えかける目だ。

 否定すると、まるでこちらが悪者のようではないか。

 どうにもこちらに分が悪い。


「え〜と……正直、信じがたいけど。でも、この状況で彩が嘘つく意味も無いな、確かに」

「その着物も随分と我らと違っておるな。それはお主の時代の普段着かの?」

「あ、これは……制服、学校の。学生は……私位の子は大体毎日こういうの着てるよ」

「……少なくとも、今から数年でこれが俺たちの普段着になるとは思えないな」

「信じてくれるの?」

「信じなきゃ始まらないからな。……彩はどうしてこの時代に来たか、心当たりとかは無いのか?」

「……」

「彩?」

「……伊織、さん。あの」

「伊織でいい」

「じゃあ……伊織。私、思い出せないの。自分がここに来る直前まで何をしてたのか、何を考えていたのか。……思い出そうとすると、頭が痛くなって」


 名前も分かる。

 自分が高校生であったことも。

 塾に通っていたことも。


 でも、友達や親のことが何一つ思い出せない。

 せめてスマホがあれば何か分かると思うのに。


 彩がそう言うと、聞きなれない単語に眉を寄せながらも、伊織は頷いた。


「とりあえず、焦るな。きっと、少しずつ思い出していくだろう。……まあ、これも何かの縁だ。俺も彩が元の世に戻れる方法を探してやるから」

「……ありがとう、伊織。猫ちゃん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ