第十六話 つなぎ屋
そして翌日。
各々自分の布団で目覚め、胸を撫で下ろす伊織と彩。
その直後、前日と同じように無遠慮に戸が開かれた。
「おはよ~!・・・なんだ、今日は添い寝じゃないのか」
「違うっ!そしてお前は勝手に開けるなと何度言えばわかるんだ。明日からはつっかえ棒でも立てるぞ」
「勝手に開けられてはまずいことをするのか?」
「んな訳あるかっ」
「なら必要ないよね。・・・猫、今日は遊べる?」
「仕事が終わればな」
「うん、じゃあいつものとこにいるから」
「あとでのう」
そう約束して、あっという間にいなくなる。
「あいつ・・・どうしてやろうか、本当に」
「とりあえず、お主の頭が虹丸より早く回るようにならねばどうにも出来まい」
「・・・そうなったらお前もどうにかしてやるからな」
「期待せず待っておるぞ」
支度を済ませて家を出た伊織は、普段の着流しではなく、きちんと袴を着ていた。
その姿を眺めていた彩はふと気づく。
これは初めて伊織と出会った時の恰好だ。
「まあ、仕事の時の正装みたいなもんだ。決まってるもんでもないし、大抵の仕事なら普段の恰好のままだけどな。・・・今回の依頼は、この方がいいような気がする。彩にも初めて見せるしな」
「あと、金に目が眩んだ時もこの格好じゃ。ほれ、彩と会った時にも来ておったろう。あの時もな」
「黙れ、人聞きの悪いことを言うな」
猫を遮るようにして、伊織が先頭に立ち歩き始める。
彩は猫と共に後ろからその背中を見つめていた。
改めてみると、羽織袴姿で腰に刀を差した伊織は、彩の知識の中にある本物の武士という感じがする。
確か一昨日会った緒方も言っていたはずだ。
伊織は強い、と。
「伊織、本当にすごく強そう」
「・・・は?」
「緒方さんも言ってたよね。でも、伊織はお侍さんじゃないんでしょう?どうやって強くなったの?」
猫はそれを聞いてくすくすと笑った。
一方の伊織は、後ろから見ても分かるほど大きくため息をついた。
「・・・順番に答える。清の言うことは全部忘れていい。むしろ存在ごと忘れとけ。で、俺はもちろん武士じゃないし、これは戦うための服装でもない。つなぎは神の領域に入るから、そのための正装だ。言ってみれば神職の装束、みたいなものかな。・・・最後に何でそこそこ俺が強くなれたかと言うと」
「強くならねば生きられなかったからのう。毎日、幻様と苦楽に鍛えられておったわ」
「そうなんだ。・・・大変だったんだね」
「・・・ま、あの二人なりに考えてくれてたんだろ。さっき神職って言ったけど、実際にはつなぎ屋はそれとも決定的に異なるから」
「・・・?」
「つなぎ屋は、敢えて神が作った時間の流れを捻じ曲げてる。だからつなぎの最中には、邪悪な気を引き寄せやすい。負の感情が強い依頼の時なんかは特にな。そんなのから自分と依頼者の身を守らなきゃならないから。猫や苦楽が傍にいてくれるのもそれ対策ってことだ。だから神職とは違う・・・っていうか、本質は真逆だろうな」
伊織の言っていることは、半分くらいしか理解ができなかったけれど。
彩には、伊織の口調が自嘲ぎみで寂しそうに聞こえた。
「伊織・・・」
「さ、辛気臭い話はこれまでだ。爺さんが待ってるからな。とりあえず行こう」
「報酬は少ないがな」
「だからっ、辛気臭い話はやめろと言ってるだろうが」




