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新星のアイオーン  作者: ネツアッハ=ソフ
学園編
9/52

7、星の船

 住宅街の一角に、俺の家はひっそりと建っている。(ふる)い街並みの中でも、更に古いアパート。


 ・・・幽霊屋敷と言っても差し支えのないボロアパート。高級品の事を目玉が飛び出る程に高いと形容する事もあるが、しかしこれはこれで目玉が飛び出る程に安い。いや、安すぎるとすら言える。


 大家さんは、何れ破産(はさん)するかもしれないな。そう、他人事のように考えながら俺は目を覚ます。俺の家には極端に物が無い。節制(せっせい)をしている俺は、必要最低限の物は所持しない事にしている訳だ。


 当然、新聞やパソコン、携帯(けいたい)なども所持していない。新聞はかさばるし、パソコンや携帯は金がかかるので当然却下だろう。という訳で、俺の部屋には物が少ない。と、言うか極端に物が無い。


 あったとして、必要最低限の家具とか道具、あと数冊の本くらいだろう。本は料理本だ。


 冷蔵庫の中ですら、かなりスペースが()いているくらいだ。友人には修行僧みたいだと言われた。


 ・・・まあ、それはともかくとしてだ。布団から()い出ると、服を着替える為に段ボールの中にに入れた服を漁り始める。節制の為に、タンスすら購入(こうにゅう)していない。


 服を着替えていると、ポケットから二つ折りにされた紙が出てきた。無論、ソラの父親からだ。


 ———今日は学校も休みだろう?僕の(いえ)に来るように・・・

                 シリウス=エルピスより———


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁっ」


 本当に、一体どういう原理(げんり)で手紙をポケットに入れているんだろうか?無駄に高度な事をやる。


 俺は、そっと溜息を()いた。まあ、ソラに会えるのは素直に(うれ)しい限りなのだがな。


 そっと、俺は苦笑を()らした。


          ・・・・・・・・・


 ・・・そして、ソラの家に着いた。相変わらずの大豪邸(だいごうてい)だ。目の前に存在しているだけで、他者を圧倒する存在感がある。それは、もはや豪邸の中の大豪邸という風情だ。


 キングオブハウスと言っても良いだろう。いや、意味が(わか)らない。流石に意味不明だ。


 しかし、物の見事に俺のアパートとは正反対だ。俺の家は幽霊屋敷、此処は大豪邸だ。


 ・・・いやはや、世の中解らないものだ。俺は一人感心(かんしん)した。


 屋敷の門前には、三人の人物が立っていた。無論、その三人とはソラとその両親だ。ソラは俺の姿を見つけると笑みを向けてきた。うん、やっぱりソラは可愛い。思わず、俺も笑みを(こぼ)す。


 そんな俺とソラの姿に微笑ましさを感じたのか、シリウスさんが笑っている。リーナさんもだ。


「来たか。まあそろそろ来ると思っていたよ。じゃあ、行こうか・・・」


「えっと、何処(どこ)にですか?」


 その言葉に、シリウスさんはにっこりと人の(わる)い笑みを浮かべて俺を見た。その笑みに、俺は軽く嫌な予感がするのを感じた。大丈夫なのだろうか?心配(しんぱい)になってくる。


 しかし、そんな俺の事などお構いなしにシリウスさんは答えた。


(ほし)の船だよ・・・」


 はい?星の船?


          ・・・・・・・・・


 屋敷の中に入り、しばらく歩いた場所に頑強な鉄扉(てっぴ)があった。シリウスさんが扉を開くと、地下へと続く階段が奥深くに伸びている。シリウスさん達は、階段を(だま)って下りていく。


 俺も、緊張しながらそれに続く。やがて、俺達は広大な地下空間に辿(たど)り着いた。俺は、思わず息を呑んで絶句した。其処にある物を見て、そのあまりの存在感に硬直(こうちょく)した。


 ・・・それは、まさしく船だった。巨大な船が、僅かに空中に()いていた。これが、シリウスさんの言う星の船なのだろう。そして、俺はこの船を見た事があった。そう、ネメア先輩の見せた写真だ。


 見た目は木造に見える。しかし、どうやらそれは表面だけのようで、内側は全面鋼鉄製らしい。


 と、言うよりも内部は異界構造になっているらしく。見た目よりもかなり広いとか?その異界構造というものが一体何なのかは流石の俺にも理解出来ないが。まあ、地球(こちら)の技術では無いのだろう。


「・・・これが、星の船?」


「そう、これこそこの世界とは違う異世界で造られた次元(セカイ)を渡る船。星の船だ」


 そう言って、シリウスさんとリーナさんは星の船に乗船していく。呆然と立ち尽くす俺の腕を、ソラは握り締めて引っ張った。俺の意識が、ようやく(もど)る。


 ソラの手の柔らかさと暖かさに、思わずドキリとする。この際だから、じっくり堪能(たんのう)した。


「行こう?アマツ君。星の船を案内(あんない)してあげる」


「え?あ、はい・・・」


 そう言って、俺とソラも乗船する。乗船して、俺は思い知った。


 ・・・この星の船は、異世界(いせかい)の技術で造られた船なのだと。改めて思い知った。


 星の船。内部は更に広大な異空間だった。隔絶(かくぜつ)されたあらゆる空間に、様々な区画が存在する。人工太陽を備えた農園区画も存在した。日本庭園も存在した。人気の全く無い村もあった。


 ロンドンを思わせる時計塔(とけいとう)の街もあった。アマゾンのような密林地帯もあった。夕暮れの綺麗な浜辺のある海まで存在した。星の船の中は、世界が広がっていた。


 そう、星の船とは様々な異空間を内包した多次元構造となっているんだ。それ故の星の船。隔絶した異空間同士はそれぞれ空間転移装置でリンクしており、自由に行き来出来るらしい。


 慣れたら、思考するだけで転移(テレポート)が可能だとか。流石に、超技術すぎて絶句したのも仕方がない。


 ちなみに、常に船が浮いているのは反重力装置を搭載(とうさい)しているからだ。


 そして、更に俺を驚かしたのは重力炉と並列思考型上級AIの搭載だった。


 前者はブラックホールを利用した動力炉で、物質が無限密度の重力渦(ブラックホール)によりエネルギーに分解される性質を利用してエネルギーを取り出すエンジンなのだとか。科学の最終到達点である。それが三基。


 そして、後者は量子(りょうし)コンピュータを更に発展させた超上級AIだとか。並列思考により並行宇宙を利用して超高速演算し、膨大な情報を並行(へいこう)して運用する。その演算速度はコンマ一秒にも満たない。ステラと名付けられており、人間と同様の思考を可能とする自我(じが)を持つAIだ。


 その性能は既存のスーパーコンピュータの遥か上。大きく引き離して余りある程だ。


 ・・・しかも、ステラはかなり流暢に語り掛けてかなり感情的だった。こんな超技術、それこそ現代の地球でもありえないだろう。流石にオーバーテクノロジーが過ぎるだろう。もはや意味不明だ。


 俺なんかじゃ、一割も理解出来ないだろう。どころか、一ミクロンすら理解出来ない。


 ・・・と、それは別に良い。問題は他のある。何故、シリウスさん達は俺を此処(ここ)に連れてきた?


「シリウスさん、何故俺を此処に招待(しょうたい)したんです?」


「ん?ああ、君を此処の訓練区画で(きた)えようと思ってな・・・ステラ」


 訓練区画?そう疑問に思った直後・・・脳裏に中性的な声が(ひび)く。ステラの声だ。


《はーい、了解(りょうかい)しました~》


 ステラの声が響き、景色が一変する。其処は、巨大な鉄扉の前だった。(かた)く閉ざされた鉄扉には訓練区画と刻印がされている。何時の間にか、此処には俺とソラの二人のみだった。


 シリウスさんとリーナさんは、此処には居なかった。・・・え?はい?


「へ?・・・え?ええっ⁉」


「此処からは、私が訓練区画を案内するよ。迷路状になっているから、はぐれたら(まよ)うよ?」


「あ、はい・・・」


 狼狽(うろた)える俺に、ソラがそう言って微笑みを浮かべた。その笑みに、俺はつい返事を返した。そんな俺にソラはくすくすと笑う。そんな彼女が何だか可愛くて、まあ良いかと思えてくる。


 それが間違いだと気付いたのは、訓練区画に入ってすぐだった。


「わ、ぎゃーーーーーーーーーっ!!!!!!」


 俺は、訓練区画に入りすぐに無様な悲鳴を上げる羽目(はめ)になった。うん、かなり無様だった。


 訓練区画は、魑魅魍魎魔物達のオンパレードだった。巨大ネズミ、火蜥蜴(サラマンダー)、角を生やした狼、更には空中を泳ぐ巨大なサメや触手の生えた名状しがたい怪物(モンスター)まで居た。


 もう、俺の正気度は(ぜろ)を振り切ってマイナスに突入した。もうヤダこの訓練区画。


 しかも、最後に俺達を待っていたのは黒光りする鱗を持つ巨大なドラゴンだった。そのドラゴンを前にして俺は即座に勝てないと(さと)った。まあ、無理もないだろう。


 泣きそうになった俺は、流石に(わる)くないと思う・・・

星の船、オーバーテクノロジーが過ぎる‼

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