幕間、訓練区画
鉄扉が開いてゆく。重厚な音を響かせて。ゆっくりと開いてゆく。
巨大な鉄扉が開くと、目の前に小さな台座とその上に乗った水色のゼリーのような物体が居た。台座の上に乗るぷるぷるとした物体、いや生物。その正体を、俺は直感で察した。いや、知っていた。
それは、まごう事なきスライムだった。スライムが、小さな台座の上に乗っていた。いや、台座の上に鎮座しているんだ。その堂々とした姿に、俺は思わず呆ける。
ぷるるんっ!水色のスライムボディーが揺れ動く。思わず、見詰めてしまう。
「・・・・・・えっと、スライム?」
《悪いですか?少年》
突然、頭に響くように声が響いた。いや、実際に頭の中に声が響いたんだ。
・・・はい?
思わず、俺はスライムを凝視した。スライムは、相変わらずぷるぷると揺れている。しかし、何処か泰然とした姿で台座に鎮座するその様子は、まるでスライムの王だ。
「・・・えっと」
《初めまして、私の名前はジール。スライムのジールです》
「あ、どうも。俺の名前は四条アマツです」
思わず、丁寧に頭を下げる。すると、スライムのジールは訓練区画の説明を始めた。
《訓練区画は複雑な迷路状になっています。その中を、複数の人工魔物が徘徊しており、そして侵入者を撃退するようプログラムが組まれています。よろしいですか?》
「あ、はい・・・・・・」
《そして、その迷宮を無事に踏破するのが訓練内容となります》
「えっと、つまり訓練とはその人工魔物を撃退しながら迷路をクリアすれば良いという事か?」
《yes》
なるほど、つまり迷路を探索しながら強力な敵と戦う事で経験を積むという訳か。
「・・・で、その人工魔物ってアレの事か?」
俺は、口元を引き攣らせながら奥の方を指差した。
俺達の目の前には、全身から炎を噴き出した蜥蜴の魔物が居た。火蜥蜴、サラマンダーだ。その口から炎の息を吐いて威嚇している。俺は、懐から二丁のガバメントを取り出した。
手始めに、俺は一発銃弾を撃つ。次元を歪める性質を持った魔弾。それは、見事に火蜥蜴の肩を撃ち抜き片腕を吹き飛ばした。かなりのダメージを喰らったらしく、火蜥蜴の悲鳴が響く。
鮮血が周囲に飛び散り、血が付着した部分から発火する。可燃性の血液だ。
しかし、次の瞬間怒り狂った火蜥蜴が炎のブレスを吐いた。恐らく、鉄くらいは溶かす火力はあるだろう事が炎の色から理解出来る。大きく避けても、かなり熱い。
再び、俺はガバメントの銃口を火蜥蜴に向ける。しかし、その前に戦闘は終わった。
「ガッ・・・アア・・・アッ・・・・・・」
「ふうっ・・・」
・・・ソラが短剣を火蜥蜴の身体に突き刺して。俺は呆然と立ち尽くす。
そんな俺の方に、ソラが視線を向けた。俺は何も言えないでいる。
「・・・・・・・・・・・・」
「駄目だよ?仕留めるなら一撃で仕留めないと。無駄に苦しめる事になるから」
「・・・・・・は、はぁ」
溜息とも空返事ともつかない曖昧な声を、俺は口から漏らした。そんな俺に、ソラは苦笑を浮かべてその手を差し出した。俺は、微妙な表情でその手を摑む。
そんな俺達を、スライムのジールがじっと見ていた。
《・・・・・・ふむ》
「っ、じ・・・じゃあそろそろ行きましょうか、ソラさん!」
「え?あ・・・はい」
気恥ずかしさを隠す為、俺は彼女の手を引いて歩く。どんどんと歩く。
「あ、其処を右に曲がって?」
「・・・・・・はい」
そして、少し歩いた場所で再び人工魔物が居た。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」
「・・・う、うわぁっ」
それは、全身に触手の生えた名状しがたい魔物だった。俺の正気度が一気に下がった。
もう、止めてほしい・・・
・・・・・・・・・
それから、俺の正気度はぐんぐん下がり調子だった。巨大なネズミの魔物に角を生やした狼、空中を泳ぐサメの魔物やその他諸々。それ等は別に良いが、巨大なゴキブリの魔物が出た時は本気で引いた。
「・・・・・・もうヤダ」
「うーん、思ったよりも精神的ダメージが大きい?」
俺は、もう憂鬱を通り越して鬱な精神状態だった。つまり、最悪だ。もうヤダ。
そんな俺の姿に、流石にソラも口元を引き攣らせていた。うう、自分が情けない。こんな姿、ソラに見られたくはなかったのに。ぅうっ・・・けど、もうヤダ。
「ほら、そろそろゴールだよ?もう少しだから頑張ろう?」
「ソラさん・・・・・・」
俺は目尻に涙を滲ませて彼女を見る。そんな俺の頭を、彼女は苦笑しながら撫でてくれる。もう俺は彼女無しでは生きられないかもしれない。そう感じた。
・・・ますます駄目人間になりそうな気がする。いや、もう既に彼女無しでは駄目かもしれない。
と、そんな時。ゴールにようやくたどり着いた俺達を、とんでもない存在が待ち受けていた。
「ん?おおっ、ソラではないか!今日も訓練か?・・・そちらの少年は何者だ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ドラゴンが居た。黒い鱗を持つ、白い光を全身から放った神々しいドラゴンだった。
俺は、思わず呆けた顔でそのドラゴンを見上げる。じっと見ても、かなりの大迫力だ。光り輝く黒い鱗を生やしたその身体は、とても力強い。恐らく、訓練区画でも最強の存在だろう。
「こんにちは、ミトロギアさん。この人は四条アマツ君と言って・・・」
「ふむ・・・」
勝てない。そう、俺は直感した。直感した直後、俺はさあっと血の気が引く感覚を覚えた。このドラゴンには絶対に勝てないだろう。そう、自覚した瞬間。俺の意識が途切れた。
「あっ、アマツ君⁉」
「む?」
そんな声を、最後に聞いた気がした・・・次に目を覚ましたのは、船内の医務室だった。




