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新星のアイオーン  作者: ネツアッハ=ソフ
世界終末編
49/52

7、母と子の再会

 (くら)い。暗い。何も見えない………


 深い(やみ)の中、何処までも暗い(うみ)を漂うような感覚が俺の身体を支配していた。ただ、流されるままに流れていくのを()める事が出来ない。ただ、ぼんやりと海中を漂っているような感覚だ。


 しかし、不安は一切無い。きっと、()というのは存外こんなものなのだろう。ただ漠然とした感覚に囚われたまま漂い流されていく。そして、そのままきっと俺は………


 俺は?


「………その先は、まだ貴方には(はや)いわよ?」


 唐突に声が聞こえた。瞬間、俺の視界が(ひら)け光が差した。


 あまりの(まぶ)しさに、俺は思わず目を細める。しかし、其処(そこ)に居たのは………


 其処に、居た(ひと)は………


「か、あさん………?」


「大きくなったわね、アマツ………」


 (つや)やかなウェーブの黒髪に優しい少女のような笑顔を()かべている。母、四条ミナだ。


 その変わらない姿に、俺は思わず涙ぐんでしまう。しかし、泣いている(ひま)なんてない。そう思い俺は服の袖で涙を強引に拭った。うん、(ひど)い顔になってはいないだろうか?


 いや、今はそんな事どうでも()い。


「何で母さんがこんな所に?もしかして、俺は死んだのか?」


「いいえ、貴方はまだ()きているわよ?正直、危なかったけれどね」


 そう言い、母さんは笑みを深めて俺をそっと()き締めた。


「アマツ、貴方は今までよく頑張(がんば)ったわ。本当に、とてもよく頑張った。私はずっと、そんな貴方の事を傍で見ていたわ」


 ずっと、見続けていた。そう、母さんは言った。ああ、そうか。それが母の持つ固有宇宙。


 これはきっと、母の固有宇宙が成した一時の奇跡(きせき)なんだ。そう、俺は確信した。


「母さん、俺は———」


 言おうとして、母さんに止められた。人差し指で俺の口元を()さえ、微笑む母。


 その優し気な笑みが、何処となく懐かしくて。思わず口を(つぐ)んだ。


「もう、あまり時間が無い。最後にこれだけは言わせて頂戴(ちょうだい)ね?貴方の事も、大地さんの事も私は心の底から愛しているわ。ありがとう」


 言って、次の瞬間には周囲の風景ごと泡沫(ほうまつ)のように揺らいで()えていった。


 それを見て、俺は一言だけ(つぶや)いた。


「俺も、父さんと母さんの事を(あい)しているよ。ありがとう」


 その言葉に、ゆっくりと消えていく母さんが最後に(うれ)しそうな笑みを浮かべた気がした。

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