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3-8 道頓堀

 そして、麗鹿のささやかな宴席は終わりを告げ、特級列車は難波駅に到着した。


「この列車、広くてゴージャスだが、ワゴン販売が無いのが難点じゃのう。

 ビールは、もう一本買っておくのだったわ。

 やはり新幹線にするのだったか」


「麗鹿、新幹線だって十六両くらいあるんだ。

 大体名古屋から新大阪までなんてワゴンが回ってくる頃には、もうすぐ大阪に着いてしまう時間だぞ。

 最近はますます速くなっているしな。

 さあ、降りよう」


 早めに席を立つ宗像。

 宴会の名残であるゴミ袋を抱えて、麗鹿と山崎もその後に続く。


 荷物は麗鹿というか、あざ丸が空間収納してくれているので不要だ。

 ゴミはどこかで捨てていくので、捨て忘れないように手に持っている。


 ゴミを缶とゴミに分別しながら、感慨深く話す麗鹿。


「いや、最近はリサイクルだなんだといって煩いのお。

 昔は、そのへんにポイだったものだが」


「昔って、いつの時代の話だよ。

 でも、ちゃんと現代のマナーは身につけているようじゃないか。

 偉いぞ」


「いや、人間の間に混じって暮らすのならばな。

 煩いおばちゃんとかが多くてのう」


 おばちゃん達は、外国人だけでなく伝説の鬼切り鬼にもゴミ捨てマナーについては非常に手厳しかったようだ。


 テロ対策とかで、ゴミ箱がなかなか置かれていないのも、こういう時に困る。

 あざ丸に持たせてあるゴミがよく空間収納に溜まっている。


 早く、既にもう開発済みである防爆仕様のゴミ箱を、日本の駅に早く普及させてほしいものだと願う麗鹿であった。


 日本は基本的にテロが少ない国なので、なかなか予算をとってまで普及しないのだろう。


 どちらかといえばテロなんかよりも、妖魔被害の方が圧倒的に多いのだから。

 実はテロに悩む欧米ですらそうであった。


 故に闇斬りと関わらなければならないのだが、その場合は彼らと付き合う『担当者』に被害が出る恐れが高いのだ。


 特に何人も担当者が代わる妖しは、『PIC(担当者)殺し』、ピックキラーと呼ばれている。


 まるで、アイスピックで次々と殺していく連続殺人魔のようだが、彼らはその比ではなく剣呑で物騒なのだ。


 生憎と担当者は殺さないが美味い物は仕留めてやろうと気合の入った千年鬼は、邪魔な荷物を片付けたので腕をぶんぶんと回して張り切っている。


 本日の最終目的地は必殺の道頓堀。

 有名なタコヤキ屋台とかで並んで買う気満々だ。


 だが、当然の如くにその格好は大阪とはいえ、ちょっと浮いてしまうだろう。


 本人は、千年近くも生きているので、そんな事はまったく気にならない。

 気にするのは、御付きの人達の役だ。


 地下街の『なんばウォーク』を歩き、道頓堀方面を目指す。

 今夜は食い倒れる予定なので、その付近のちょっといいホテルを予約してある。


 だが地上に出てすぐに、途中で麗鹿の足がピタっと止まる。

 もちろん、それは行列のできているタコ焼き屋台の前だった。


「あ、おい、先にホテルに」


 言いかけたが、すぐにそれは引っ込めた。

 この鬼を相手に言っても無駄だからだ。


 もう本人の頭の中は物見遊山のつもりで何かの汁が溢れている。


 昔は大阪にもよく来たらしい。

 歩きで。


 華やかな江戸が大好きで江戸暮らしをしていたが、歳を取らないので一所には留まれないため、転々と居場所を変えるので大阪住みも多かったようだ。


 他にも美味い物を求めて転々としていたようだし。


 特に生きるための目的があったわけではない。

 愛する者と共にあるならば、いつまでも、どこまでも一緒に生きる。

 ただ、それだけだった。


 楽しい事をして、美味しい物を求め、新しい刺激を求めて流離った鬼生。


 だが、時にはそんな楽しい人の世での流離いを邪魔立てする無粋な闇の者は存在したのだ。


 そういう時には、迷わず叩き切ってきた麗鹿なのだった。


 各時代の人の長と約定をかわして、闇の者と戦った時もあった。

 そして、今もそうして生きている。


 仕方がなく一緒に並ぶ宗像。

 山崎は、ちっとも仕方が無くないようであったが。


 やがて仕留めた大タコヤキを手に満面の麗鹿。

 山崎もはふはふと食らいついている。


「いやあ、本場のタコヤキ美味しいですよねえ」


「ああ、やっぱり大阪のタコヤキうめえ」


 そんな楽しげにグルメっている二人の様子を見て溜め息まじりの宗像。


「お前ら、さっきたらふく飲み食いしていたろう。

 よくそんなにパクパクと食えるな」


「いやあ、だってこんなのは別腹ですよ」


 口周りに、削り節とタコヤキソースをつけた山崎がそんな事を言っている。


「そうそう、タコヤキは別腹って昔から言うだろう」


 同じく、口周りを汚している麗鹿。

 やはり、真っ黒スーツとサングラスでタコヤキは少し似合わないようだ。


「そんな話は聞いた事がないがな」


 だが大阪人なら言っていたかもしれないし、数百年前とかに言っていなかったという保障はない。


 その頃にタコヤキ屋台があったかどうかは知らないが。

 どうであるにせよ、その当時の大阪を知る者は、この中には約一名しかいなかった。


「さあ、早くホテルに行くぞ」


 拠点を早めに確保しておきたいのだが、そのままにしていると麗鹿がまたどこかの屋台かお店にひっかかりそうなので、二人を促がす宗像。


 そういうのは夜に回しておいて、先に河童捜索をしておきたい宗像なのだった。


 麗鹿はともかく、山崎は仕事中なので困ったものだが、本来は今日など山崎は休日だったのだ。


 ちょっと急ぐので休日返上でやってきたのだ。

 そう細かい事を言うつもりはない。


 しかし、お気楽な山崎を連れてきてよかったと思う宗像。

 麗鹿の相手にピッタリなので。

 宗像だけだと、さすがに苛々してしまうだろう。


「あ、河童」

「なんだと?」


「どこですー?」


 もちろん、目を凝らしたって山崎には見えないのであるが。


「ほら、あそこ。

 遊覧船の先っぽに腰掛けている。


 いいな、あれ。やってみたい。

 じゃあ、先にホテルに行っていてくれ。

 わたしは、あいつを追いかけてみるから」


 そして、瞬時に霊装羽衣を被り姿を消すと『川面を走って』観光船を追いかけた。


 タコヤキは空間収納能力を持つ眷属、あざ丸に預けた。


 食べ走りながらいってもいいのだが、この道頓堀はそれに相応しくない。

 少々臭う感じだし。


 元々、あんまり綺麗そうでない川である上に、両側に切りたった建物が壁のように立ち並び、空気の攪拌とか起き難い気がする。


「大腸菌の数が肥溜めの二倍の数なんですよ」と嬉しそうに語るのが、観光船ガイドさんの持ちネタになっているらしい。


 阪神タイガースが優勝したからって、あそこに飛び込んだ勇者のその後の惨状は、筆舌に尽くし難いものがあるようだ。


 地元の人は飛び込まない。

 川には色んな物が捨てられているらしくて、迂闊に飛び込むのは危険だ。

 それ以前に水質的に危険なのだが。


 きっと、日本人がガンジス川の次に飛び込んではいけない川なのに違いない。


 水面を濡れずに走る特技というか、法力の持ち主である麗鹿には、さほど関係はないが。


 とはいえ、美味しいタコヤキを食べるテーブルとしては、やはり相応しくないのに違いない。


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