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2-6 探偵初仕事

「実は、うちのお父さんが浮気しているみたいで」


 少女は開口一番、重い話を切り出し始めた。


 事情を聞いてみれば、なるほどと思うが、鬼の直感が何か妖魔の介在を感じとる。


 確かに男というものは、その性として浮気性なものだが、その歳までにそこまで家族に執着し過ぎるほど執着していた男が、突然そこまで痴情に縺れるものなのだろうか。


 こう見えて、自分自身は愛しい人との愛一筋であったものの、他人の男女の縺れは否応無しに見せつけられてきた。


 それを加味して、なお納得がいかぬ部分がある。

 妖しには、その手の事につけいる者も多いのも、また否定できぬ事実なのだから。


 その辺りは、また自分の管轄でもある。


 正規の警察官ではないが、自分もまた、この大帝都(まだ、こう呼ぶ癖が抜けない)の『対妖し部署』の要でもあるのだから。


「事情はわかりました。

 それでは、お父さんについて少し調べてみましょうか。

 この件は、わたしも少し気にかかります。


 御代は結構なので是非やらせてください。

 あなたも、わたしが普通の探偵業でない事はもうお気づきなんでしょう?

 賢いお嬢さんだ」


 結花は目を見開いたが、すぐに立ち上がって頭を下げた。


「あ、ありがとうございます。

 わたし、本当はお父さんを信じてあげたいんです」


 半分涙で眦を濡らした少女。

 その手は力いっぱいに、ぎゅうっと握り締められている。


 いい子だな、と眼を細めてその少女に慈愛の視線を投げかける麗鹿。


 麗鹿は人間が好きだ。


 人の心は時には曲がってしまうけれど、どうせ曲がるのならば、太陽に向かって曲がっていってほしいと思っている。


 人がけして体験する事の無い、厖大な流れる時の中で、そんな風に生きようとする人もまた大勢見てきたのだった。


 その全ての希望が叶うほど世界も神様も優しくはなかったが、できれば人よりも遥かに強大な力を持つ自分だけは、そんな人に手を差し伸べてやりたい。


 そんな風に思う事も少なくはなかったのだ。


 少なくとも、自分は卑しくも数多の神社にさえ祭られて、神鬼とさえ呼んでくれる人間すらいる者なのだから。


 それから、麗鹿は彼女の父親が勤務する会社に張り込みを『させた』


 山崎を借りてきたのだ。

 実は、山崎は宗像に呼ばれて、彼の手伝いをしていた。


 ちょっと本業をしくじって、どこかに飛ばされそうになっていたので、それ幸いという感じに拾い上げてきたらしい。


 宗像が忙しすぎて手に負えないので、助っ人が欲しかったのだ。

 もっぱら書類整理の。


 それを麗鹿が徴用してきたというわけだ。

 覆面パトカー一台とともに。


「麗鹿さん、社長が動き出しました。

 やはり、家とは違う方向へ向かっています」


「そうか、そのまま後をつけろ。

 目的地に着いたら、わたしもそちらへ行こう」


 麗鹿は麗鹿で、何か妖しい者が跳梁跋扈していないか、分身を放ち監視していた。

 今のところは特に怪しい動きは無いようだ。


 だが、麗鹿は確信していた。

 あの社長、ただの浮気ではあるまいと。


 会社は赤坂・六本木界隈で家は神田付近。

 しかし、社長は渋谷方面に向かっていた。


 そして社長は渋谷の、あるホテルに入っていったらしい。


 山崎がフロントに聞いたところ、毎日この18時くらいにはやってきて0時くらいには帰っていくらしい。


 そして、その部屋には若い女がいるのだと!


 麗鹿も思わず顔を顰めたが、それと同時に変だと思っていた。


 いい歳こいたおっさんが毎日毎日、家族を放っておいて若い女と6時間も。


 馬鹿な。

 無理だ。絶対無理。


 第一、おっさんは別に特に痩けていない。

 むしろ、艶々しているみたいだし。


 普通ならば、そのような真似をしていたら痩せていくはずだ。

 特に憑かれている場合は。


 それに山崎と合流して、彼が撮影した社長の画像を見たのだが、なんというか魅入られた顔をしている。


 奴は間違いなく妖魔に魅入られている。


 だが、特に精気を吸い取られるのでもなく、生き生きとしているらしい。

 本職の刑事である山崎も不思議がっている。


「うーん」


 よくわからない。

 だが一つ聞いておこうと思った事があって、知り合いに電話を一本かける。


「よお、狂歌。

 一つ聞きたいんだが、今渋谷に人を魅了するような、おかしな妖魔とかいないか?」


「さあ。

 特にそんな奴はいないと思うんだけどなあ。

 何かあったの?」


 これまた真っ黒のスマホから、のんびりした寛いだ百獣の王のような、穏やかな声が聞こえてくる。


 だが、何か他に熱心に喋っている声も仄かに聞こえてくるが興味が無いので無視する。


「いやなあ、人に頼まれて調査をしているんだが、どうやら妖魔絡みらしいのに、なんだかすっきりしない展開でな」


「何それ。

 直接会って話をしない?」


 欠伸が出るような、どうやら伸びをしている風の声でお誘いがきた。

 まだバックの音声は聞こえたままだ。


「今どこにいる?」

「渋谷のホテル」


「なんだ、お前ホテル暮らしだったのか」


「えー、マンガ喫茶とかで暮らしているとでも思った?」


「そういや、お前ってお天道様の下でも平気なんだな」


「当たり前じゃん。

 十字架やにんにくなんかも平気よ。

 ついでに、地雷や対戦車ミサイルなんかも平気だし」


「あはは、気が合うな。

 実はわたしもだ。

 今渋谷まで来ているんだ。

 で、どこにいる?」


「あんたが今いるホテルよ~。

 もうあんたの気配を見つけちゃった」


 甘やかで、すこぶるご機嫌そうな声でスマホを響かせる吸血鬼。


「なんだ、そうだったのか。

 いやにご機嫌だな。

 一杯入っているのか?」


「そういうのは、あんたら鬼でしょ。

 吸血鬼は、血を吸うとハイになるのよ」


「え、血を吸ってるの?」


 麗鹿の声も少し低くなる。


「違う、違う。

 説明してあげるから上がっておいでよ。


 なんだか知らないけど、ついでにあんたの相談にも乗ってあげるわ。

 このわたしが渋谷の女王なんですからね」


 なんだかよくわからなくて首を捻ったが、山崎に警察手帳を出させて客室ゾーンに案内してもらう。


都合によりまして、次回より週1回更新となります。

次は11月24日18時の予定です。

次回から毎土曜日の18時を予定しています。

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