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1-15 怪獣映画

 そこには三体の化身がいた。


 あざ丸、しし丸、友切丸。


 それは鈴鹿御前が持っていたと伝承にある三明の剣、大通連・小通連・顕明連ではなく、それが残した黒金を打ち直した物と言われた剣だ。


 実際には、大通連・小通連・顕明連の三振りが、鈴鹿の霊力で霊装化、殆んど付喪神化したものだ。


 意思を持ち、その姿も変化する。

 今は三体の巨大な鎧武者だ。

 

 そして、大型に変化した自らの本体である大太刀を持っている。


 大小と名はつくものの、昇華され霊装と化したこの剣は、三本全てが霊剣の大太刀としての第二の生を受けている。


 鈴鹿三刀流、いや神剣鳴鈴もあるのだから鈴鹿四刀流か。


 元々、鈴鹿御前は三本の刀を操るものだった。

 三本は眷属として自動操縦にしたため、今は自らが神剣を駆るのだ。


「生きておるか、山崎。おい」


 鈴鹿は、コンテナの中の山崎に声をかける。


 本来であれば眷属の動向などすぐわかるのだが、新米眷属であるのと本来は眷属などにはならぬ人間しかもヘタレであるため、今一つよくわからない。


 何か気配が消えてしまったかのようだ。


「うーん、殺られたか?」


 山崎コンテナ担当の友切丸に言って、コンテナの中で立ち上がり頭を振っている極楽鳥の本体が共にあるガルーダを、その中から引き摺りださせた。


 それが合図であったかのように、ガルーダどもと鈴鹿の眷属との、壮絶な戦いのゴングが鳴った。


 幸いな事にリングは広大なのだが。


 まるで怪獣映画である。

 背景は富士山だし、いい絵にはなっているだろう。

 自衛隊もちゃんと参加している。


 偵察ヘリから撮影しているだろうパイロットが、なんと思った事だろうか。


 これの映像を送信されリアルタイムで見ているだろう、自衛隊や政府のお偉方達も、さぞかし頭が痛かろう。


「まったくもって予定が狂ったわ。

 あやつらをコンテナの護衛につかせ、どこへ現われても逃げられぬように封じておかせるつもりであったものを。


 まあ予定通りではないが、とりあえず逃げられてはおらぬがな。

 これ、山崎。しっかりせい」


 どうやら隅っこに飛ばされて眼を回していただけらしい山崎は、鈴鹿に活を入れられてゴホゴホと咳をしている。


 眷族化の効果が多少なりとも認められるのか、その鈍くさい立ち回りにも関わらずに、怪我などはしていないようだ。


 受けた傷が眷属としての力で修復されたような跡が、人には見えずとも鈴鹿には視える。


 そして何を思ったか、山崎は鈴鹿に思いっきり抱き付いて叫んだ。


「鈴鹿様~」


「はわわわわ。こ、この痴れ者の愚か者が!」


 奴の身を案じ、油断していたので不覚にも避けきれずに抱きつかれてしまった。


 そして、鈴鹿はそいつを3発ほど死なない程度にどついて、うつ伏せになって転がった山崎の頭を思いっきりぐりぐりと踏みつけると、襟首を持って持ち上げて一通り罵っておいてから、荒縄で縛り上げた。


 だが、山崎にとってはその全てが御褒美であるかのようにトロンとした目付きになっている。


 まあ、しばらくすれば正気に戻るだろう。

 鈴鹿は頭を振ってスマホで宗像を呼び出した。


「おい、宗像。

 自衛隊に言って、この色ボケ野郎の山崎を安全なところまで連れていってくれ」


 ヘリは戦闘区域には降りられないため、少し離れた場所にヘリを呼び低空まで下ろさせて、霊装羽衣の力で一気に舞い上がると風に乗り、強引にヘリに山崎を押し込んで宗像に引き渡すとドアを閉めた。


 向こうの二体はうまい事、残りの二人のいるコンテナから引き離してくれたようだ。


「二人は戦闘が終わるまで、そこの中にいさせるか。

 その方が安全であろう。

 皆、外に首なんか出しておるなよ。

 好奇心は猫をも殺すぞ」


 鈴鹿はそう思い、滞空した。

 ここから隙を見て、極楽鳥のいる本体のガルーダを強襲する予定なのだ。


 所詮、本体憑きのガルーダとて、同族のよしみで体を貸しているだけの話。


 他の抜け殻どもと、その実体化した体がそう変わるわけではない。


 問題は、極楽鳥に憑かれている人間の魂だろう。

 あれは性質が悪い。


 何をやりだすものか、本当にわからない。

 怨念系、しかも人間の女は最悪なのだ。


「さて、友切丸。うまくやってくれよ」


 本来、友切丸はこの手の妖魔の相手に向いている。


 それで本体のガルーダに向かわせたのだが、ここは大事を取り鈴鹿本人が仕留めにいく。


 絶対に逃がすわけにはいかない。


 奴はこちらに背を向けている。

 友切丸がうまく誘導したのだ。


 こいつは霊体系だ。

 どうせ、後ろにも目があるに決まっているのだが、ここはスピード命でカバーするか。


 そう決めた鈴鹿は友切丸に命じて切りかからせた。

 その強大な爪で受け止め、少々背中は御留守のようだ。


「じゃあな、怪物君。

 もう迷い出てくるなよ」


 急降下する羽衣。

 そして神速で抜かれる鳴鈴。


 しかし、鳴ったのは金属音。

 金属同士が激突した大音響。


 あまりもの重量の襲撃に、吹き飛んだのは鈴鹿の方であったのだ。

 そして、その先へもう一発飛んで来た。


 羽衣に瞬時に強力な霊力を注ぎ込み、上空に逃れた。


 大音響と共に今まで鈴鹿のいた空間を『缶詰の蓋』が見事に転がっていった。


 縦横無尽に凄まじく動きを変化させながら、地面を派手に削り取っていく。

 誰だって、あそこにいたくはないだろう。


「ちっ。情落ちめ」


 飛んできたのは、鈴鹿の眷属に切り取られたコンテナの蓋だ。


 投げたのはもちろん、残りのガルーダどもだ。


 足で掴んだあの重量物を、まるで手裏剣のように使う。

 思ったよりもパワーがあるようだ。


 一枚で鈴鹿の斬撃封じに使い、もう一枚を時間差で投げてきたのだ。


 だが、それは鈴鹿を倒す目的ではなかった。


 残りの眷属剣が鈴鹿の身を案じ、その動向に気を取られた隙に、二体のガルーダは即座にその拘束から逃れ、飛んできて友切丸に襲い掛かった。


 さすがに三対一は分が悪かったらしい。

 あえなく友切丸は押されてしまった。


 この力の源は怨念の強さ。

 そこで間髪入れずに本体を憑かせたガルーダは離脱し、怨嗟の言を残し舞い上がった。


「おのれ、おのれ、卑しい鬼風情が我の邪魔をしくさりおって。

 ああ、愛しい人よ、どこにおわすか」


 そして、友切丸の霊的な戒めが解けたガルーダは虚空に逃げ去った。

 空間妖術を使われてはどうにもならない。


 こちらの手の内は知られてしまったので、もう同じ手は通用すまい。

 あれは賢すぎる。


「くっ。本体に逃げられた。

 ええいっ」


 瞬時に繰り出された二撃の鳴鈴の剣戟に、本体を持たぬ抜け殻のガルーダはその場で黒き煙となって消えた。


 所詮は本体なき幻影の如くの借り物妖魔。

 操る者さえいなければ、ダメージを受ければ即座に消滅した。


 霊剣・真剣でなければ切れぬようなのだが。

 やはり単なる物理兵器は通用しないタイプのようだった。


「おのれ、鳥風情があ。くっそおおお」


 悔しげに吼える鈴鹿の咆哮だけが、富士の裾野を無情に駆け抜けていった。


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