表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/55

1-10 決起大会

「ああ、一応、演習場は貸し切った。

 とはいえ、とりあえず一週間だけだな。


 国防に支障が出る。

 それまでに結果が出なければ、会場選定からもう一度やり直しだ」


 交渉に出かけて小一時間ほどで戻ってきた、何か酷くやつれた感じの宗像がいた。

 だいぶ無理を言ったので、プレッシャーが凄いのだろう。


 上は自衛隊に無理を言ったのだから、絶対に仕留めろと。

 政府は、ここまでやってやったのだから、必ず成功させるようにと。


 そんなところか。

 いつものダンディさが欠片も見えないそいつを見て思案する麗鹿。


「よし。今日はみんなで温泉に行くぞ」

「はあ?」


「な、何を言っているんですか、麗鹿さん。

 やっと罠を張る場所ができたんですよ」


「そうですよ、時間が無いんだ。

 一日、いや一分だって無駄にはできない」


 麗鹿は、すーっと息を吸い込み、それからフルボリュームで叫んだ。


「やかましいー!」


 いや、あんたの方がよっぽどやかましいだろう、と思いつつ耳を塞ぐ面々。


「そいつの体たらくを、よく見ろ。

 そんなんで、あの怪物とやりあえると思っているのか?


 命かかっているんだぞ。

 その辺の安い根性物語じゃあねえんだ。

 仕事なんだよ。


 これが、これから間借りする予定の自衛隊なら、きちんと体調管理するんだ。

 こっちもそれくらいしていかないと駄目だ。


 決着は一週間もかからないはずだ。

 駄目な時は一ヶ月あっても駄目だろう。

 これはそういう戦いだ。

 お前ら、絶対に死ぬなよ?」


 今までにも闇の者とやりあってきた超絶人外から指摘を受けて、思わず感じ入る物があったようだ。


 皆が指差された宗像を見たが、痩けた頬、そして隈がはっきりと眼の下にあり、髪も鯔背を遥かに通り越して完全にボサボサだ。

 もう全身隈なくボロボロの有様だ。


 彼も、もう青年とはお世辞にも言ってもらえない年頃、はっきり言って中年だ。


 熟年などという、お茶を濁したような言い方は、とうとう世間には浸透しなかった。


「そうですね。

 僕ら若者と同じじゃないですもんね」


「指揮官に倒れられちゃ叶わないですし」


「老人は労わらなくては。

 こう見えて、僕は敬老精神に溢れているんですから」


 若輩達の容赦ない労わりにプルプルと身を震わせる宗像。


「貴様ら~。

 ふん、お前らだって、あと二十年もすりゃあな」


「はっはっは。

 言っておくが、お前ら餌組も体調は整えておけよ。


 走り回るのは餌の役割だ。

 いやあ、囮役をやるのが、体が資本の刑事達で本当によかったなあ」


 それを聞いて苦笑いする若き刑事達。

 餌役なのは最初からわかってはいるのだが、改めてそう言われてしまえば言葉も無い。


 そして、タクシーで『都内の温泉施設』に向かった。


「はあ、都内でも天然温泉あるんですね」


 天然温泉と書かれた、爽やかな風にはためく幟を見て、薄ぼんやりとした事を言っている山崎。


「何を言っているんだ。

 都会のオアシスだぞ。


 地下から汲み上げた奴を加温しているだけだからな。

 ビルの中の温泉なんて都会じゃ珍しくもなんともない」


 中へ入ったら、会計は警視長殿にお任せだ。

 これは経費で落ちる。

 まさに必要経費という奴だ。


 上も、兼任業務の宗像に大きく負担をかけているのは承知の上で、強引に話を進めているのだ。


 他との調整は上の役目、出掛けには警視総監自ら玄関までお見送りで、封筒に軍資金を入れて送り出してくれた。


 指揮官がこの有様では部隊が機能しない。

 戦闘員の麗鹿だけでなんともならないから、このチームを組んだのだから。


「じゃあ、2時間後に外でなあ。

 お前ら、宗像をしっかりお湯につけて戻しておけよ~」


「ええい、俺はカップ麺かよ……」


 嬉々として温泉セットを片手にぶら下げて、笑顔で手を振り女湯に消える麗鹿。


 伝説の鬼切り鬼、鈴鹿御前は温泉好きであった。

 刑事などは職業柄、カラスの行水で終わりそうだ。


警視長おやっさん、今日は温泉に使って疲れを取るのも仕事のうちですよ」


「そうだな。

 そうするか」


 どの道、明日の戦闘は麗鹿に任せる以外に道はない。


 自分たちにできる事は、あの怪物がやってきたら、足手纏いにならぬように上手に逃げるなり隠れるなりする事だけなのだ。


 少なくとも、あいつをおびき寄せるところまでは、なんとしてもやらねばならない。


 湯船に浸かり、大きく息を吐き出すと、宗像が若者達に話しかける。


「お前ら、本当によかったのか?

 明日はマジで命がけだぞ。

 場所こそは自衛隊の演習場だが、明日以降は本物の戦場となるんだからな」


「今更、何を言いますか。

 私は警察官です。

 今回は参加できる人員には容姿での制約があるんですからね。

 適応している私らがやらんで誰がやるというんですか」


 何事にも卒がないタイプに見えて、意外と熱い新巻の一面を見て内心ではやや驚いた宗像。

 そんな素振りは噯にも出さないが。


「そうですよ、僕なんか日頃あまり目立つような功績は無いですが、こう見えてもこの国の首都の治安を預かる天下の桜田門、東京警視庁の一員なんですから。

 やる時はやりますよ」


「そうそう、走り回るような役割は俺達に任せて、宗像さんはどっしり構えていてください。


 いざとなったら、俺らで宗像さんの一人や二人、担いで逃げますよ。

 なあ、みんな」


「そうそう」

「任せておいてください」


 思わず熱い物が喉元にこみ上げてくる宗像であったが、そこは年季だ、軽く笑いで上官に対して思慕を表してくれた若者達にその気持ちを返す。


「はは、お前ら。

 そう年寄り扱いはするなよ。

 これでも走れる時には朝に4キロくらいは走っているんだからな」


「今回、4キロで済みますかねえ」


「さあ、富士は広そうだなあ」


「総合火力演習の会場ですからね。

 ネットで見た事はありますが」


 そんな男達の想いは、都会のオアシス、麗鹿が言うところの『ちょっと前の帝都』の地下から沸いたお湯に、ただ静かに静かに溶け込んでいくのであった。


「ダンジョンクライシス日本」、ハヤカワ文庫JAより書籍化決定です。

https://ncode.syosetu.com/n8186eb/


「おっさんのリメイク冒険日記」

 書籍4巻 コミックス1巻、好評発売中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=835217488&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ