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1-11 温泉にて

「ふう。いいお湯だったあ」

 頬を上気させ、体中からほかほかと湯気を上げながら、上機嫌な麗鹿。


 実は本人が温泉に来たかっただけなのだろうか。


 そんな事は無いのだろうが、他のメンバーにそんな風に思わせるほど、『千年女王』はご機嫌だった。


 誰が言い出したのか定かでは無いが、麗鹿の事をそう呼ぶ者達もいる。


 実際には、そこまではいかないのだが、それに近いくらいの齢は重ねてきた、時には神鬼とも呼ばれる妖しなのだ。


「麗鹿さん、長湯ですねえ」


「おう、鬼は長湯と決まっているんだよ」


 それを聞いた猪原が首を捻りながら言った。


「そんな話は聞いた事がないな」


「でも、鬼の湯なんて、どこでも耳にしがちな感じですよね」


「まあまあ、お前達。

 どのみち、目の前に温泉好きの鬼が現存しているんだから、それでいいじゃないか」


 そう言って宗像は、メニューを手に取った。


「麗鹿、何にするんだ?」

「酒」


 その一言に、全員が納得した。

 鬼といえば、酒。

 異世界で酒といえば、ドワーフ。

 現世では、やはり鬼か。


 神話にみるヤマタノオロチなども酒の逸話がある。

 ギリシア神話や日本神話などの神様も酒は切っても切れない。


 そもそも御神酒なんて言葉もあるのだし。

 神も含めて、人外にはやはり酒という事か。


「しかし、勤務時間中ですからマズくないですか?」


 みんな、キョロキョロと周りを見渡す。

 誰も気にしている奴などいないのだがら。


「いいの! 本日は全員休業~」


 そして、麗鹿は小さな声でボソボソと付け加えた。


「任務失敗なら、皆揃って墓の下で永久に休業なんだから、細かい事ぶちぶち言わない」


 全員が「うわ~」というような顔をしたが、冗談事ではないのだ。


 皆、諦めて飲む事にしたようだ。

 今日だけは、職場から緊急呼び出しを食らう事はないのだから。


 とりあえず、ビールが注文され、同時につまみも注文された。


「えーとお、まずはエダマメと冷奴だな。

 これは人数分御願い。


 あと出来るのが早そうな奴で、お刺身盛り合わせ5種盛り合わせ二つ。

 串焼きセット盛りに、タコ唐揚げ、烏賊げそフライ、オニオンリングに串カツ。


 それとローストビーフサラダに、オマール海老ビスク風コロッケに。


 お、エイヒレあるじゃないの。

 マヨネーズもたっぷりつけてね。


 やっぱりポテトフライは捨て難いよね。

 えーと、それから」


 もう他の人間が口を挟む余地など無いので、注文は彼女にお任せだ。

 注文を取りに来た店のお姉さんも笑っている。


 若い美人のお姉さんを横目で見送り、山崎が感心していた。


「いやー、たくさん注文しますね」


「何言ってるの、食わなきゃ戦えますかって。

 人間、いや人間じゃないけどさ。

 この数百年、何が楽しみって、やっぱり食道楽だよねー」


「そういうもんですか」


「まるで、爺さんみたいな台詞だ」


 そんな命知らずな批評をしているのは猪原だ。

 麗鹿にさっそく睨まれている。


 その一方で山崎といえば、すっかり麗鹿の浴衣姿に見惚れている。


「ん? なんだ、山崎ー。

 わたしに気があるのかあ?」


「ああいや、ただ色っぽいなあと思って。

 黒スーツ姿と全然違って」


「はっはあ、だから早く彼女を作れというのに。

 あそこの女の子達なんかどうだ。

 みんな女子大生だぞ。


 さっき、お風呂でバッチリ見ちゃったもんね。

 あの真ん中のスタイルのいい美人の子なんか、着痩せするタイプで脱がすと凄いんだからな!


 おまけに超美乳。

 まあ私の人外ボディには叶わないがな。

 お前らの代わりにバッチリと鑑賞してきてやったぜ」


「う、うわ~」


 思わず、そっちに注目してしまう若者三人組。

 山崎は、麗鹿と女子大生との間で視線が行ったり来たりだ。


「あ、何をやっているんですか。

 このリア獣新巻。

 幼馴染の彼女に言いつけますからね。

 そっちの彼女持ちも」


「何を言う。それとこれとはまた話が違う」


「そうそう。

 美しい女性は目で愛でられて、賞賛されるべき」


「警視長、ここにストーカー予備軍が」


「まあまあ。

 若いもんはそれくらいでいい。


 どうだ、山崎。

 あの子達に、本当に声くらいかけてきちゃあ」


「えー、警視長まで~」


「いいぞー、このナンパ野郎」

「死んでこい!」


 だがビールが届いたので、皆の山崎弄りはそこで終了した。


「麗鹿、乾杯の音頭をとってくれ」


「そうか。

 では、明日からの闇斬りと、今日のこの良きビールに乾杯」


 そして、グイグイと喉を潤す黄金の雫。


「プハ~。闇斬りかあ。

 僕達、明日は闇斬りに行くんですね」


「ああ、冗談抜きでな。

 何分にも相手が悪い。

 わたしが一番嫌いなタイプだ」


「それにしてもドロンと消えちまうのは反則だよな」


 荒巻がふと感慨を洩らす。


「ああ、でもまあ、妖しなんて本来はそのような者だ。

 それに比べて、鬼という物などは人に非常に近いものだしな。


 おそらくは元は人であり、しかして異形過ぎる者にはなりたくないという、妙に我儘な部分を残したのが鬼というものなんだろう」


 そして、うんうんと自ら鬼について解説してくれる麗鹿を見ながら納得して頷く皆。

 それを横目に、色っぽく、くいっとビールを飲み干す麗鹿。


「お姉さん、生中お代わり!」


 その後も、途中で飲み過ぎた麗鹿が少々乱れて他の奴に絡むとか、浴衣が際どくなってしまうとか、色々あったのだが。


 酒好きの鬼族にはありがちな事だ。


 麗鹿の浴衣のほぼ胸の辺りが全開に近くなってしまったので、山崎がそれをガン見していて他の二人から頭を叩かれていた。


 そんな光景を見ていると、これから妖魔と戦うという実感も思わず薄れてこようというものだが、この宴会自体が、その闇斬りのための決起集会のようなものなのだから。


 少し気が引き締まってきた宗像。


 この麗鹿の心尽くしの企画のお陰で、朝までの酷い状態で敵と合間見える愚は犯さずに済んだようだ。


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