二つの呼び声
午前中に吐くくらい調子悪かったのですが、治りました。何だったんだ。
「ミロさーん!どこですかー!」
洞窟の中で声を張るが、返事は返って来ない。ここまでは一本道だったのですれ違ったりはしていないと思うが、だとしたらどんなに遠くへ行ってしまったのだろう。…そしてこの洞窟はどこまで続いているのだろう。予め作成しておいた松明が、もう三分の一程度なくなっている。
段々と心細くなっていく。まるで松明の長さと比例するように、私の心は擦り切れていった。この先で何か、酷いことでも起きたのではないだろうか。もしかしたらミロさんはもう、…そんなマイナスな思考が、段々と私の脳内を圧迫していく。
「いたら返事してください!」
そんな最悪な思考を吹き飛ばすように、大きな声を出して先へと進む。すると、今度は返事が返ってきた。ミロさんの声だ、彼女も私の名を呼んでいた。急いで声の方向まで走ると、ミロさんは壁によしかかって座っていた。
「ミロさん!」
あぁ、良かった。外傷はない。本人も元気そうだ。私は手にしていた松明を床に置き、ギュッと彼女を抱きしめた。
「良かった、本当に、無事で」
「ごめんリコ。すぐかえろーとおもったんだけど、まよっちゃって」
「だから勝手に行かないでって言ったじゃないですか」
「ごめん…」
実際には一本道だったが、灯りのないミロさんは暗闇のせいで方向感覚をなくしてしまったのだろう。きっとそれで帰り道がわからなくなったのだ。
「さぁ、戻りますよ」
「あ、ちょっとまって。リコってあっちからきたんだよな?」
と、私が来た方向を指差すミロさん。
「えぇ、そうですけど」
「あっちからもさ、あたしをよぶこえがきこえるんだ」
あっちから?ミロさんが指差したのは私が来た方向とは逆の方だ。耳を済ませてみるが、私には特に何も聞こえない。
「…何も聞こえませんけど」
「えー?そんなことないだろ。たしかにぼやーっとしかきこえないけど」
「ぼやーっと?小さい声ってことですか?」
「たぶんそう」
耳に手を当てて目を閉じ、再び耳を済ませてみる。しかし私には、ミロさんの言う声というのは全く聞こえなかった。
「…うーん、気のせいじゃないですかね」
「そんなことないとおもうんだけどなー。ちょっとたしかめにいこーよ」
…確かにそこまで言われるとちょっと気になる。ミロさんしか聞こえないことを考えると、まさか洞窟の奥に魔族でもいるのだろうか。放っておいて大変なことになるよりは、確かめておいて対策を練った方がいいだろう。
「そうですね。確かめられるところまで行ってみましょう」
私は床に置いておいた松明を拾い長さを確認した。これくらいの長さなら、もう少し残っても大丈夫だろう。
空いた方の手でミロさんの手を握り、声が聞こえるという道を歩いていく。今のところまだ一本道だ。それにしても入口から大分歩いたと思うのだが、まだ奥にたどり着かないことを考えると、この洞窟は相当深いものらしい。
「ミロさんどうです?まだ声って聞こえてきますか?」
「うん。あいかわらずぼやっとしてるけど」
まだぼやっとしているのか。一体どれだけ奥でミロさんを呼んでいたのやら。
しばらく歩いたが、ミロさんを呼ぶ声の主は現れない。松明の長さも心配になって来た。この分だと、帰り道で灯りが切れてしまう可能性がある。
「…ミロさん、そろそろ引き返しましょう。灯りが」
「まって!リコ、あれ!」
そう言ったミロさんは、洞窟の奥を指差した。暗くてよく見えないが何か魔法陣のようなものが浮かんでいる。
まさか、この魔法陣がミロさんを呼んでいた?近づいてよく見てみるが、魔法に関してはさっぱりでよくわからない。
それにしても、何でこんなところに魔法陣があるんだろう。この前のように、魔法を唱えた魔族が近くにいるのが普通ではないのだろうか。辺りを見渡してみるが、魔族どころか生物が見当たらない。隠れられる場所もない。
「なんだかあやしーよな」
「えぇ。…一回外に出て、洞窟を埋めてしまった方が良いかもしれませんね」
この魔法陣から何か変なものが生まれるかもしれない。例えば魔族とか、炎とか風とか。そう考えると、この魔法陣がある空間を埋め、何が出ても大丈夫なようにした方が安全だ。
そうと決まれば一旦帰ろう。そう思い再びミロさんの手を握ろうとするが、気づけば周りに彼女はいなかった。
「あれ、ミロさん?」
その瞬間、魔法陣から放たれた光が私の視界と意識を奪った。




