忘れ物を思い出しまして
先週のオーブンレンジが届きました!今度は使えました!
「準備はできた、ということで間違いないですね?」
守護隊拠点から少し離れた森の中でミズキコウはおれ達を待っていた。それにしてもこの姿、魔族と普通に話すって言うのは違和感があるな。反射的に銃に手を伸ばしてしまいそうだ。
「あぁ、おれは問題ない」
「え、これって全員言わなきゃいけないんすか」
「オレも大丈夫だ、思いつくことは全部やってきた」
「結局全員言うんですね…。私も大丈夫です」
再度心残りを確認し頷くメンバー。それを見たミズキコウも一つ頷くとどこかに向かって歩き出す。未だミズキコウの外見に慣れないリコが、声に緊張を含ませながらその行き先を尋ねた。
「えっと、どこへ?」
「俺たちがこっちの世界に来たときに最初にいた場所です」
「あぁ、なるほどな」
それを聞いたディスが頷いた。そういえば聞いたことなかったが、こいつらってどんだけ長い付き合いなんだ。魔界から来た時から一緒だってんなら、相当長い付き合いになるんじゃないか。
「それで、そこから魔界へ行けるってことなのか」
「でも、どうやって?」
「そもそも魔族ってどうやってこっちに来ているんすか、急に現れるってことは知ってますけど」
キドが言っていることに、おれも疑問を持っていた。奴らは突如としてこちらの世界にやってきて人間を襲っている。前兆も、法則もなくだ。だからあらゆるところに監視カメラやセンサーなどを設置して異常がないか監視し続ける必要がある。予兆が見えなくば、いつまでもこの原始的な手段に頼るしかないからな。
「確かに、こっちに来るときの場所を俺たちは選べません」
「は。ちょっと待てよ」
それだったらお前たちがこっちに来た時にいた場所に行ったところで何の意味もないんじゃないか。そう言いかけたところで、ミズキコウは先ほどの話を続けた。
「ですが、場所を選べないだけで魔界とのつながりはあります」
「つながり?」
「えぇ」
そんな話を続けていると、やがてその魔界からやってきたという場所へたどり着いた。青々とした緑に囲まれた、自然豊かな場所だった。ディスの方を見ると、どこか懐かしさを感じているような、感傷に浸っているような顔をしていた。
「では、ちょっと待っていてください」
そう言うとミズキコウはおれ達を下がらせ、宙に向いて何か詠唱のようなものを唱え始めた。魔法か、今まで発動しているところしか見ていないから、過程を見るのは新鮮だな。そしてしばらくその様子を見守っていると、ミズキコウが見ている空間に大きな黒い陣が浮かび上がる。
「やっぱり。明確な目印がないだけで、こっちの世界と魔界の繋がりがあるみたいです」
「ってことは、あれをくぐれば」
「えぇ、魔界に行けます」
あれが魔界への入り口。随分とそれっぽい、おどろおどろしいデザインじゃないか。
「あれは俺の魔力が生み出したものなので、俺があそこをくぐった瞬間に魔力が失われ消滅します。皆さん、先にどうぞ」
「あぁ」
先陣を切ったのはディスだった。迷いのない歩みだ。それに続いてリコ、キドが歩みを進めた。残ったのはおれ一人だ。
「隊長」
歩みを促すように、ミズキコウが声をかけてくる。あぁ、わかっている。準備はしてきた。覚悟もしてきたはずなんだ。だが、なんでかな。ここに来て足が動かないんだ。なんとも情けない話だ。
「行かないという選択肢もあると思いますが、どうしますか」
ミズキコウの言葉がおれの心を動かす。
何で、今更になって悩み始めているんだろうな。ちょっと前に決めたじゃないか。ミロを取り戻すと、生きて枯れる保証はないがそれでも向かうと。リコに足を引っ張るなとか言っておいて、何やってんだおれは。
「気持ちはわかる、と思いますよ。この前も言ったように生きて帰れる保証はない。死にに行くようなものだ。誰だって」
「死ぬのは怖い、か」
「えぇ、その通りです。俺は多分、誰よりその恐怖をわかっているつもりです。だから」
だから残る、か。
──残ったところで何になる。
戦いは続くんだ。安全に生きることなんてできはしない。
──じゃあ、戦いからも逃げるか。
逃げた先に何がある。平穏な世界か?馬鹿か、そんなのあるわけがない。
大体守護隊に入ったときから決めていたじゃないか。この時代、いつ死んでも仕方がない。ならば命を散らすそのときまで、誰かを守るために戦うと。それに、これだけたくさんの命を巻き込んでおいて何を言っているんだ。
「隊長は残ってもいいと思いますよ。死ぬ覚悟ができる人の方が少ないんです」
「覚悟、か」
忘れていた。いつか決めていた覚悟を。
そうだ、ずっと前にできていたんだ。戦う覚悟も、死ぬ覚悟も。だから進める、戦うこともできる。
「気遣いサンキュ。覚悟はできていたからな、大丈夫だ」
ミズキコウに聞こえるようにそう言って、おれは魔法陣に向かって歩き出した。先ほどまでの動かない足とは違う、踊るように、軽やかな足取りで。




