鎧の中に真実はある
傷口は何でもかんでも消毒するものなんだと思ってました。違う場合もあるんですね…。
何でお前がこんなところで暴れているんだ。一体、何の目的で。
答えの出ない疑問がぐるぐると頭を巡っている。しかし、考え事をしている時間はない。一先ずこの場を何とかしなければ。
撤退か?撃退か?
「くそっ」
ミロを抱えたまま、血生臭い鎧に向かって拳銃を発砲する。一応鎧の関節部分に向かって銃弾を撃ち込もうとするが、流石に距離が空いてるのもあって命中させることはできなかった。鎧は銃弾を弾き、ただ凹むだけで終わる。
寧ろ、ミズキコウと思われる鎧は今の発砲を基に、正確におれのいる位置を認識したようだ。奴は顔をこちらに向けると同時に、正確にこちらへ向けて駆け出した。
「マジかよ!」
「隊長、下がって!」
声の主を理解する前に、そいつは前線に飛び出した。リコだ。振り落とされた拳を剣で受け止め、鍔迫り合いのような状況となっている。
「…何で、あなたが!こんなところにいるんですか!?」
鎧は、これが答えだ、とでも言うかのように足を大きく振り上げた。突如襲いかかる下からの攻撃に反応が遅れたリコは、その足蹴りを避けることができなかった。
鎧の攻撃はまだ終わらない。蹴りによって浮き上がったリコの体を掴みそのまま地面に叩きつけようとする。それを防いだのは、突撃してきたイオマだ。
手にした鎗で一直線に突っ込むイオマは、その攻撃のわかりやすい軌道からか突撃をかわされてしまう。
しかし、避けられた直後にイオマは地面へ鎗を指し、その鎗を軸にして回し蹴りを放った。これには鎧も予想外だったのか、避けることはなくまともに蹴りを食らい、掴んでいたリコを落とすほどに態勢が揺らぐ。この好機を逃すわけにはいかない。
「ディス!」
叫び声と同時に、ディスが手に装着したグローブで鎧に殴りかかった。特別な合金でできているそのグローブで殴られた鎧は吹き飛ばされ、遠くにあった木の幹に衝突する。
「キド、ディス、イオマは継続してあいつと闘ってくれ。おれはリコとミロの治療を優先する」
「了解っす。なるべく早くしてくださいね!」
キドは返事とともに、小型の救急箱と車のキーを放り投げてきた。車のキーまで渡してきたと言うことは、最悪おれたちだけでも撤退しろということなのだろう。縁起でもないやつだ。
一先ずリコの手首を握り脈を確かめてみると、問題なく動いていた。胸の部分は微かに上下しているため、呼吸も問題なさそうだ。あの蹴りによって気絶してしまっただけだろう。
問題はミロだ。血まみれで傷だらけの姿が痛々しい。一体どんな戦いをしたらこんな姿になると言うんだ。
「ミロ、痛いと思うが我慢しろよ」
傷口を洗い流すようの洗浄水をかけ、その上から包帯でぐるぐる巻いていく。基礎の応急処置のやり方は教わっているためそれに則って処置を進めていくが、こういう時は医療班がいてくれたらもっと的確な対処ができるのではと思う。
無い物ねだりをしても仕方がないため、ひたすら傷口の洗い流しと包帯巻きを続ける。やがて包帯まみれのミロが出来上がり、リコとともにあたりの木陰へと担いで行った。本当は放っておきたくないが、今は事態が事態だ。一刻も早く、あの鎧を倒さなければならない。
逸る気持ちを抑えつつ、鎧へ向かったキド達を追いかける。彼らはまだ戦いの途中だった。しかし現状は圧倒的に圧されている。
鎧はイオマの鎗の柄を掴み、それを手にとって半分に折った。更にキドが放った狙撃銃の銃弾を手づかみで防ぎ、粉々に握りつぶす。ディスの攻撃は全てかわされており、最終的に足払いをかけられてディスは転ばされてしまった。
一方的だ、こんな奴に勝ち目なんてあるのだろうか。
一つの絶望がおれの心を染めていくとき、代わりに耳元で風を切り裂く音が聞こえた。聞いたことある音だ。ついさっき戦った影よりも、もっと速い。
「人のもの盗んで、勝手に暴れ回るなよ」
これも聞き覚えのある声だった。声の主の方へ目を向けるが、そこにいたのは人間ではない。ギョロリとした目に、ギラギラと輝く鱗。
竜人。
…おれがミズキコウの正体と睨んでいた、あの竜人だ。
「あらら、どうしてわかったんだ?オレがここにいるって」
「お前の目的はわかってる。それさえわかれば簡単だ」
でも、だとしたら。この鎧の中身がミズキコウじゃないのなら。
この鎧は一体誰なんだ。




