思い出の中で
ゴールデンウィークの予定がまだ決まってない人間。早く決めて新幹線なり飛行機なり取らなくては…。
何なんだよこれは。
辺りを見渡して絶句する。元々は白を基準としているはずの部屋だと思うが、その部屋が床の方だけ真っ赤に染まっているのだ。
何かの祝い事をしていたのだろう。テーブルには豪勢な料理が食べかけのまま残っていた。火が消えたロウソクが立っているケーキを見ると、そこには『お誕生日おめでとう』のメッセージカードが飾られている。ロウソクの数からして子供の誕生日だろうか、しかしざっと見渡してみても子供は見当たらなかった。
「おい、誰か生きている奴はいるか!」
大声で叫び、呼びかける。応答はない。
「おーい!生きている奴はいるか!?」
呼びかける。応答はない。
「おい!!」
応答は、ない。
「…全滅かよ」
ざっと見渡しても20人は死亡している。皆が皆苦痛の表情を浮かべて、元の姿もわからないほど腫れ上がった体となっていた。
一歩歩くごとに水音が聞こえる、血の湖に足を突っ込んでいるせいだ。ヌルッとした感覚が足にまとわりついて気持ちが悪い。何人かの肩を叩き、胸の動きと脈を診て無事かどうかを確かめてみるが無事な奴は一人もいなかった。
やがて一人の男性にたどり着き、その人を起き上がらせて脈を図ろうとすると、その人の体の下に少女が隠れていた。目は閉じているが、胸が上下している。もしやと思って脈を確かめてみると、トクントクンと動きが感じられた。
「おい、しっかりしろ!」
肩を叩いて大きな声で呼びかけてみる。最初は反応が全くなかったが、次第に閉じられた瞼が動いているのが見えた。間違いない、生きている。
「おい!」
その呼びかけで瞳が開く。虚ろな目をした少女はおれを見て一言呟いた。
「お父さん?」
父さんだと?
少女は周りを見渡し、自らの父親を探している。そして隣の男性に顔を向けると、一瞬顔がパッと明るくなった。
「お父さん!」
「あ、おい」
スルリとおれの腕を抜け、湖を突き抜けて自らの父親に会いに行く少女。だが、ここで少女を留めておくべきだった。何故なら次の瞬間。
「お父さ…」
父親に触れた少女の表情が絶望へと染まっていったからだ。
「うそだ、うそだ…」
首を振り、目を閉じて、現実を否定する少女。しかし、いくら否定しても現実は変わらない。次第に涙が枯れていくと共に、彼女の心も乾いていく。
と、その時カラカラと軽い音が聞こえた。骨が地面に落ちるような音だ。まさか。
「くそッ来やがったな!」
振り向きざまに家の入り口に向かって銃口を向けた。この町を襲っているスケルトンの群れがここに戻って来たのだろう。一体奴らはどうやっておれたちがいるところがわかるのだろうか。
「おい、逃げるぞ」
数発の弾丸をぶち込み、入ってこないよう応戦しつつ逃走を促すが、少女からの返答はない。聞こえていないのか?そう思い再び大きな声で呼びかけるが、やっぱり答えは返って来なかった。
「おい!死にたいのか!」
「…死んでもいいかも」
「何?」
小さな声だが、しっかりとそう聞こえた。思わず手が止まってしまったことが仇となり、その隙に三体ほどのスケルトンがこの家に踏み込んでくる。
「あ。…くそッ」
少なくとも民間人に被害を出すわけにはいかない。そんなことをしたら降格してしまうし、何より後味が悪い。ここはこいつの意思を無視してでも連れて帰るしかない。
おれは少女を抱きかかえ、スケルトンを端の方へ来るように誘導して逃げる用意をする。しかし、肝心の少女がバタバタと暴れ、中々タイミングが見出せない。
「バカ、邪魔すんな!」
「放っておいて!お父さんと一緒にここで死にたいの!」
そう言って再び腕の中から抜け出そうとする少女だが、今度はしっかりと抑え込んでいたこともあり、逃すことはない。
「離してよ!」
「離すわけねーだろ。良いから大人しくしてろ!」
暴れる少女を落とさないように力を入れて抱えつつ、ギリギリまでスケルトンを誘導したところで全速力で外まで駆け抜ける。自分一人だったら身を隠す家具などがある家の中で戦った方がやりやすいが、守りながら戦うのなら話が別だ。特に、こいつと一緒だって言うなら。
「もう良いでしょ、離してよ…」
「あのな、一つお前に言っておきたいことがある」
「…?」
キョトンとした表情を浮かべる少女を地面に下ろして目線を合わせる。
「お前の家族がどういう人間だったのかは知らない。だがな、お前の父さんは命を懸けてお前を守ったんだろ」
「…うん」
「ならお前の命には、その父さんの命の重さが含まれている。そのことを忘れんな。お前を守ってくれた人のことを絶対に忘れんなよ」




