だってそういうものだから
生まれて初めて一人で服屋に行きました。周りがナウでヤングなイケてる人たちだらけでした。正直しばらく行きたくないです。
魚人の戦闘力は他の人型の魔族と比較してそこまで強くないと思う。見た目においても魚に手足が生えているだけで、気持ち悪いとは思うが生理的な嫌悪感を感じるほどではない。酷い匂いのゾンビたちよりよっぽどましだ。では何故ミロが手こずっているのかというと。
「ギョエェェ。ギョエェェ」
始まった。
例の間抜けな鳴き声と共に、一匹の魚人はその体をくねくねとうねらせて海へ飛び込んだ。まるで逃げ出したかのようだ、そうであれば楽なんだがな。そんなおれの思いもむなしく、水面が大きく揺れている。来るぞ。
「うぉっ」
水飛沫とともに海辺から飛び出してきたのは、さっき飛び込んだ魚人が連れてきた仲間たちだ。その数ざっと十体、これが何度も続くものだからたちが悪い。対処法は二つ。一つ目はさっさと全員倒してしまうこと、二つ目は誰も飛び込ませないことだ。一対他数ならそれも難しいだろう。だが今はこれだけの人数がいるんだ。全員で協力すれば倒せる。
ミロとキンが相手している魚人達の意識を反らすように、おれは魚人達に向かって銃を乱射する。倒せるのならば倒してしまいたいが、魔族たちは強固だ。まだ奴らを一撃を倒せる弾丸を用意していない以上は、ミロに攻撃を任せた方が得策だろう。
「うおぉぉぉりゃあぁぁぁ!」
無言で次々に魚をさばくミロの横で、キンはがむしゃらに飛び蹴りを食らわせていた。その一撃は重く、攻撃を食らった魚人は吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がり、やがて気絶したように動かなくなった。初の実戦だというのに随分と成果を上げている、これは給料アップだろうな。
そうして戦っているうちに、着々と動ける魚人の数が減ってきている。周りを見てもあと指折りで数えられるほどしか残っていない。あと一息だ、一気に決めてやろう。おれは予備の弾倉の中で特別な──くすねてきた弾丸が入った弾倉を拳銃にセットした。
──じゃあ、試してみるか。
照準をくねくね動いている魚人に合わせ、一つ小さい深呼吸。気持ちを落ち着かせたところで、トリガーを引いた。放たれた弾丸は直線を描き、やがて標的にたどり着く。たどり着いた弾丸は最後に大きな火薬の花を咲かせた。
「ギョエイッ!」
二重爆裂弾。
イオマが開発中の二種類の火薬を調合した弾丸だ。細かい仕組みはもう覚えていないが、着弾したときの衝撃が通常の弾薬の二倍だということだった。実際に二倍となっているかはわからないが、今までの弾丸と威力が違うのは確かなようだ。こっそりイオマの開発室から開発中のものをくすねてきたが正解だったみたいだな。
続けて二発、三発と二重爆裂弾を魚人に打ち込んでいく。やがて焼き焦げたかのように赤黒く染まった魚人がそこに倒れ込んだ。たった三発だけで倒すことができるのか。これは早急に開発を進めたいところだな。残りの弾丸は五発。だが、使い切る前に勝負の方がつきそうだ。
「あぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」
ミロの咆哮がここら一体に轟く。勝利の雄たけびというものなのだろうか、ミロは魔族を倒しきると叫んだあとにその骸を貪りはじめるのだ。あぁ、また口の周りを汚していやがるな。仕方がない、拭いてやるか。そう思って懐からハンカチを取り出したとき、急にミロが立ち上がった。その口からは魚人の指が飛び出している。
「ミロ?」
ミロはくちゃくちゃと指を咀嚼しながらおれに近づく。その眼に光は入っておらず、うつろな目だった。
「たりない」
何がだよ。そう言いたかった。
口が動く前に、ミロはおれの胸元目掛け拳を突き出すのが見えた。すんでのところで体が動き、かわすことができたが。
「危ねっ!?」
「たりない」
二撃目が飛んでくる。姿勢が崩れたおれはミロの足払いを素直に食らってしまい、その場ですっころんでしまう。その隙をミロは逃さない。ミロは倒れたおれの上に乗ると、おれの手首を掴んでそのまま指を口に近づけた。
「ごめん、ちょっとだけ」
──いただきます。
そう口が動くのが見えた。




